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難敵

今日もはじまり、はじまり


 勇神は王国の守護神である。


 初代国王の人格を宿し、死者の魂を吸収し、魔獣と戦い世界を切り拓いてきた巨神である。

 先人の英知と勇猛さ、慈愛をたたえたその目に見通せないものはなく、白磁を思わせるその身体は破壊不能の代名詞である衝撃転換装甲に覆われて、あらゆるゴーレムよりも堅牢で素早く力強い。

 彼は時間と共に蓄積した無数の戦術と武技を使い熟し、歴史書とさえ呼ばれる程に知識を積み重ねて、これまで悉くの障害を打ち破り人々を護り抜いて来たのである。


 しかし――!!






 『相性が悪い』


 土の鎧を纏って質量を増した土甲熊に、勇神は歯がみする。

 無敵の装甲と膂力をもって挑んだ戦いに、彼は何一つ手傷を負ってはいない。

 だが彼の拳も魔獣に通る事がなく、更に防御力を上げた相手に決め手を欠いた千日手を迎えようとしていた。


 土甲熊の動きは重く遅いが、万一にでも直撃を貰えば勇神はともかくゴーレム達はただではすまない。

 取っ組み合って粘りに粘ればいつかは森に追い返す事は可能だろうが、獣の目的は勇神達が仕留めた刃角鹿。

 熊類は一度眼を付けた獲物を諦める事はなく、縄張りから食料を持ち出す相手を何処までも追いかけて取り戻そうとする習性がある。

 今回の収穫を困窮する領民に配給する為には、この乱入者を討ち果たすしかないのであるが……。


 「初代様!! 先ほどの攻撃を!!」


 盾を構えたアイリスの赤い新型が大きく踏み込み、大振りの爪を躱して魔獣を剣で切りつける。

 勇神が刃角鹿を打ち倒した超精度の拳打を当てようと、魔獣の意識を自分に向けようと動いているのだ。

 立て続けに振るわれる分厚いゴーレム用の剣は土で出来た甲殻を削りはするものの、その下の毛皮にまでは届かない。

 巨躯と怪力を備えた魔獣でありながら防御特化の魔法を会得した土甲熊はおよそドラゴン以外の天敵をもたず、窮鼠猫を噛むが如き一撃必殺技を持つ必要が無い。

 相対する殆どの生物を蹂躙し、満足いく食料を得るに充分な力がある彼らは、その捕食活動を邪魔する何者かの煩わしい反撃を意に介さないで済むよう土の鎧を纏うのだ。

 時には匂いと足跡を魔法で消し、獲物を待ち伏せするという狡猾な一面もあるにはあるが、敵が疲弊するまで追跡し必ず目的を遂行する熊類に相応しい使い方はやはり力に任せた前進。

 作戦のために槍さえ持たずに出くわしてしまったゴーレムにとって、これほどの難敵はそうそうあることではなかった。

 

 『ふんむ、先ほどから試してはおるよ。と言うか相当数喰らわせておるのじゃが……』


 「ええ!?」

 「何と!!」

 「ご冗談を!!」

 

 入れ替わり立ち替わり魔獣を攻撃していた辺境軍のゴーレム達が、勇神の方を一斉に向いて驚く。

 対魔獣に特化した重ゴーレムでも土甲熊を押し返す事が難しく、作戦に合わせた軽装しか持たないゆえに三機掛かりでも勇神の火力に届かないのだ。


 『冗談など言うものか、見ておれよ!』


 一同の注目が集まった勇神は魔獣の注意をも引いたらしく、土甲熊はぐわうと吠えると正面の彼を大きな前脚で殴り付けた。

 風を切って迫る魔獣の前脚をいなしながら、勇神は身体を回転させてカウンターの肘撃ちを放つ!!


 『でいやあぁぁ!!』


 魔獣の胴体に遠心力の乗った肘が当たった瞬間腕を伸ばし、そのまま裏拳からの身体を返して逆の手で脇腹に正拳突き!!


