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結託

今日もはじまり、はじまり


 「……舐めるなよ亡霊が」


 下を向いて哄笑を浴びるに甘んじていた博士の口から、底冷えのする声が響く。

 ゆらりと立ち上がり体に張り付いたドレスの片足を打ち付けるように応接テーブルに乗せ、眼鏡の端をぐいと押し上げて啖呵を切った。


 「せっかく人が下手に出てればある事無い事好き勝手に言ってくれるわね!!小娘なんて言われてちょっと嬉しかったけれど、その小娘に喉元まで迫られて慌ててノコノコ出てきたのはそっちじゃない!!」


 めくれたドレスから覗くすらりと長い脚に細い筋肉のすじが浮かび上がり、肩が見えるほど開いた胸元は鎖骨から上を朱の染めてふんぞり返る。


 「あんたの小遣い稼ぎに王家が気付くのはもう時間の問題だって、自覚が無いようだから教えてあげるわ。あんたが王家専売の塩に重金属を含んだ粗悪な岩塩を混ぜているせいで領民には中毒症状が蔓延してる、開拓の効率が落ちてるのはそのせいでしょ。疾病分布と流通ルートの関係に切れ者の王太子が気づけば早くて今年、遅くとも来年の税務調査ではあんたは徹底的に調べられて何もかも失うわ」 


 「む、ほほう……」


 「あんたの領地でうちのシェアが急速に拡大したのは地場産業が衰退したからよ、あとパンツ見るなエロジジイ!! 粋がらなくたってもう喰える所は骨すら残ってないってのに、これからどうやって勇神と戦うつもりかしら? それとも貴族様は兵站など無くても誇りと意地だけで王家に勝てると思っているの?」


 取り繕った口調を改めたアザレア博士は立て板に水の勢いで攻勢に出る。

 

 「実利?情熱?夢? そんな社会不適合者をテロリストに仕立てる方便が、このアザレア・グリーンハート博士に通じる筈がないでしょう?虚勢張る以外に出来ることが無いなら亡霊なんかやめて隠居しなさい侯爵、あんたの領地も勇神の始末もあたしが片付けるわ」


 「ぐぬぬ……」


 決して激高はしない、しかし強弱の使いどころを押えた容赦のない博士の語り口に、黒の外套を纏った侯爵は歯がみして俯いた。


 「どうしたの? 悪の総帥がだんまりなんて修行が足りないんじゃない?何を勘違いしたか知らないけれど、あたしは敵対的買収じゃなくて協力の為に来たの。 正直に言えば見てらんなかったからだけどね、だいたい……」


 「……参った、参った!!そこまでにしてくれい」


 さらに続く博士の口撃の手で制して、ドライスタ候は腰を浮かして立ち上がった。

 まだ鼻息荒い博士が片足をテーブルから下ろすのを確認してから彼は外套を脱ぐと、博士に向かってその頭を下げた。


 「我ら亡霊が宿願、30年前の復讐に手が足りず、余裕のないのは見抜かれた通りだ。貴様を計りかねて無礼を申した事、どうか許されよ」


 「……え、あ、はい」


 姿勢を正して椅子に座りなおした侯爵に合わせて席に着いたアザレア博士は毒気を抜かれたように目をぱちぱちさせていたが、数拍の呼吸の後で乱れた髪を整えると、脇に置いてあった資料の束を手に取った。

 

 「ええっと、協力体制の話を再開しても良いかしら? さっきのは無礼討ちにされてもおかしくはなかったけれど、そうしなかったって事はいいのよね? 今から取り繕うのも面倒だからこのままいきたいのだけど」


 「勿論である。 貴様のプライドは確かに儂の魂を掴んだ。先程の話から王家の犬でない事も良く分かったのでな、ここからは対等と行こう」


 「それはどうも。融資を用意してるって話の後からだったわね。ここの土地は死に体だけど、ウチが介入して立て直せたらそれは地方再生の良いモデルケースになるわ。 経営難の領主たちがこぞってあたしの商会を自領に誘致する看板になる、そのための実積作りをさせてもらうのが表向きのところ」


 「うむ、そうして王国に根を張るのが貴様の目的だったのだな。いずれは勇神に成り代わってこの国の守護者にでもなろうというのだろう?」


 「鋭いのね。で、ここからは領主ではなくて亡霊のドライスタ候への裏の話。 こちらが提供するのは資金と研究所から盗み出した勇神関連のデータ、それに私の頭脳よ。そちらの希望があれば経理と裏帳簿に明るくて口の堅い人員も出しましょう。最後のは先ほどの無礼に対するお詫びみたいなものね」


 「代理を任せる者が足りんで、何事も我が出向かぬと話が進まぬ所にその申し出は有難い。しかし、少し気前が良すぎはせんか、その対価に何を求める?」


 応接テーブルに身を乗り出して資料を広げる博士に、眉をすくめるドライスタ候。

 

 「対価はあんたのもう一つの資金源、秘匿されたアーティファクト鉱山。 その座標と密売ルートよ」


 「……それも知っておったか。 よかろう、勇神を討つ為のゴーレム開発に貴様ほど詳しい者はおるまい。我が手にあるより有効に使うと確約するならば好きにするがいい」


 「随分あっさりなのね、30年前から辺境の地に居座り続けたのは、鉱山があったからじゃないの?」


 「そうでもある。だが覚えておくがいい、貴様の活力がそのプライドならば、我のそれはこの身を焦がす忠義であると。我が主君の怨敵勇神にこの手で引導を渡せるならば、惜しむものなどあるものか」


 重ねた齢と同じだけ幾重にも張り付けた仮面の奥で、暗く燃える炎を灯した瞳が揺れる。

 ガイアス・ドライスタが見せた今宵初めての真意に、アザレア博士はこの男が亡霊と呼ばれる理由の一端を感じた気がした。


 「荒事に向いた連中と、我が建造したゴーレムも貴様のもとに預けよう。勇神には及ばぬがアーティファクトを惜しまず使用した試作機群だ。これで先の詫びの返礼としたい所だが」


 「何それ?!いいわ、これで手討ちにしましょ。後の事は追い追い詰めるとして、今夜は遅いしこれくらいかしら」


 資料の束を紐で括って差し出す博士。


 「うむ。では、下で待たせた娘の機嫌が悪くなる前に失礼する。 勇神打倒の本願に嘘偽りのない事を信じているぞ」 


 席から立ち上がったドライスタ候はそれを受け取り、羽織った外套の中へしまうと来た時と同じように顔を隠して扉へ消えた。


 「……とりあえずは狙い通りの結果だけど、冷静さを失いかけたのは反省する必要があるわね。まんまと人員の追加まで引き出されてしまったし、あれが向こうの手なら今夜は完敗か」


 応接椅子の背もたれに反り返りながら、眼鏡をはずしたアザレア博士は頭の中で忙しくなる今後の計画に一つ、ドライスタへのリベンジを追加するのだった。


今日はここまで

ようやく50回!! 何とか続ける事が出来ました。

これからもぼちぼち続けてゆきますのでどうかよろしくお願いします。

では、お読みいただきありがとうございました。

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