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新兵器

今日もはじまり、はじまり


 『我が後裔の策が成るまで、ここから先は通さんぞ!!』


 二刀を構えた勇神が独楽の如く回転し土甲熊に躍りかる。

 もとより鉈のように分厚いゴーレム用の剣は切れ味など二の次の質量兵器、巨神の腕で振り回せばその先端速度は音速にも迫り、刃筋など考えずとも叩きつけるだけで城壁すら打ち砕くのだ。


 ギャリギャリギャリギャリギャリィィィィ!!!


 意思を持った丸ノコのようになった勇神は振り下ろされる魔獣の爪を弾き返し、土の鎧を木くずを散らすが如く削り取ってゆく。

 すぐさま再生する鎧が固まりきらぬ間に次々と剣閃を打ち込み、時に柄撃ちや蹴りを織り交ぜて敵の前進を阻む。

 

 「操者席閉鎖隔壁機動! 魔法光充填開始!! あと30!!」


 勇神の背後で武器を手放し、両肩の装甲をスライドさせて変形するアイリス機。

 スズメバチを思わせる赤い肩アーマーの奥から姿を現したのは鳥追いの目を模した巨大なレンズ。

 顔の前で腕を交差させ、動力をフル稼働させて秘策に備える401式は鈍いうなりをあげて、装甲の下の魔法光をレンズに集めた。

 

 グギャオオオオ!!


 武器を持った勇神の攻撃に僅かな脅威を感じたのか土甲熊は四肢を地に着いて、足下の土を吸い上げるように吠えた。

 鎧というよりはまるで雪国のかまくらにも似た土饅頭に姿を変えたそれは、ぼこぼこと波打ち不気味に震動する。


 ゴオオオアアアア!!


 ハラワタを振るわす絶叫と共に、土甲熊が放ったのは無数の刺!!

 泥の変じたそれは魔獣の全身からウニの如く、あらゆる方向へと伸びゆく殺意の表れ!!

 

 『あと20!! っ!?小癪な!!』


 まるで刺自体に目があるかの如く蔦のように、あるものは槍のように伸び迫り自身を狙うそれを、勇神は両手の剣で切り払う。

 一本たりとも背後のアイリス機へ向かわぬように、巨神の振るう刃は竜巻の荒ぶり!!


 ブゴオオオオアアアウアア!!


 『でいやああああああ!!』


 邪悪な咆吼に乗って迫る刺を切って斬って払って砕いて、時にはその身に受けて押されても、勇神の回転は鈍らない。

 鞭のように残像を引いて攻撃をいなし続けた剣はいつしか赤熱し、勇神の吹き出す青い魔法光と混じって虹の繭にも似た暴風圏を形取る!!


 バキン!! ガキキィ!!


 遂に限界を迎えた二降りが悲鳴を上げて散りゆき、リーチの減った勇神を押しつぶそうと密度を上げた刺が四方から襲いかかる。


 「ああ、剣が!!」

 「勇神様!!あと10です!!」

 「姫様、やはり我らも!!」


 『ナマクラめ!!これだから刃物は好かん!!』


 無手に戻った勇神だったがその動きはさらに冴え渡り、次々迫る土の刺を拳で打ち砕き蹴り払う。

 粉砕した土が散弾の如く他の刺を巻き込み、攻撃の密度を逆手に取った防御戦は勇神の独壇場となった。


 ブキイウウガアオオアアアア!!


 ついにしびれを切らしたのか、刺を操る土甲熊がよだれを流し怒りをあらわにして、本体も攻撃に参加しようと立ち上がり吠える。

 全身から触手のように刺を蠢かせる様は異形の邪神を思わせるおぞましさ。

 その視線は勇神と背後のゴーレム達とを射すくめ、殺意をむき出しにして憚らない。


 「前へ出るな!!お前達は盾の陰へ!!」


 アイリス機の後ろから飛びだそうとした辺境軍を制止して、アイリスは勇神への合図を計る。


 「あと4……」


 「3!!」


 「2!!」


 『1!!』


 「撃ちます!!」




 ―――――グワッ!!!!



