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湖の幽霊

今日もはじまり、はじまり


 いよいよ今日は祭りの日

 私を淵に沈める日


 お父様は暗い顔で、務めを果たせと仰った

 お母様は昨日から、ずっと寝込んで泣いている


 私は輿に乗せられて、皆に担がれて運ばれた

 巫女の衣装は柔らかで、少し重いけどとても綺麗


 あの子達が私をみたら驚くかしら

 この格好で王都に行ったら、並んで歩いても変じゃないかな


 黙って運ばれてゆく私を、村の皆が並んで見送る

 悲しいなら家に籠もっていても良いのに


 小雨が降るから風邪を引くよ

 アルヴィさんのお婆ちゃん、膝を痛めたばかりでしょ

 雑貨屋のメイジィさん、お腹に赤ちゃんがいるんでしょ

 炭焼き小屋のおじさん達、わざわざ降りて来てくれたんだ


 どうしてみんな出てくるの

 どうしてみんな泣いてるの


 やっと割り切ったのに

 やっと振り切ったのに


 生きていたくなるじゃない

 夏のあの子達に、もう一度会いたくなるじゃない


 轟々と渦巻く淵について、祭司が祈りを読み上げる

 頬を流れる熱い涙は冷たい雨と見分けがつかなくなって


 誰かが私の背を押した


 ああ、私の王子様

 琥珀の瞳の王子様


 私はここに沈みます

 私がここを守ります




 あれは―――






 『さて貴様ら、王都を離れてこんな所で何をしておった? 隠し立てすると為にならんぞ、正直に申せ』


 船を繋ぐロープでぐるぐる巻きにされたワッジとザッカーに、凄んだ勇神の巨大な顔が迫る。

 

 「言えるかよそんな事ぁ、就業規定違反で減給喰らっちまうだろうが。あんまり俺達を見くびるんじゃねえぞ」


 「こっちには守秘義務があるでヤンス。いつまでも怖い顔だけで自分らがチビると思わないで欲しいでヤンスね」


 覆面の下で苦々しく呟く強盗二人は頼みのゴーレムを失っても、今回はまだ折れては居なかった。

 何とか拘束を解こうともがき、桟橋の上で魚のように跳ねる。


 『ええい、妙な根性を付けよって……アレックス、娘、お主達に心当たりはないか?』


 「さっきはドラゴンとか言ってなかったっけ」


 「ええ、後は遺物が何とか、姉御がどうとか……」


 「「!!!」」


 顔を見合わせた強盗達が息を呑んで凍り付く。

 老練の勇神はその動揺を見逃さなかった。


 『ほほう、なるほど。さては貴様ら、この人造湖の底に沈んだドラゴンの住み処から、アーティファクトを持ち出そうとしておったな?』


 膝上まで水に浸かった勇神は、波を立てて桟橋に一歩近づく。


 「ここにドラゴンが居たのですか?」


 最近歴史に興味を持ったアレックスが、身を乗り出して勇神に尋ねた。

 目を輝かせる主人が足場から落ちないように、モニカは浮き板の上を二歩下がって遊歩道の水平を保つ。

 湖の波は高く早く、浮き板を持ち上げては揺らし、岸に当たって飛沫を上げた。


 『そういう伝説がある、と言うだけじゃ。しかし翠星王のようにドラゴンは宝物をため込む習性があるでな。ゴーレム犯罪を企てる者がアーティファクトを欲するならば、探しに来てもおかしくはない』


 「それで以前から変な噂が立ってたんですね……あれ?でもさっきは確か一週間って」

 

 「そう言ってましたねぇ。この人達は嘘を言ってませんし、あたし達が王都を出る前から噂があったのなら時期が合いませんよう」


 また起きた波が浮き板を揺らし、今度は波が足場を越えてアレックス達の靴を濡らす。

 

 『しかし此奴等がゴーレムを使って底を掠っておったのは事実。おそらく姉御とやらが逃走の手助けと、ゴーレムの調達をしたのであろうな』

 

