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必殺技

今日もはじまり、はじまり


 化け蟹ゴーレムの中の強盗達、兄貴分のワッジと弟分のザッカーは、自分たちが完全に包囲されていることに気づいた。

 ようやく立ち上がったゴーレムの頭から見下ろせば、交差点の四方には盾を構えた騎士団のゴーレムが配置され、万に一つも突破は不可能。機体を捨てて逃げたとしても、随伴騎士が道路を封鎖していて叶わない。

その上王族にあれほどの狼藉を働いた以上、投降してもあまり宜しくない未来しか待ってはいないだろう。


 そして、広場に進み来る勇神の、怒りで赤熱したかのような変容に戦慄した。


「やるしかねぇなザッカー おめえと組めて良かったぜ…」


「とんでもねぇでヤンス!!アニキと死ねりゃ本望でやんす」






『「王都を騒がす悪党め!!この勇神と!アレックス第三王子が相手だ!!」』




『格闘戦は儂の出番じゃ!!』


 先に距離を詰めたのは勇神の方であった。

 関節に蓄えた反発力を青白い魔法光として吹き出し、一瞬身をかがめると剛拳を繰り出した。

 10メートルの巨神が放つ右ストレートだ!!爆音と閃光が飛び散る!!

 たたらをを踏んで持ちこたえた巨大蟹が振り回すアームを平手で受け流しながら、大振りの隙に拳を打ち込んで行く。

 勇神の蓄えた戦闘経験は熟練の拳法家のように、素早く、重く、的確に相手の急所を狙い撃つ。ただ一度の被弾もなく、拳打の連続は化け蟹を追い詰めてゆく。

 押し込まれた蟹は、割れた甲殻の隙間から出血するように黄色の光を放ちながら、今度は殴りつけるのではなく、ハサミを全開して突きだした。

 勇神の体のどこかでも挟み込み、体格差の勝負に持ち込むためだ。

 目の前に迫り来る重機械の断頭台!!

 しかし勇神は慌てる事無く両手でハサミを上方に反らすと、体を斜めに滑り込ませて六本足の最前列、攻撃の為に重心の掛かった二本を地を這うような回し蹴りで折り砕いた!!


 『「どうだ!!」』


 たまらずバランスを崩す化け蟹が、正面から地面に倒れる。

 距離を取って油断なく構える勇神の拳にはまだ力が入ったままだ。


 「なんの!!」

 「まだまだでヤンス!!」


 腕立て伏せの要領でアームを使って立ち上がろうとする蟹の、ひび割れた胴体から8発の砲撃音が響く!! 作業機械が備える筈のない武器の不意打ち。

 驚く勇神の隙を突いて飛来するものは巨大なワイヤーアンカー!

水中や足場の悪い現場の作業で機体を固定し、巻き上げ機を使って自身を引き上げる強度を持つ蟹の持つ機能である。本来なら安全第一の強い味方、現場のお父さん方の命綱は、ぐるぐると巻き付いて勇神を雁字搦めに捕らえてしまった。


『「うわわわ!」』


 ワイヤーに巻き取られ、アンカーを地面に打ち込まれた勇神は、直立したまま動けない!!


「打つ手はねぇ!勝ち目もねぇ!でも 投降したって命がねぇ!!でヤンス」


「逃げ場はねぇ!秘策もねぇ!だけど俺たちゃ諦めねぇ!!あがいてあがいて一華咲かすゥ!!伝説の勇神なんぼのもんじゃぁぁぁい!!」


 四本足になって多少ふらつきながら走り出した化け蟹!!機体の限界が近いのか、破れかぶれで勇神諸共に倒れるつもりであろう、最後の突進を仕掛ける!!


『アレックス!、任せるぞ!!』


「はいっ!!」


 可愛らしく、しかし勇ましく返事をしたアレックスの得意は魔法。 うんうんと集中する声と共に勇神の周りに陽炎が立ち熱が集まる。

 融解して燃え落ちるワイヤーを振り払うと、弓を引くように左手を突き出す。

 右の拳は顔の横で引き絞り、両の手の間には一本の光の杭が出現する。


「ブレイブ・パイク・ストライク!!うわあぁぁぁぁ!!」


 それは悪しきものに打ち込まれる断罪の一撃、不死の怪物の心臓すら穿つ白木の杭!!アレックスの操る勇神もまた、蟹を正面から迎え撃つべくよろけながら突撃する!!




