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勇神水没

今日もはじまり、はじまり

 

 「勇神様!!あれは、この間の!!」

 

 『肉塊か!! しかし随分と立派に育った奴がいたものじゃ。これはちと骨であるな……』


 巨神の足の届かない深みに陣取り潜っては現れ、水のブレスを放って消えるドラゴンに、大勇神は攻め手を欠いていた。

 ウォーターカッターの威力は装甲で止められているが、直撃の度に発生する大波が岸を襲い、小舟と浮き板を木の葉のように巻き上げる。

 反撃に放たれる誘導弾は絶えず水柱を上げ、泳ぎ回る水龍の鱗を灼き焦がし肉を削り取るも、おぞましい叫びを上げて再び浮上してくる時には既に傷の回復が始まっており、それによってドラゴンが消耗している様子もない。


 ―――オ オ オ ォ ォ ォ――


 亡霊の声が湖に響く度に観光地に悲鳴が上がり、人々が建物の間を縫って高台に避難してゆく。

 たった数分の間に怪獣大決戦の舞台となったリゾート地は、今は怒号と恐怖の鳴り止まぬ地獄絵図と化していた。

 その悲鳴を受けて黒いオーラを更に強く纏った水龍は、出現した時と同じように回転を始めると、先ほどとは比べようもない程の大渦を作り出す!!


 ゴゴゴゴゴゴゴ!!


 湖面から逆向きに発生した竜巻を思わせる渦に呑み込まれて体勢を崩した大勇神は、水中で加速を付けたドラゴンに勢いよく組み付かれ、背中から仰向けに転倒させられてしまった。


 「んきゃあ!!」


 『情けない声を出すなアレックス!! 格闘戦ならこちらに分があるのじゃ、先ほどのように叩き返してく、くれ、よ、う……ぞ? おおお!?』


 巻き付いて来る水龍を振り払おうと果敢に掴みかかる大勇神であったが、今度のドラゴンは豪腕をかいくぐり、撥ね除け押さえつけて真っ向から巨神の動きをねじ伏せた!!

 衝撃転換装甲が水中で断続的に青白い光を放ち、底の泥を巻き上げて濁った湖ににじむ。


 ギャルルウルルオオオオォォ!!

 

 『馬鹿な!!力を増していると言うのか!!』


 「再生速度も異常です、戦闘中にそんなエネルギーを何処から……うわあああ!!」


 マスクを被った頭部を水かきのある前脚で押さえつけられて、大勇神は水龍のなすがまま、深い深い湖中に引きずり込まれてしまった。







 「そんな、王子……」


 巨神と合身した主が水の底に消え、波紋と水泡が収まりゆく様子を見ていたモニカは、ショックのあまり膝を着いた。

 観光地の避難を助け、自身も高台にある展望台で大勇神の戦いを見守っていた彼女だったが、街を守る為に水龍の攻撃を受け続ける精彩を欠いた戦いに不安を覚えたのも束の間。

 同じく避難して来た街の人々が恐怖にざわつく中で、彼女の予感は最悪の形で現実となってしまった。


 「あの勇神様が負けるなんて、そんなまさか!!」

 「本当にドラゴンが居たとは」

 「このオウィミ市もおしまいだぁ」

 「儂の釣り船が、沈んで……ないけど水浸しじゃぁ」

 「まぁどうしましょう、夕飯のお買い物があるのに、困ったわ」

 「何なのアレ!?何か黒いのいたんですけど!!」

 「ママー!ビューって、どどーんってなったね」

 「ねー、すごかったわねぇ。はぁ……」


 この場にいる誰もが目撃した守護神の威力、そしてそれを上回って見せたドラゴンの脅威が空気を圧迫し、平静を取り戻した人造湖に重くのし掛かる。 

 うつむいたまま足下の土を掴んで震えるモニカの側に転がされた強盗コンビが、覆面の下から嘲りとも、無念とも取れる声を出す。


 「あーあ、これであの骨董品もお終ぇかよ。ドラゴン相手じゃしょうがねぇが、以外とあっけないもんだなザッカー」

 

 「そうでヤンスねアニキ。あの王子は歴代の操者に比べてとびきり弱っちいみたいなんで、仕方がないでヤンス」


 ロープでぐるぐる巻きにされたまま、芋虫のように寄り添って手すりの間から湖を見下ろす二人。

 

 「その弱っちいのに俺たちは何度もやられたんだがな……、まあ、変にやりにくくなるよりマシな結末か」

 

 「妙な縁も出来たでヤンスからねぇ。さっきは覆面を剥がされないで良かったでヤンス、何かこう、バレなくて」


 宿敵が失われた事でどことなくしょんぼりとした格好で、強盗コンビが目を閉じた。

 まぶたの裏には王都での、勇神と戦った記憶がよみがえる。

 殴られ蹴られ騙され転がされ、散々な思い出しかなかったが、それでも充実した日々。

 後ろ向きでも情熱を持って走り抜けた一ヶ月と数日。


 「……負けてません!!」


 ざわめきが収まらない中で感傷に浸っていたワッジの横で、涙を拭ってモニカが立ち上がる。


 「王子は負けてませんよう!!勇神様と王子は聖国の龍さえ退けた無敵の守護神なんです!!このモニカさんの見ている前で、あんなウナギモドキになんかやられたりしませんよう!!」

 

 「あいたた!!お嬢、踏んでるでヤンス!!」


 「それが何ですよう!!王子は勇神様と合身していても痛いんです、ただゴーレムに乗っているだけの貴方達に王子の何がわかりますか!!ひょいひょい逃げ回るだけの貴方達に、王子の根性が!!」


 「だあああ!!かっ、髪はやめて!!マジでやめて残り少ないンだからぁ!!」


 「王子はバカのあたしにも優しくて、暖かくて、どんな事があっても諦めない男の子なんです!!力が弱くても弱くなんかありません、超強いです!!その王子に勇神様がついていらっしゃるのですよ!!絶対に、絶対に負けたりする筈ないじゃないですかああああ!!」


ブチブチブチブチィ!!

 

 「いやあああ髪がああぁぁぁああ!!!!」

 「理由になってねえでヤンスぐえええ!!」


 涙と鼻水を振りまいて絶叫するモニカはワッジの髪の毛を引き千切り、ザッカーを踏みつぶして拳を突き出し、湖に向かって呼びかける!!


 「王子!!モニカはここにおります!!この世界で誰よりも、王子の勝利とお帰りを信じておりますよう!!!」

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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