 瞬間、世界から色が消失した。



 昼間でありながら辺りは白一色に染め上げられ、その場にいた者は爆音に耳を撃たれて我を失う。

 アイリス機が両肩のレンズから稲妻を至近で炸裂させたかのような、強力な閃光を放ったのだ。

 咄嗟に身を伏せた勇神のいた場所を閃光が薙ぎ払い、アイリス機の背後で辺境軍が並べた大盾が震動を無効化する為に、激しく魔法光を放って明滅した。


 ゴーレムは人を殺傷出来ない。大量破壊兵器を扱えない。

 全てのゴーレムは勇神の意思をコピーした制御コアによって火砲の類いを搭載する事が出来ず、例えば火の付いた油壺を投げようとするだけでも操者の意思を拒絶し停止する。

 勇神自身が扱う大勇神を除いて近接武器しか持たぬのは、彼が子孫たちが互いに傷つけあう事を良しとしなかったため。

 ゴーレムとは牙持たぬ人類が魔獣と戦い大自然に挑む為に貸し与えられた守護神の分身であり、ゴーレム対ゴーレムの例外を除いては人同士の戦いに用いる事は出来ないのだ。


 しかしながらアザレア博士が酔っ払いをゴーレムの足止めに使ったように、その機能を熟知する者に対しては時に驚く程低コストかつ馬鹿馬鹿しいやり方で行動を阻害される事もあるため、基本的にゴーレムは随伴騎士とセットで運用しなければならない。

 万が一暴徒化した流民が大量に流れ込んで来たり、敵国の奇襲によって機体の足下を歩兵で埋め尽くされてしまってはゴーレムは為す術が無いのだ。

 人間の多い王都を守護する騎士団にとってゴーレム運用の最たる難点あったそれに対し、アイリスの401式は先の事件からの反省として超絶に強力な「非殺傷兵器」が試験的に搭載される事になった。

 雷光鏡と名付けられたそれは衝撃転換装甲が発散する魔法光を一点に集め、両肩のレンズに収束して爆音と共に放つ超巨大指向性スタングレネード。

 チャージに時間がかかるものの一度放たれれば閃光で街一区画の敵兵士を無力化し、遮蔽物があっても爆音で聴覚と平衡感覚を破壊する対人間特効兵器なのだ。


 無論魔獣相手の使用は想定していないものであるが感覚の鋭い土甲熊には覿面であったらしく、身を屈めた勇神に躍りかかろうと立ち上がった所を閃光で目を灼かれ、魔獣はまるで人のように顔を手で押さえて悶え苦しんだ!!

 

 ギャギャウウウウウ!!


 魔法に集中する事が敵わなくなり、全身に纏った刺と鎧をぼろぼろと零して身をよじる魔獣に、勇神の冷たい声が降る。

 

 『参る……!!』


 山となって魔獣の下半身を埋めてしまった土の鎧の残骸を駆け上がり、土甲熊の胸の中に飛び込む勇神。

 上下に並べた両手の拳を敵の左脇腹に突き込み、円を描いて引き抜きながら肉の中の肋骨を粉砕する!!


 ドドォ!! バキィ!!

 

 グギャアアアアアオオオオ!!


 初めてダメージらしいダメージを受けた土甲熊が目を閉じたまま爪を振りかざして出鱈目に暴れる!!

 しきりに鼻をひくつかせて勇神を探ろうとするが、戦場に満ちた刃角鹿の血の匂いが強く前脚がえぐるのは土ばかり。

 すでに身体二つ分距離を開けた勇神は顔の前に拳を構え、体を入れ替え二三度ステップを踏むと、魔獣の左脇腹に再度隙のできた瞬間に矢のような速さで跳び蹴りを放った!!


 『久々の!!勇神キイィィック!!』


 ドゴォ!! バキョリ!!


 グウエッ!! ガアアアア…………


 深々と打ち込まれた勇神の脚とそれによって押し込まれた肋骨に貫かれて、土甲熊の心臓が破壊され巨獣が動きを止める。

 あらゆる武器と勇神の拳を撥ね除けた巨獣の肉体は、自身の体内に造られた凶器によって遂に最期を迎えたのだ。


 ゆっくりと着地する勇神の前に、だらしなく顎を開いた土甲熊は膝から崩れるようにしてその身を横たえた。



今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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