 両者の雄叫びの激突は、蟹の胴体に右手を深々と打ち込んだ勇神の勝利で終わった。

 貫通した光の杭が霧散して消えゆき、勇神にもたれ掛かるようにその動きを止めた蟹が各部から少爆発をあげる。


 騎士団が駆け回り怒号が飛び交う中、地響きを立ててゆっくりと両者は大通り公園の真ん中で倒れた。






 「お迎えにあがりました王子、起きて下さいよう」


 騎士団が設営したテントで横になっていたところを優しく揺さぶられ、アレックスは目を覚ました。 昼間の戦いからもう時間が経ったのか、空が赤く染まってきている。


 「モニカ……」


 「はい。王子の忠犬モニカでございますよ。ご無事で何よりでございました」


 優しく語りかける栗髪の美少女に、アレックスは体を起こして尋ねる。遠くには片付けの音か、たくさんの人間が作業する気配が動く。


 「ボクは…… 寝てたの…… あ!強盗は?勇神様はどうなったの!?」


 「勇神様はお帰りになりましたよ。王子を看ていたいと暫く粘られたようですが、さすがに騎士団の皆さんも気を遣うだろうからって、先ほどオットー副長さんに説得されまして」


 アレックスの服装を整えながら答えるモニカ。その見た目は年の離れた弟の世話を焼く姉のよう。


 「強盗は、どうやら逃げられてしまったようで…… 騎士の方から聞いたところ、ゴーレムが倒れて騎士団が向かう間に、マンホールから下水道に逃げたとか」


 「そう…… せっかくみんなが助けてくれたのに、ボクは」

 

 町を騒がしただけではないか…… 毛布を握って俯くアレックスをみて、モニカはぱちんと手を叩く。


 「そうでした!伝言をお預かりしてたのを忘れるところでした!勇神様と、それ以外がありますが、どちらからお伝えしましょう?」


 「それ以外って、いや、勇神様のからお願い」


 「はい『見事な初陣であった。だが、精進せい』だそうです。ホントはもっと長々と、王子を褒めたり愛でたりなんやかんやあったんですけど、そんなのみんなわかってるんで要点だけモニカが纏めました!」


 「うぅ……」


 褒められた嬉しさと、恥ずかしさと、至らぬ不甲斐なさから毛布を握って真っ赤になったアレックス。

 

 「そしてもう一つ 「金庫を取り返してくれてありがとう」 だそうですよ。あの太ったおっさんとその家族からでした。勇神様が蹴っ飛ばして転がったのを、私が確保してたんですよう」


 「え?」


 アレックスの目が丸くなる。


 「んもう!王子は立派に務めを果たされたのですよ!もっとしっかりして下さいまし!ゴーレムを退け、市民の財産を守ったヒーローじゃないですか!!」


 簡易ベッドからアレックスを立たせると、靴を履かせて背中を叩く。背の低いアレックスに歩幅を合わせて、モニカはゆっくり歩き出した。


 「そう、かな…… えへへ」

 

 「そうですとも!王子は笑顔が一番です さあ、今日はもう帰りましょう。面倒な事はオットーさんが引き受けてくれるみたいですし、ヤマガタさんがご飯作って待ってますよきっと」


 「うん じゃあ騎士団の皆さんに挨拶したら帰ろう! なんだかおなか空いてきちやった…… そうだ!モニカ、ボクの串焼きどうしたの?食べかけだったの渡したよね?」


 一歩先を行くアレックスがくるりと振り返って止まる。

 

 「あれですか?冷めてた上に、土でじゃりじゃりしてましたよ?」


 「へー…… えぇぇ!?食べたのー!?」

 

 「はい 美味しゅうございました♪」


 「っっつ――////」


形の良い唇を桃色の舌でちろりと潤して答えるモニカを、アレックスは帰るまでまともに見る事ができなかった。


今日はここまで、次回「博士登場」

お読みいただきありがとうございました。

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