 『まだ終わらんぞ!!』

 

 次いで魔獣が降り戻した腕を反り身になって躱し、懐に滑り込むような下段蹴りから伸び上がるようなアッパーカット、そして相手の膝を踏み台にして跳躍した膝蹴りまで決めるが、全て魔獣の鎧を破壊しただけに終わった。

 確かに連撃の瞬間、巨神の体から放たれる魔法光は不気味なほどに消失し、戦いのリズムに合わせて激しく明滅している。

 しかし土の鎧、鋼の毛皮、肉の壁とを突破するには威力が、重さが絶対的に足りないのだ。

 勇神の打撃は土の鎧が破壊される事で運動エネルギーを吸収され、破砕とともに分散されて内部まで侵徹する事がない。

 崩れ落ちる土の鎧は次々と、樹液にたかる蟻の群のように毛皮の表面を這って再生されて行く。

 

 『な?』


 膝蹴りの反動から後方に下がり、バク転を挟んで構え直す勇神。


 「な? じゃないでしょう初代様! 何か手はないのですか!」


 頼みの綱の勇神がじりじりと押し込まれて行き、不安に駆られたゴーレム達を代弁してアイリスが叫ぶ。

 彼女のゴーレムも果敢に戦いを挑んでいるが、騎士団の技術の粋を集めた新型もやはり土甲熊の防御力を上回る事が出来ず、勇神と合わせて距離を取った。


 「こん畜生!!」

 「辺境軍なめんなオラァ!!」

 「もう帰りたいぃぃ!!」

 

 もはや剣を捨て、両手で衝撃転換装甲の大盾を構えた辺境軍のゴーレムが魔獣と勇神の間に割り込み、その侵攻を妨害するだけに注力する。

 重機ゴーレムにも似た無骨な関節からまばゆいばかりの魔法光を放ち、振り回される前脚を受け流し鼻先を押さえるが、防戦一方では状況は好転しない。

 朝からゴーレムを操縦している搭乗員の体力も限界が近いのか、気勢にも泣き言が混じって自棄になっているようだ。

 這い進む小山ともなった土甲熊の位置は、既にその目標である魔獣の死骸まであと僅かとなってしまった。

 

 『余程腹が減っていると見えるなアレは……せめて鎧を剥がさんことにはどうにもならぬわ。奴が魔法を使い続ける限りは衝撃転換装甲と同様か、再生可能な分だけ厄介なものが備わっておるからの』


 「魔法、ですか……あれが無ければ、初代様は奴を仕留める事が出来ますか?」


 『十のうち八か九はな』


 「残り一か二が出ましたなら?」


 『その時はその時、また最善手を考えるまでよ。前から思っておったがお主はアレックスが居らぬと弱気になるのう』


 「そのような事はありませぬ!あ、あるわけ無いじゃないですか! 何を仰るのですか全く、こ、このお爺ちゃんは!! はぁぁあああアレックスとか全然関係ねーしざっけんなよジジイ!!」


 『はっはっは!その意気があれば善し。 アイリス、策があるなら儂は乗るぞ。遠慮はいらぬ』


 分かりやすくゴーレムごと慌てふためくアイリスに、勇神は不敵に笑ってみせる。

 戦場にあっても余裕を失わない様は、彼がゴーレムであるからか。


 「んぬぬぬぬぅ! 後で覚えておいて下さいよ! ええい!辺境軍の三機は後退して防御線を組み直せ!!」


 おそらく操縦しながら真っ赤になっているであろうアイリスが、振り切れたかのように指示を飛ばす。

 

 「「「了解しました!!」」」


 「初代様は私が合図をするまで奴の鼻先を此方に引きつけて下さい! 40数えた後に奴の鎧を剥がします、射線に入らぬようご注意を!!」


 『心得た!!』


 左右に分かれて二機の後方に下がる辺境軍の中央を、前傾姿勢になった勇神が駆ける。

 白い装甲に泥が跳ねるのも厭わず土甲熊の正面へ、注意を引く為に大仰に、辺境軍のうち捨てた片手剣を左右の手に拾い、歌舞伎役者のように見栄を切る!!


 『仕切り直しだ災害魔獣!!我が後裔の策が成るまで、ここから先は通さぬぞ!!』


今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。


東日本大震災から8年、被災地の方々、避難先の方々にお見舞いを申し上げるとともに

犠牲者の方々に心よりの哀悼を捧げそのご冥福をお祈り申し上げます


私は熊本地震を体験し生家を失い、その時の恐怖、不安感、何ともし難い絶望感はいまだ忘れる事が出来ません

まして被害の大きかった東北の方々の心中たるやいかばかりかと存じます


一刻も早い被災地の復興と、人々の心が癒やされますようお祈りしております


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