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刃角鹿

今日もはじまり、はじまり


 なだらかな傾斜に沿って波打つように北の大地には実りを控えた畑が広っていた。

 平坦に広がる王都近くの穀倉地帯とはまた違う、地形に合わせた直線の少ない畑と、その間を縫うように農道と水路が走る。

 越冬にそなえて芋類と、挽かずとも食用になる雑穀を主とした作付けは晩夏の季節には青々とした絨毯のように波打っている、筈であった。

 しかし今は数日前より確認された刃角鹿の群れによってまばらに踏み荒らされ、大人の胸ほどになるはずの草丈も痛々しく囓り喰われている。


 「報告より被害が大きいようです初代様。獣のする事とはいえ、これでは……」


 大股で勇神と並んで駆ける赤いゴーレムから、アイリスの声が響く。

 彼女の操る王紀四〇一年式は、スズメバチのような丸みと攻撃的な鋭角を両立したシルエット。

 鈍重なコガネムシを思わせる騎士団型の発展系であり、実験機から正式に配備されたばかりの新型であった。

 現行機の中でもっとも始祖ゴーレムたる勇神に近く、手足の長さや関節可動域が人間に準じた比率になるよう作られているため搭乗者への負担が少ない。

 それによりゴーレムにあるまじき柔軟性と運動性を実現しつつ、現行機の装備流用も可能とした画期的な最新鋭機である。


 『うむ。じゃが今ならまだ代わりの作物を植える事も出来よう。先ずは脅威を除く事じゃ、魔獣が味をしめておるなら二度と森から出て来ぬ様に叩かねばなるまい』


 決して幅の広い訳で無い農道を勇神は軽々と進む。

 八機のゴーレムと機神は二手に分かれ、魔獣の足跡を追跡しているところであった。

 編成は騎士団からアイリスと新型、辺境軍から大盾を持った対魔獣ゴーレム三機、それに勇神。

 土地に詳しい領軍のルシルは配下の三機を率いて別働隊として魔獣の足跡を追跡していたが、勇神の一隊はアレックスから入る指示を頼りに合流ポイントへ向かう途中であった。


 「初代様、弟は何と?」


 『中々要領を得なんだが、どうやら領軍の娘の方が一群を補足したらしい。物見の報告では右手の森が切れるこの先に出るそうじゃ』


 そう言って顎を搔く勇神は二町ばかり先の木立を指さす。

 鬱蒼と新緑に萌える木立の先で、風とは違う森のざわめきがかろうじて見て取れた。


 「あそこですね……申し訳ありません、アレックスにはもう少し学問に身を入れるよう言っておきます。どんなに魔法が便利でも使う者がああでは宝の持ち腐れだ」


 『はっはっは、あの子にとっては何もかもが初めての事じゃ。混乱するのは致し方ない、あまりキツくは言わんでやってくれいアイリス』


 追走する辺境軍の三機と共に、白と朱のゴーレムは速度を上げて駆けだした。

 ゴーレムの関節から魔法光が吹き出し、地面を蹴立てて森の裏から現れる魔獣の群にむかう。 


 「初代様がそうやって甘やかされるからアイツはいつまでも頼りないままなのですよ、少しは考えて頂かないと!」


 『ぬぅ、手厳しいのぅ……魔獣はこの先じゃな、勢いを殺さず当たるぞ!!』


 「はい!」


 木立の向こうを走る魔獣の群が近づき、二つの地響きが交差するように撃突する!!


 『でえええぇぇぇいやッ!!』


 刃角鹿の先頭を行く大柄な雄の側面に、勇神のタックル決まる!!

 角の丈を入れればゴーレムの体高にも匹敵する魔獣が真横からの衝撃にバランスを崩し、足をもつれさせて転倒した。


 ビイィィィィィ!!


 もつれ合って地面を転がるボス鹿と勇神に、後続の群が玉突きのように衝突して次々と転倒する!!

 

 「初代様に続けぇ!! 領軍のゴーレムが来るまでここに釘付けにするのだ!!」


 抜剣したゴーレムを率いて、アイリスの新型が転倒した鹿の角を盾で殴りつけて叩き折った!!

