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地下遺跡

今日もはじまり、はじまり

 

 「いやぁ助かったわ。貴女がいてくれなかったら手紙を見つける前に追い出されたかもしれないもの」


 いつもの白衣に着替えた博士が、おかっぱ頭の少女について施設の中を歩いていた。

 むっつりとした不機嫌そうな顔つきに太めの眉、北部には珍しい真っ黒な髪の少女の身長は、少し後ろを並んで歩くアザレア博士の肘ほどまでしかない。

 

 「何度か屋敷で父様と話しているのを見ましたから。それとここに紛れ込んだ者は追い出されるだけでは済まないですよ」 


 「私危ない所だったのね、お助け下さり恐縮ですわドライスタ公爵令嬢……」


 「ルシルで良いです。それより無駄にした時間の分、お父様のためにしっかり働いて下さい」


 振り返る事無く会話を続ける少女、ルシル・ドライスタは貴族にあるまじき実用重視の作業服を身に着け、冷たい廊下をトコトコと歩く。

 成長しきっていない短い手足とアンバランスな等身が、美少女に似合わない硬い表情を乗せて先を行くのを、アザレア博士が追いかける形になっている。


 (こんな小さな娘がいるなんてあのジジイも隅に置けないわね。生涯現役って王都の噂は本当だったのかしら)


 やっとの事で鞄に詰め直した大荷物を担いで歩くアザレア博士には、少女の歩幅がちょうど良い。

 年に似合わぬ冷たい口調に可愛げはないが、小動物を思わせる仕草とジト目のギャップが愛らしくもある。

 目の前で揺れる後頭部を追いかけてそんな事を考えながら、アザレア博士が辿り着いた先は岩壁で出来た天井に鉄骨の梁が渡されて、壁際には足場が組まれた工場にも見える場所だった。

 大きめの倉庫がすっぽりと収まるほどの広さにゴーレムが動き回る高さを備え、壁の隙間からは魔法光がにじむ、巨大な機械の腹の中にいるような空間。

 高い天井との間に金属同士がぶつかる様々な音が響き、薄暗い中で巨大機械の放つ魔法光と作業の火花が照明となって彼女達の足下を照らす。

 壁際には現行の騎士団ゴーレムと同等かそれ以上の大きさの異形の巨体が幾体も、埋め込まれるようにして土の中に立っていた。


 「わお!これが発掘兵器ね」


 「その通りです。貴女にはこのゴーレム軍も調整をお願いします」


 様々な形のゴーレムに作業員が取り付き、忙しなく動き回る中を進む二人。

 侯爵令嬢が歩む先は開けられているが手を止めてかしずくものはなく、誰もが黙々作業を進めていた。

 ゴーレム達はどれも見る者の精神をざわつかせる邪神のように凶悪な見た目と、攻撃的な機能を体現した装甲を薄く光らせている。


 「この秘密鉱山で発見された古代兵器は20体を越えます、しかし実際に稼働状態まで持って行けたのは半分もありません。勇神と戦闘可能なものはさらに少ないでしょう」


 「何て保存技術なのかしら……不朽と呼ぶにふさわしい耐久力ね。これで動かせないなんて、見た感じ状態は良さそうだけど何か理由があるのかしら?」


 ひんやりとした鉱山の地下空洞は暗くなっている奥まで見通すことはできず、アザレア博士はルシルが進むまま荷物を下ろすタイミングを失ってついてゆく。


 「発見時は土に埋まっていてゴーレムと気付かずに解体してしまい、アーティファクトを外してしまった例が多かったですね。発掘した遺物は王家に提出する義務がありましたし、外装は無事でも原型がわからなくなったものが多いと聞きます」

 

 「ただの鉱山だと思われていたからね。しかし、なんてもったいない事を……」 


 「ここが古代人の工場か格納庫だと判ってからは発掘に専念して今のように補強と復元に注力していますが、専門家の少ない分野で王家の目をごまかしながらでは思うように進まず、お父様もお悩みのようでした」


