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山賊

今日もはじまり、はじまり


 「ひいい!山賊だぁ!!」


 なるべくわざとらしくならない程度に大声で、御者台にいたワッジが叫ぶ。

 前脚を上げて驚く馬を山道から転げ落ちないように何とか落ち着けた彼は、日よけの下から魔法の飛んで来た方向を探った。


 (初手に魔法を惜しまないとは、なかなかの手練れじゃねぇか……)


 馬車の前方に突き刺さったつららの角度を見極めながら、襲撃者の次の手を読む。

 町長の話では、街に雇われた腕利き曰く山賊は4~5人、魔法使いは居るが判別がつかないうちに武装解除されてしまったとのこと。

 魔法で馬を止め、集団で不意打ちをかけるのが敵のセオリーであろう。


 (となるともう囲まれているだろうな。せいぜい派手に暴れてから逃げてやりますか……)


 ガサガサと茂みを揺らして木々の間から姿を現した男達に、一応おののく振りをしながら素早く人数を数えて馬車を止めると、ワッジは手綱を握ったまま固まった。

 背後から馬車を囲むように、山賊はそれぞれ黄色い歯を並べた髭面を嫌らしく歪めて蛮刀を鈍く光らせ、狭い山道を封鎖して馬が向き直るのを許さない。

 そもそも臆病な生き物である馬は、訓練していなければ溝も横木すら跨ぐ事を恐れるものである。

 人の膝丈ほどもある氷柱を越えて先へ走り抜ける事など、とてもではないが不可能なのだ。


 「へっへっへ……命が惜しかったら金と食い物を置いて行きな!!」

 

 髭面の男たちの中でひと際迫力のある男がワッジに向かって蛮刀を突き付ける。

 なるほどその動きには隙が無く、そこいらの腕自慢など相手にならないほどの死線をくぐってきた事のうかがえる足運びであった。

 勇神に関わらずに破落戸を続けていれば、いつかは自分もこのように身を持ち崩していたのかもしれないと考え、ワッジは思わず口元が緩むのを感じた。


 「てめぇ!! よっぽど痛い目に遭いたいらしいな!!」


 目ざとくその様子を見付けた山賊の1人が息をまく。


 「痛い目に遭うのはあんたらのほうだぜ……先生!!お願いします!!」


 「お任せあれでヤンス!!」


 ワッジの声を合図に、大きな体を窮屈そうに屈めたっぷり時間をかけて馬車の扉から外に出たザッカーが、その巨体に圧倒されて不意打ちを忘れてしまった山賊たちに対峙する。

 鎧を着込み両手持ちの大剣をそれぞれ片手に一本ずつ抜きはなって構えるさまは、並々ならぬ使い手を想像させる堂に入ったものであった。

 5人現れた山賊は目線を交わし、誰が先に仕掛けるか互いの腹を探りあっている。

 

 「どうしたでヤンスか?丸腰の素人しか相手に出来ないと泣いて謝るなら、ここは見逃してやっても良いでヤンスよ」


 下っ端口調はそのままに、用心棒になり切ったザッカーが凄む。

 威嚇の為に振るわれた大剣は、夏の日にきらめく切っ先で空気を裂いて鋭い音を響かせた。


 「面白れぇ…… こいつはオレが引き受ける!! 貴様らはさっさと仕事を片付けろ」


 膠着した包囲網から一歩進み出た、山賊の親玉とおぼしき男が蛮刀を斜めにして配下に言うが早いか、猪のごとくザッカーに打ちかかる。

 大剣のリーチの内側に入り込もうと素早く踏み込み、時に拳や蹴りを交えて蛮刀を振るう。

 対してザッカーは器用に二本の大剣を操ると、刃ではなく剣の腹を盾のようにして敵の攻め筋を封じ、そのまま面で打ち付けるようにして間合いから相手を追い出した。

 

 殆ど立った位置から動かないザッカーに比べて、右から左から目まぐるしく立体的に跳ね回る山賊の親玉は、やはり山の地形に慣れているのか次第に手数を増してゆき、他の山賊に対応できないようにザッカーを釘付けにすることに成功した。

 馬車を背にはしているものの、親玉の猛攻をしのぐだけで手いっぱいに見えるザッカーは馬車に手を掛ける山賊に対応できずにいる。


 「ぐぬぬ、アニ……、御者殿!! お嬢様の事もあるでヤンス!! ここは逃げ延びることの方が肝心でヤンス!!」


 「合点だ!! 先生、俺たちは荷を棄てて先に行きますぜ!!」


 「自分が隙を作るでヤンス!! フンッ!!」


 あらかじめ決められた合図に沿って、ザッカーが片手の大剣をブーメランのように投げる。

 回転して飛ぶ鉄の塊は馬の鼻先をかすめ、山道をふさいでいた氷柱を粉砕して道を開いた。

 

 「お嬢!!こちらへ!!」


 今日は驚いてばかりいる馬が身をよじり、馬車を大きく揺らす。

 その動きに山賊たちが手を離した隙に、ワッジは馬車の戸を開けると、中から着飾ったモニカの手を引いて外へ出す。


 「ああ、あたしのおかねが~」

 「そんなのいいから!! 逃げますぜ!!」


 三人の中ではぶっちぎりの大根役者っぷりで、棒読みのセリフを残しワッジと走り去る。

 それを見届けたザッカーはもう一本の大剣を渾身の力で親玉に叩きつけると、武器をその場に残して二人の後を追って駆けだした。

 

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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