 そのまま流れる様に目眩を起こした鹿の頚を抱え込み、大きく振り回すと後ろで立ち上がりかけていた群の方へ放り投げる。

 左右に展開した辺境軍のゴーレムが逃げようとする魔獣の足を切りつけながら、大盾で群を押し戻して逃走を防ぐ。

 何とか立ち上がった魔獣が切れ味鋭い角を振り回して暴れるも、ゴーレムの誇る衝撃転換装甲を突破する事は出来ず仲間の皮肉を切り裂いて混乱を大きくするばかり。


 『さて貴様はどうする? 群を率いて大人しく森に帰れば良し、さもなくば……』


 大混戦の真ん中で起き上がったボス鹿の正面で手刀を構えながら、勇神は油断無くすり足で距離を詰める。

 対して一際大振りな角を振りかざしたボス鹿もまた、前脚で地面を搔いて鼻息荒く勇神に向かって弓を張る様に力を漲らせた。

 

 『そうか、ならばこの勇神が相手じゃ!!』


 ドッ!!!

 ガアァァァ!!


 勇神の宣声を合図に両者の距離がゼロになり、勇神の装甲から魔法光が吹き出す。

 突進を受け止めた勇神の両足が僅かに後退するが、ボス鹿必殺の角は白磁の装甲に当たった所から砕け散っていた。


 『それで仕舞いか、せいやァァ!!』


 胸の前に抱え込んだボス鹿の喉元に膝蹴りを放ち、よろけた所を大きく突き放す勇神。

 四つ足でたたらを踏み後ろへ下がったボス鹿は、目眩を払うように頭を振ると天を仰いで高々と鳴き声を上げた!!


 ビイィィィィウゥゥゥィィ!!


 「ぐわあぁぁ、耳が……」

 「これは……震動!?」

 「機体の、う、動きが、効かなく? 姫様!!」


 ボス鹿の長い鳴き声に共鳴して、体勢を立て直した鹿の群が角を震わせてゴーレムに魔法を放つ。

 可聴域を超えた超音波に世界が滲み輪郭をぼやかせ、四機のゴーレムの関節という関節から負荷を変換した魔法光が光条となって吹き出した。


 刃角鹿の薄く硬い角は身を守るための鋭利な武器であると同時に、群のリーダーの魔法を増幅して放つ音叉としても機能する。

 それはかつて大蜥蜴が作り出した巨大水球弾と同じく、知性と敵意を持って放たれる強力な群体魔法である。

 歌う様に高低をつけて鳴き声を上げるボス鹿は、対象の固有振動数に合わせた音波を魔法として放出し、大きな群になれは岩山を崩してしまう事もあるという。


 「ええい!角だ、角を持つ雄から仕留めろ!!」


 かろうじて身体の自由を保っているアイリスの新型が、渾身の回し蹴りで手近な鹿の角を粉砕して吹っ飛ばした。

 魔法を増幅する為足を止めていた雄鹿が将棋倒しのようになって崩れ、負荷から解放されたゴーレムから吹き出していた魔法光が弱まる。

 ゴーレムの間を縫って角を持たない雌と子鹿が逃げ出すが、動きの鈍った辺境軍の機体は後を追うことが出来ずに残った雄鹿と戦闘を再開した。


 『儂ではなく群の相手をしているゴーレムの方を狙うとは、獣といえど見上げた心意気。上に立つ者の鑑である。しかし貴様らに田畑を食い荒らされ、飢え死にするやも知れぬ者達のために儂も引けぬ』

 

 大敵の前で我が身を無防備に晒し、群の逃走のために魔法を放ったボス鹿に、勇神は拳を構えてゆっくりと歩み寄る。


 ビイィィィィィ!!


 ボス鹿はなおも魔法を放ち続けたまま、巨神の運ぶ死を睨みつけて下がらない。


 『この大地に生きる強き者よ、我が子らのためである。許せよ』


 ゴゥッ!!


 パァァン!!


 ボス鹿の頭部に吸い込まれた勇神の剛拳から、弾ける様な音が炸裂する。

 額の位置にぴたりと止まった拳の先で、目鼻から血を流したボス鹿が糸が切れた様に崩れ落ちた。


 『……ふゥ』


 「初代様、今の一撃は?」

 

 魔法が途絶えて完全に自由を取り戻したゴーレム達に掃討を任せ、ボス鹿の死体を検めにアイリスの新型が勇神の側へとやってくる。


 『何じゃ? いたづらに苦しめるよりはと思っただけじゃが』


 「いえ、魔法光が発せられなかった様に見受けられましたので」


 『衝撃転換装甲はゴーレムの受けたダメージや関節にかかる負荷を魔法光として消耗発散する。拳の力が無駄なく相手に行き渡ればそのような事もあろう。儂の内には過去の戦士達の技が息づいておるからの』


 「そのような事が可能なのですか。それならば……」

  

  ――何故弟を必要とするのですか――


 喉まで出かかった疑問を呑み込んで、アイリスはボス鹿が事切れている事を確認した。

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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