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夕食会

今日もはじまり、はじまり


 (ななな、なんであのガキがこんな所にいるんでヤンスか!?)


 (俺が知るかよ!)


 目線で会話をしてアレックスの後ろを付いて歩くワッジとザッカーの強盗コンビは、大きな荷物を二人で引きずりながら滝のような汗を流して混乱していた。

 まさか王都で自分たちを二度も打ちのめした勇神の半身に、こんな所で相まみえようとは誰が想像したろうか。

 モニカと言ったか、付き人らしき少女と一緒になって広場の中心で待つ老人に向かって進み行く少年が、いつ自分たちの正体に気づきはしないかと恐ろしくて仕方がないのだ。

 後ろ頭で脈打つ拍動が耳に響き、喉に詰まった緊張が呼吸を短くさせて、互いの顔を近づけ音を出さずに会話をする。


 (このまま明るい所に出たらさすがにバレるでヤンス)


 (この状況で逃げる方が不自然だろう、覆面をしていない俺たちの顔は知らないはずだ。旅人を装って成り行きで別れちまうのがいいと思うぜ)


 (大丈夫でヤンスかね……? あ、アニキはバンダナしてないとマズいんじゃないでヤンスか)


 (てめぇまで俺の髪を言うか……!! いや、確かにあのガキ、一度見たことがあるんだったな。暑くて蒸れるが仕方ねぇ、まき直すから荷物下ろすぞ)

 

 (了解でヤンス)


 休み休み移動する振りをして荷物を地面において、ソコソと見た目を整えている強盗コンビの先で、町長のところにたどり着いたアレックスとモニカの会話が聞こえる。


 「……山賊の___魔法使い___で___炊き出し___」


 「それはそれは、では___で__……どうでしょう?__」


 「それでは__に…………するといですよう。___ですし」

 

 聞こえる音だけを拾ってみるが、どうやら今夜の食事について算段をつけてくれているだけだと判断して、ワッジはひとまず胸を撫でおろした。

 こちらの正体を察したわけでもなく捕まえる相談をしている様子もなく、明るい調子で会話が進められていることに、一時の安心を感じる。

 ひとまずの危機は脱したと、次の逃げる段取りを頭の中に描きながらバンダナを巻き直したワッジがザッカーと共に嫌々追いつく頃、少年たちと町長との相談も終わったようだった。

 老人の前で二人に向き直ったアレックスが、薄闇でもわかるほどの可愛らしい笑顔を見せてくる。


 「魔法使いさん、こちらがこの宿場町の町長さんです。今お願いしたところ、今夜は僕たちと一緒にお宅に泊めていただけるそうです!!良かったですね!!」


 「「エエ、アリガトウゴザイマス」」


 強盗二人は引き攣った頬でやっとそれだけ返すのがやっとだった。




 

 すっかり真っ暗になった夏の夜、アレックスとモニカ、強盗コンビはそろって町長宅のテーブルに就いていた。

 食卓には焼いた山鳥、蒸かした芋、野菜のスープなどが盛られた来客用の上等な食器がきれいに並べられており、準備不足は否めないものの精一杯のもてなしを感じさせる暖かな光景である。

 普段より明るくするためであろう、両手の指の数よりも多く灯されたロウソクに、時折虫が飛び込んで音を立てる。


 「こんなものしかご用意できず、お口に合いますかどうか……」


 武具を外した町長が料理を前に恐縮する。

 初めは別々に食事を取るように手配していた町長であったが、アレックスの強い希望で同じテーブルにての夕食会を兼ねた山賊の情報交換会となったのであった。

 

 「とんでもありません。急にお邪魔したのにこんなに……」


 「有難く頂戴しやす。しかし王子様、ほんとに俺たちまでご一緒してもよろしいので?」


 「構いませんよう、王子は大人数がお好きなんです。それに食べてからお話しするとなると、お休みになってしまうかもしれませんし」


 「そ、そうなんでヤンスか……」

 

 テーブルの隅っこに座ったワッジとザッカーが小さくなっている。

 どうやらアレックスがこの二人を山賊退治に来た魔法使いだと町長に吹聴したようで、同じテーブルで食事を取るように言われたのだった。

 人の家でバンダナを取らない事で何か言われると心配したが、魔法使いには変人が多いと世間に知れているためか、特に何も言われずに済んでいる。


 「では町長さん、山賊の事をお聞かせ願えますか。人数とか、装備とか、わかる事は何でもいいですよう」


 アレックスに料理を取り分けながら、モニカが話を進める。

 彼女はアレックスが今度こそ食べ過ぎないように目を光らせているのだ。


 「おお、そうでした。奴らはここ数日このダーチュの宿場町と人造湖との間に現れました。荷馬車を襲い金と食糧を奪って辺りを混乱させておりますのでな、騎士団の派遣を要請しましたところ、なんでもドラゴンが出てそれどころではないと」


 エドモンドと名乗った禿頭の老人は食器を置いて、姿勢を正すと話始めた。


 「彗星王さまかなモニカ……?」


 「おそらくそうでしょうねぇ……」


 この町の苦境の原因に心当たりのあった主従が、顔を見合わせてバツが悪そうにする。


 「いや、派遣には時間がかかるとの事でしたな。王都の近くの街道が大変な事になったとかでして。ワシらもお国の事は何となく理解しておりますでな、物事には順序があるのはわかっております」


 その様子を見て町長エドモンドは慌てて手を振った。

 ロウソクの火がゆらゆらと揺れて、各人の影を伸ばしたり縮めたりして壁を撫でる。


 「それで泊り客の中で用心棒やら腕に覚えのあるものを雇って偵察に行くよう頼んだのですが、逃げ帰ってまいりまして、次は大人数でと今夜の集会に至った訳ですな。 先に山賊を見たもの達の話では賊は4~5人、魔法を使うものも居たとの事です」


 「武器まではわからねぇんですかい? 今の話じゃ何にも分からねえのと同じですぜ」


 「はて、山に入った所で急に襲われて、武器を取り上げられたとかで戦い方などは全く……」


 困り果てた町長の肩に、飛んできた蛾が一匹止まった。



今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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