 「それも含めて、騎士団に引き渡したら洗いざらい吐いてもらいましょう。手始めにこの覆面を……」

 

 そう言ってアレックス強盗の顎に手を伸ばした時、更に大きな波が足場を縦に傾ける程に打ち当たった。

 とっさにアレックスの腰に手を回し、抱え上げるようにして支えるモニカ。


 「ちょと、勇神様、そんなに動かれては……」


 『む、これは儂ではないぞ。一体何事か!?』


 勇神も背中に大波を受けて、ようやく背後の異変に気付く。

 湖の中心でぼんやりと浮き上がる青い髪の少女と、その足元で発生した大渦が速度を増し、今にもこちらに迫ってくる所であった。


 ─── ミ ツ ケ タ ───


 大渦の周りを周回する、巨大な影が波間を割って背鰭とトゲをちらつかせ、不気味な少女と感応して悍ましい声を響かせる。

 

 「勇神様!!」


 『おう!修復は終わっておるぞ!!』


 これぞ以心伝心!!

 即座に勇神と同じ判断をしたアレックスはモニカの手から傾いた桟橋を駆けあがり、勇神の胸に飛び込む。

 人神一体の合身に装甲のラインが赤く染まり、命を宿した勇神がモニカと強盗を揺れる足場から掬い上げて、波の届かない陸に下ろした。


 『街のものの避難を任せたぞ、娘』

 

 「ロイヤル・フォーメーション!!」


 湖の渦に向き直り、水面に拳を打ちつける勇神。

 足元の湖面に広がる召喚魔法陣が大波を遮り、背後のモニカの盾となる。

 爆発する魔法光に、揺らぐ波と飛沫が竜巻のごとく吹き荒れた!!


 光の中からせりあがる四頭立ての機械馬車が分離と接続を繰り返し、巨大な鎧の形成を始める。

 先頭の二頭の機械馬は馬車の両翼に分かれ、両足を綺麗に畳み胸と腹下から巨大な腕をおろすと、胴体の真ん中で横にくの字に折れ、馬の鼻先から胸までが大きく横にせり出した肩鎧に、折れた胴体の後ろ半分がそれぞれ肩の後ろで主張するブースターに形を変え、馬車を胴体とした上半身の両腕として接続する!!

 4つの車輪はパージされ二つに重なって、両腕の外側に盾として装着され、稲妻を上げて回転した!! 

 

 二列目の機械馬は頚を引っ込め足を曲げ、畳んだ前足と鼻先で踵とつま先を形成すると、こちらも巨大な下腿部に変形し、折り畳みナイフのように大腿部を出現させ、各々装甲馬車と一体となって下半身となった!!


 『「とうぁ!!」』


 空中に舞い上がった勇神が、装甲馬車で出来た胴体に飛び込む!!

 観音開きの胸鎧が展開し、内部に収納していた兜を射出すると、首だけを出して勇神を収納し、空中の兜がその頭を覆う!!

 全身を包むマリオネットを着込んだ格好で各部の装甲が締まり、ブレイブキャリッジは超巨大の人型ゴーレムとなって完成した!! 


 勇神の鋭い目はそのままに、鬼神のごときマスクと、後頭部まで伸びる鮮やかな金の二本角!!

 黒いボディを魔法光で彩り、赤い兜を朝日にきらめかせ、両の拳を打ち付けて、空も割れよと大きく叫ぶ!!


  『「大 ・ 勇 ・ 神 ・ 参 ・ 上!!」』


 サーチライトの如き魔法光を全身から吹き出し、周囲を舐めまわして竜巻を吹き飛ばす!!

 全身から蒸気を上げて人造湖に出現した超巨大戦闘ゴーレムは、大渦とその中心にいる少女に手刀を構えて聳え立った!!


 『「何がしたいのか分らんが、人を襲うなら仕方無い!!人造湖を騒がせる怪物め、この大勇神とアレックス第三王子が相手だッ!!」』



今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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