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気持ちと決まり

今日もはじまり、はじまり


 アレックスは山賊改め傭兵団、青銅の蹄の一団が揃って蹲り、肩を震わせるのを見て目を伏せた。

 彼らは悪意ある山賊ではなかったが、危険から遠ざけるためとはいえ無辜の旅人を襲っていたのも事実。

 周辺に恐怖をもたらし流通を妨げ、孫を楽しみにしている老人の心を痛めた張本人なのだ。

 たった数日街道が封鎖されただけで宿場町は混乱し、道の先の村もまた同じように不安に苛まれたことは想像に難くない。

 守護神の半身として政治からは距離を置いているとはいえ、為政者の一族に名を連ねる以上は彼らを見過ごすわけにはいかないのだが、仲間の死を悲しみ頭目の後悔を分かち合う傭兵団は、彼の幼い判断力を大いに掻きまわした。


 「勇神様、ボクはどうしたらいいのですか……?」


 左手の腕輪に向かって、少年は細い声ですがるように訴えかける。

 

 「役目のままに覚悟を決めて来たのに、戦うべき相手はここにはいませんでした。捕まえなくてはいけない彼らはとても辛そうにしています。王国の民の平穏を守ることがボクの使命なのはわかっていますが、それでも……」


 善悪は決して対立するものではない。

 善意からの行いが人を苦しめる事もあれば、悪意からの行いが誰かの助けになる事もある。

 アレックスはそれが理解出来ないほど子供ではなかったが、目の前にある物事を事務的に処理出来るほど立ち位置の定まった大人でもなかったのだ。

 まだ11歳の彼の心はぐるぐると渦を巻いて、小さな肩に改めて使命の重みがのし掛かる。


 『助けたいか? お主の迷いはもっともじゃ、アレックスよ。今は大いに悩むが良い』


 腕輪から響く勇神の声は厳かに、しかしアレックスの求めていた答えを与えるものではなかった。


 『此度の一件では、この者達は加害者であり、また被害者でもある。やむを得ず悪行を為しはしたが、命を失う報いを受ける程のものでは決してなかったであろうよ。じゃがアレックス、そこはお主が決めてはならぬ事、判断してはならぬ領域であるぞ』


 目の前にいないはずの勇神の、厳しい顔に見つめられている気がしてアレックスは身をこわばらせる。

 普段は彼に甘いと言っても良い守護神が、自分に何か伝えるためにあえて厳しくあるのだと感じたからだ。

 

 『この国を作ったのは儂で、統治しておるのはお主の父であるジョンじゃ。しかし、この国はそこに住まう者達が等しく生きる地、それを治めるのは法でなくてはならぬ。王族であっても、守護神であっても一時の感傷で判断を誤ってはならぬのじゃ』


 「国と、法……」


 『そうじゃ。昨夜お主が街の者にも言ったことがあろう、王国の民ならば勝手は出来ぬものだと。万が一やむなく法を越えて何かをなさんと欲するなら、その行いによって起きる事全てにお主は向き合わなければならぬ。為政者とは常に周囲から試され応え続けるもの、自らの定めた法に背く事は、自分自身の信用に背く行いであると心得よ』


 「……」


 「それは、王子のお立場も法によって定められているからですか?」


 横で聞いていたモニカが、黙ってしまったアレックスの代わりに尋ねた。

 俯いてしまった少年の肩に思わず伸ばした手を、触れる前に握り直した彼女は勇神に不満があるように声を張る。


 『そうでもある。娘よ、お主もアレックスの側におるなら理解せよ、儂らは先人達の積み重ねの上に立って今を生きておる。価値観の変化や時代に合わせアルフレッドが改正の手続きを進めておる法も少なくないが、現代では悪法でもかつては必要なルールであったものなのじゃ。儂とてアレックスの優しさがわからぬではないが、押し通す事だけがアレックのためになるなどと言う考えは捨てよ』


 「むぅ」

 

 『それにな、この傭兵達はお主らが放免したとしても出頭し縛に付くであろう。自らの行いにけじめをつけ罪を濯ぐ覚悟のあるものに、罰を与えるのも慈悲ではないのか。法とは感情も含めた不特定多数の利害を調節する為にあると今は覚えておくがいい』


 まだむくれてそっぽを向いたままのモニカを諭す勇神の口調は、いくらか和らいだようだった。

 暫く黙ったまま下を向いていたアレックスは煙を吸い込みそうになった鼻をこすると、少しだけ空を仰いで深呼吸をした。


 「何だか難しくて、ボクにはまだ良くわかりません。でも、彼らについては勇神様の仰る通りだと思います。今はこの怪物を片付けて安全に山を下りて、それから考えます」


 真夏の日差しは容赦なく、少年と少女に降り注いだ。


 『それが良い、物事の優先順位を誤ってはならぬ。先ほども言った通り大いに悩まなければならぬ複雑な問題なのだ。時間のあるときにゆっくり考えると良かろう。差し当たって先ず、瓦礫の下で埋まっておる儂の腕をどうにかしてくれまいか?出すにしろ戻すにしろ魔法陣が狭くて動きが取れんで困っておるのじゃが……』


 「わぁ!忘れてた!! ごめんなさい勇神様!! 直ぐに出します!!」


 『良い良い。儂も合流するでの、傭兵の話の続きはそれから聞こうか』


 「はい!! ごめんなさい~!!」


 左手の腕輪を頭の上に掲げて、アレックスは真っ赤になって魔力をこめるのだった。





 『ふんむ……、もう頭部の再生が始まっておる。儂の知識の中にもこのような生物は無い。まさしく怪物であるな』


 頭目の知る限りの情報を聞き出し怪物について対処法を議論する段階になって、膝を着いて人食いの躰を検分していた勇神が、顎をつまんで一人ごちる。

 傭兵団と強盗二人が控えた山道で、アレックスは勇神を見上げていた。

 

 「三人がかりで魔法をぶつけたのに……、勇神様ならどうにか出来るものでしょうか?」


 『さてのう、ブレイブキャノンならば跡形もなく消滅させられようが、あれは今大破して霊峰にあるからのう……。翠星王が修復に必要なアーティファクトを見繕ってくれておるが、現状では召喚に応じる事も出来まい。かといって素の儂では先ほどの通り、形を変えて逃げられるだけであろうな』


 「まいったなあ、ブレイブパイクはどうでしょう、合身して」


 『それも難しかろう。魔法が有効なのは間違い無いが、お主の魔法は破壊に特化したものではない。純粋エネルギーを杭の形に固定しておるだけで、その本質は召喚魔法と同じ空間操作にある。大勇神の武装とは比ぶべくもないのう』


 半眼になった巨神はまるで人ごとのように顎をさすった。

 生前はそこに髭があったのか、考え事をする時の癖でもあるように見える。

 数少ない自分の役割を否定されたアレックスはショックで涙目になってしまった。


 「あれもダメ、これもダメじゃあ先へ進みませんよう」


 『逸るな娘よ、アレックスも落ちつかぬか。今ここにある手札では無理だというだけじゃ。どうにか出来るモノを召喚すれば良い』

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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