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ブレイブワイルド

今日も始まり、始まり


 

 『さあ、アレックス、わが友をここへ。建国の英雄にして我が生涯の戦友!!王家の紋章に記された神威の獣たちを!!』


 夏の日差しの下で、少年を見下ろす巨神は関節を光らせて立ち上がった。

 足元の怪生物に油断なく目を光らせ、ゆっくりと半歩下がる。

 大きな足音に青葉の茂る梢がゆれ、音がやんだ事で初めて意識に上る虫たちの声が波のように引いて帰って来た。

 傭兵団たちは巨神がついにこの事態を収拾してくれるのだと、期待を込めて同じように怪物から下がり、息をのんで少年に注目する。


 「はい!!」


 左手の腕輪を構えたアレックスは一つ深呼吸すると、王立研究所に眠る二体の支援ゴーレムにアクセスした。

 釘を放つ時のような意識して組み上げる力の使い方ではなく、思考の過程を飛ばして汲み上げる魔法。

 その血のうちに刻まれた完成形に集束するような、自我を切り捨て集中するほど研ぎ澄まされる感覚。

 時を欺き空間を越えて、世界の理から少しだけ逸脱した転移の力が彼の体を通してここに発現する。

 少年を挟むようにして光の門が天と地に現れ、吹き出す魔法の輝きがまるで柱の如く繋がって暴風を伴い、山の緑は水面のように波打って揺れる。

 

 「召喚!! ブレイブワイルド!!」


 高らかに響いたアレックスの声と同時に閃光が爆発し、天の魔法陣からは巨大な影が、地の魔法陣からは山のような威圧感がせり出して空間に出現する。

 光柱が徐々に細く薄くなり、魔法陣も大気に霧散して消えた後、山道に現れたのは黄金の装甲を持つ二体の巨獣であった。

 その巨体はゆうに大勇神と互角、いや、空中に出現した影が両翼を広げるとそこからさらに倍。

 直下で音もなく地面を踏んで現れた存在はシルエットに走る魔法光のラインと、爪牙の鋭さだけが煌々と輝く。

 

 「「「おおおおおおお!?」」」


 その場にいたアレックス以外のものが驚嘆の声を上げ、畏怖の感情で勇神と神獣を仰ぎ見た。

 

 天の影は巨大と表現するのが陳腐なほどの大鷲!!

 千里を見通す鋭眼と大空を自在に駆ける金属の翼を備えた黄金の猛禽!!

 かぎ爪を備えた足を折りたたみ、中空に留まる様は機械的でありながら優雅さを備えた、王国の機密技術の結晶である現行唯一の飛行型ゴーレム!!

 

 地の影は同じく巨大な黄金の機械獅子!! 

 剣歯虎のように発達した牙と四肢に備わった爪が逞しきまさに百獣の王!!

 勇神を見下ろす巨体でありながら水上歩行をも可能にする質量、慣性操作の域に達した衝撃転換装甲の究極型を備え、足音も、風圧も感じさせず、ただそこに有る不気味な無の威圧感が相対したものの原初の恐怖感をかき立てる隠密戦闘ゴーレム!!


 その名をブレイブワイルド!! 

 

 翔風機グライガルーダ!!


  『ケエエエエエエエエ───!!』


 そして獣王機ファングリオン!! 


  『ガゥオオオオオオオオ───!!』 


 見るものの目を灼かんばかりに陽光を黄金色に反射し、咆吼をあげる二体こそブレイブキャリッジに先駆けて開発された勇神の支援機にして、建国の伝説に登場する神獣の姿を与えられた王国の象徴!!

 30年前より以前にあっては共にドラゴンをも退け、操者と勇神の手足となって広大な王国を守り抜いた守護神の分神達であった!!


 『おお、友よ!!』


 巨神は自分よりはるかに巨大な黄金の獣たちに目を細め、30年の時を超えた再会に声を弾ませる。

 

 『わが身の不調により窮屈な思いをさせたが、こうして元気な姿を見ると安心致したぞ。 どうにも研究所の格納庫は狭くてのう、互いに部屋を行き来して顔を見る訳にも行かなんだ』


 「祭事の時くらいしか外に出せませんでしたからね。動いているのを見るのはボク初めてです!!」


 「あたしは話にしか聞いたことがなかったですね、こんなに大きいとは知りませんでしたよう」


 琥珀の瞳を輝かせて答えるアレックスは拳を握って、機獣が動くたびに水中に差す陽光のように反射される光を眺めている。


 『それは……、そうであったか。 さて、アレックスよ、怪物の始末はブレイブワイルド達に任せようぞ。そこな者たちは下山の支度をせよ、少々気になる事もあるでな』


 足元の少年から顔を逸らし顎を撫でる勇神は、大鷲の影の下で空を見上げて装甲の合間からにじむように魔法光を放って肩を少し下げる。

 巨神の言葉が終わるか終わらないかの内にいずこかへ駆けだしたファングリオンは無音を残し、枝を折ることなく木々の上を踏んで風のように消えた。

 同時に舞い降りたグライガルーダは鉤爪で焦げた怪生物を掴むや否や、一つ大きく羽ばたき悠々と高度を上げ、速度を上げて爆発音と空気の壁がはじける円を振り切り、白い軌跡を爪痕のように空に残してさらに遠くなった。

 



 カッ―――




 天空を駆け行く大鷲がそのシルエットを視認するのが困難になるほど小さくなって、キラキラと何かを蒔いた次の瞬間、グライガルーダの航跡から泡立つように火球が発生し、天球に無数の太陽が出現した!

 濃い青の中に浮かぶ夏雲が、輪を広げたように歪み引き延ばされて千切れて消える!!


 『言い忘れたが、耳を塞いだ方がよいかも知れぬぞ』


 一行の前に覆い被さるようにして屈んだ勇神が言い終わるかした次の時には、大の大人が浮き上がる程の暴風と爆音が上から大地を襲った。

 

 


  ゴゴゴゴゴゴゴオォォォォ!!  



 

 「うわわわわっわわわ!」

 「王子!!手をこちらへ!!」

   

 反応の早かったモニカが逆さに浮き上がったアレックスの服の袖を掴んで、自身の胸元に引き寄せ抱え込んで地面に伏せる。


 「「「んぎゃあああああああ」」」

 「だあっはあっはあああああああ!?」

 「アニキぃぃぃーーー!!」

 

 傭兵団とワッジ達は砂利道を転がって吹き飛び、勇神の伸ばした手の平に受け止められて伸びてしまった。


 『うむ! 久々に見るとなかなか爽快な火力じゃのう、流石は大勇神の武装の原型だけのことはある。範囲が広すぎて使い所が難しい以外は文句なしじゃ。いささか過剰であった気もするがまた逃げられるよりは良かろう!! ああ、すっきりしたわい!!』


 何故か我が事のように得意げな勇神がかっかと笑うのを、ただ一人まともに意識を保っていたモニカが砂まみれになりながら聞いていた。


 (もしかして腕だけ出して置いて行かれたの、傷ついていらっしゃったのですかねぇ……?)


今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。


関西、北海道の被災地の方がたに心よりお見舞い申し上げます。

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