 「あっさりここを教えてくれる筈だわ、持て余していたって事じゃない。しかし、これだけのものが存在していたとは……」


 両側の古代ゴーレムを眺めながら、ひんやりとした地下の空気に溜め息をつく博士。

 目移りして遅れがちになる博士が遅れないように、ルシルは時々足を止めて袖を引いた。


 「ああ、ごめんなさい。一つ聞いて良いかしら? 動かせたゴーレムとそれ以外の違いは何?」


 ジト目で見上げて来る少女に促され、移動を再開した博士が尋ねる。


 「人が乗れるかどうかです。発掘ゴーレムの中には人間が搭乗するスペースが存在しないものが多く、現行の技術では手も足も出ないものがあるのです」


 「自律型……あるいは外部から操作する物かしら。恐ろしく高度な技術ね」


 「はい。しかし勇神のシステムを基にした制御コアを搭載しなければ、操縦が出来ないのが今の魔法使いです。操縦型以外の選択肢がない以上改装は必至なのですが……」


 「組み込むにはスペースがないと。衝撃転換装甲を運用するのにも苦労するわね」


 ゴーレムがゴーレム足りえる必須の機能、衝撃転換装甲。

 それは物理エネルギーや熱を光に替えて消耗発散する超テクノロジーの産物。

 勇神の装甲を解析して作られた構成材はゴーレムの自重を支え、格闘戦すら可能にする魔法の盾にして骨格。

 鉄骨をゴーレムと同じ高さに組み上げたとしても歩くことはおろかまっすぐに立つ事も不可能な世界で、ゴーレムのみが巨体を維持し活動できるのは、この装甲があっての事なのだ。


 そして、衝撃転換装甲を安定稼働させる為に必要なものがもう一つ、勇神の頭脳パーツの複製から造られた制御コアがある。

 大型ゴーレムの関節にかかる負荷を計算し、装甲の稼働率を調整する基幹システムを内包した、文字通りゴーレムの頭脳にして魔法使いの意思を機体に伝えるコネクター。

 勇神がゴーレムを分身と呼ぶ理由の一つであり、彼の意思を受け継いでゴーレムが人を直接攻撃できない理由ともなっているそれは、王家が流通と使用法を厳しく制限していた。

 改造や分解を試みれば自壊するトラップまで仕掛けられたコアを、古代ゴーレムに搭載することがどれほど困難かを思い浮かべて、アザレア博士は苦い顔をした。


 「着きました」


 格納庫の最奥、まだ発掘中のゴーレムが胸から上だけを出してそのままになっている所まで辿り着いた二人。

 遥か高い位置にあるゴーレムまで照明が届かず、壁から生えた体が覆いかぶさるように見る者を圧迫する。

 

 「貴女に動かしてもらいたいのはこのゴーレム。事前調査ではおそらく最も原型を留めた古代の巨神です」


 そう言って足場にある明かりのスイッチを入れるルシル。

 壁を這うようにして下から順に灯ってゆく明かりを目で追うアザレア博士は、そのゴーレムの特徴があらわになるにつれ息を飲んだ。


 「これは……!」


 ついに天井まで張り廻らされた魔除け灯が、レリーフのように壁から生えたゴーレムの表面を照らす。

 つるりとした陶器のような質感の金属装甲。

 おそらく逆三角形の胴体と、壁に埋まった肩と腕。

 漆黒の頭部には両側に突き出した角を備えた兜を被り、その下には機械で出来た顔。

 勇神より一回り以上大きい体と、その隣で身の丈に相当する大太刀が二本、岩壁に立てかけられるようにして並んでいた。


 「先に発掘された武器から、我々はこれを「剣神」と呼んでいます」


 博士と同じように壁を見上げるルシルが、ようやく熱のこもった吐息で唇を動かした。


 「お父様が見付けて下さった、私の鎧です」


今日はここまで

お読みいただきありがとうございました

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