勇神圧倒
今日もはじまり、はじまり
お父様が困っているの
今年は雨が多くて大変だって
秘密の淵にはドラゴンが居て、怒ると大雨を降らすのだって
天地を統べるドラゴンに、生贄を捧げるんだって
私の村は山の中
炭焼きと狩猟が仕事の小さな村
下流の村で小麦が採れないと、この一帯が餓えてしまう
水の管理が行き届かないと、責められるのは弱い私の村
数年に一度だけど、こんな年がある
そのたびに村では生贄を出して、ドラゴンを祀ってきた
今年はきっと私の番
若い女で年頃なのは私だけ
向かいのアンネはまだ6つ、お隣のミリヤム姉さんは来年にお嫁に行くの
後はおばさんばかりで、生贄になれるのは私だけ
でもいいの
私に出来る事は他にないから
それに
あの子たちと約束したから
私がここを守るって
この思い出の場所を
また一緒に遊ぶことはできないけれど
それでも────
「お前たちは王都の強盗!! 最近見ないと思ったらこんなところに隠れていたのか!!」
「だあっはっはっはぁ!! 見つかったなら仕方がねえ!!ザッカー、時間外労働と行くぜ!!」
人造湖の遊歩道で対峙した強盗二人とアレックス達。
「了解でヤンス!!ゴーレム浮上開始いぃ!!」
兄貴分の指示のもと桟橋まで駆けて行ったザッカーは、もやってあった綱をもの凄い勢いでたぐり寄せ始めた。
水中まで伸びた綱が引き絞られると地響きを立てて、湖中から巨大な影がせり上がる。
「人造湖の噂もお前達のゴーレムの仕業だな、今度は逃がさないぞ!!」
強盗が掛け声を発して綱を引く様を追いかけて、アレックスは左手を高く掲げた。
深血の大宝玉をあつらえた腕輪に陽光がきらめき、人造湖に神威の巨体を導く!!
「勇神!! 召喚!!」
水面を盛り上げてまさに姿を現さんとするゴーレムの上空に、光の門が出現した!!
幾重にも積み重なった魔法陣が折り重なって、赤の、青の、黄色の光が荒れ狂う!!
ゴウワアアアア!!
花火のように弾ける門と、その残滓を天空に残し、現れたのは機械の巨人!!
がっしりとした手足に逆三角形のボディ 胸には交差する剣を背後に獅子と鷲をあしらった王家の紋章
滑らかな曲線で構成された白磁の装甲の間からは青白い魔法光を放ち、力強く優美にも感じられる甲冑のようないでたち
鶏冠のついた兜のような頭部は揺らめく炎を燃やし、冷たく敵を射すくめる瞳には確かな怒りを込めて!!
『会いたかったぞアレックス!!勇神見参!! からの!! 先手必勝!!フリーフォールスタンプぅぅぅ!!』
ドッゴオオオオオォォォン!!
「ちょ、まさか!? 嘘だろおい!!うおおおわわわわ!!」
「まだ乗ってないでヤンス!!ぎゃあああああああああああ!!」
盛大に水柱をあげて落着した勇神の跳び蹴りを受けて、未だその全容を現すに至らなかったゴーレムは逆海老反りとなって水面に消えた。
岸を襲う水しぶきと浮き板を揺らす波を受けて、尻餅をついた強盗達。
対してアレックスはさりげなく横に立ったモニカの広げた傘に守られて、湖から立ち上がる勇神の雄姿に手を振った。
「おはようございます勇神様!!」
『おはよう!! アレックス、それに娘よ。こうして顔を見られるのが数日ぶりとは、なんと待ち遠しい日々であった事か……!』
破壊したゴーレムを肩に担ぎあげて柔道の肩車かアルゼンチンバックブリーカーのように締め上げながら、魔法光を吹き上げて満面の笑みで応える勇神。
その足下ではいつの間にかモニカに後ろを取られ、綱で桟橋にぐるぐる巻きにされた強盗達が抗議の声を上げていた。
「オイコラ!! 守護神が不意打ちたぁどういう了見だ!! 卑怯じゃぁねえのかよ!!」
「断固抗議するでヤンス!! 正々堂々勝負のやり直しを要求するでヤンスよ!!」
『やかましいわ!!いくさに卑怯もやり直しもあるものか!! 儂の強みこそこの自律稼働であると言うのに、どうして貴様らが整うまで待つ必要がある!! ぬおりゃぁ!!』
メキョリ!! バキバキバキ!!
「「ああああああ!!」」
哀れ衝撃転換装甲が完全起動する前に大ダメージを受けた強盗のゴーレムは、勇神の肩の上で真っ二つにへし折られて完全に再起不能になった。
『ふん!! このような蟹だかシャコだか知れぬゴーレムが儂に通用せん事は前の戦いで理解して居ように、敗北する度にコソコソ逃げ回る貴様らが正々堂々とは片腹痛いわ小悪党どもめが』
一仕事終えた後の勇神はゴーレムの残骸を放り投げると、強盗ににらみを利かす。
「ザリガニでしょう」
「あたしはロブスターだと思いますよう」
「「テナガエビだ」でヤンス」
『ゴーレムの種類はどうでもよい。 さて貴様ら、王都を離れてこんな所で何をしておった? 隠し立てすると為にならんぞ、正直に申せ』
今度は逃がさんと腹に響く声で勇神の巨大な顔が強盗に迫る背後に、青い髪の少女が波打つ湖の中から現れたのを、その場にいた誰もが気づかなかった。
今日はここまで
お読みいただきありがとうございました。




