遭遇
今日もはじまり、はじまり
アレックスの説得と町長の鶴の一声で、広場にいた者達はとりあえず解散することにしたようだった。
幾人かは連れだって町長のもとにやってきてひそひそと小声で何ごとか話し、アレックスを見ては頷いたり、頚を振ったりしていたがやがて一人、二人と人数が減っていった。
町長を待ちながら広場の様子を見ていたアレックスだったが、めいめいの家へ帰る男達と、炊き出しの後片付けをしている女たちの表情が、何処かほっとした様子であるのに気がついた。
夫や息子たちが山賊狩りに行くと決まって心配だったのだろう、一緒になってたき火の後片付けをする者達には笑顔も見える。
「ボクたちで山賊を捕まえて、早く皆を安心させてあげないとね」
明かりが減って薄暗くなって行く中で、手を取って帰って行く者達の背中に目が行ったのか、アレックスはモニカにだけ聞こえる声で話しかけた。
「誰だって戦うのは怖いんだ。きっと勇神様だってそうなんだと思う。でも、大切な人の為ならいつもは戦わない人だって、あんな風に武器を取ってしまう」
「はい」
「ボクはそれが悔しい。あの人たちの手は家族や友達の為に使って欲しいんだ。勇神様がボクの辛いことを引き受けて下さるなら、ボクは皆の辛い所を何とかできるようになりたい」
後ろからアレックスを見ていたモニカは、この主人が諍いを好まない性格であると知っている。
年相応に活発ではあるが、どんな理由があろうとも人を傷つけることはしない、優しい少年なのだ。
かがり火が減って僅かな街灯だけになった広場はもう、あるじの表情さえ見えないほどになってしまった。
「王子は立派に役目を果たしていらっしゃいますよう。何もかも背負い込んでいるとあんな風に倒れてしまいます」
広場の隅でバランスを崩し転んだものが同行者に助けられて、何とか立ち上がろうとしているのが視界の端に入って、モニカはアレックスの背中を叩いた。
「とりあえず目の前の困ってる人を何とかしましょう。千里の道も一歩からですよ」
夜目の利くモニカが先に立って歩き出すのを、アレックスはとことこついて行く。
彼はまだ広場の端の暗がりで倒れたものが見えていなかったが、近づくにつれ男が二人難儀をしているのだとわかった。
「アニキ、もうちょっとですからそっち踏ん張って下さいでヤンス」
「すまねえな、体は半分出てんだが脚が抜けねえんだ」
転んだ拍子に荷物に潰されたのか、痩せた男が腰から上だけを自由にしてもがいている。
鎧姿の大男は何とか荷物をどかそうとしているが、動きにくい格好のせいでいまいち力が入らないのか、大きな荷物を揺らすだけが精一杯のようだった。
暗がりでえいえいと掛け声をかけている二人の近くまできたモニカとモニカは、荷物に手をかけて一緒になって力を込めた。
「怪我はありませんか? 荷物をどかすの手伝いましょう」
「あたしこっち持ち上げます。 せーので一気に行きますよ」
「助かるでヤンス」
荷物にかけてある紐に指を引っかけて、軽く揺すって重さを確かめたモニカが音頭をとる。
「「「せーの!!」」」
三人の掛け声が暗がりに響き、一人がけのソファーほどの大きさの荷物が浮き上がった。
「ありがてぇ、よし!抜けた!! あどっこいしょォォ!!」
下敷きになっていた中年男は匍匐前進でかさかさと荷物の下から這い出ると、ぺたんと尻餅をついた格好で大男の足下に座った。
「いやあ助かりやしたぜお嬢さんがた。馴れない量の荷物を持つとこのざまだ、情けない事だが歳なんでしょうね。お手を煩わせてどうも申し訳ねえです」
頭に巻いていたバンダナで汗を拭きふき、下敷きになっていた脚をさすりながらぺこぺこと頭を下げる。
薄暗がりで顔は良く見えないが、細身の中年男は旅商人の格好をして、人々の向きとは逆に広場に入ろうとして転んでしまったようだった。
「どうもありがとうでヤンス。アニキ、脚は無事でヤンスか?」
「おう、おめえも疲れてるのにすまねぇな。脚はこの通り、怪我はしちゃいねえから心配いらねぇ。 俺のせいで炊きだしに間に合わなかったみてぇだな……」
側にかがんで鎧の大男が気遣うのを手で制して、細身の中年男が立ち上がる。
軽く脚を踏みしめたり、石畳につま先を付けて足首の動きを確かめたりしていたが、片付けの進む広場の様子に気づいたのか、肩を落としてしまう。
「ボクたちも炊きだしに来たんです。集会はもう解散になりましたけど町長さんがまだいるはずですから、何処か泊まれないか聞いてみましょう」
「いやぁ、何から何まですいませんねぇ。街に着いたらもう門が閉まってて、山賊退治に魔法使いを探してるからってぇンで何とか入れて貰ったは良いものの、宿は何処も一杯で歩きづめだったんでさあ」
「疲れが出たんでヤンスね。早く何か食べたいでヤンス」
「あら、あたしらもそうですよう。山賊の事で炊きだし頂くの忘れてました。王子はお腹空きませんか?」
王子という単語が聞こえた途端、薄暗がりの男達がぴたりと止まる。
片方は鎧をカチャカチャと鳴らして震えだし、痩せた男の方は荷物に手をかけて凍りついたようにしていた。
表情の見えない暗がりでも男達が大量の汗をかいているのが気配でわかる。
「どうしたんですか? ボクたちが一緒に町長さんにお話しするので、着いてきて下さいね」
先に立って歩き出すアレックスの後ろで、元強盗コンビは顔を見合わせて歯を鳴らして震えていた。
今日はここまで
お読みいただきありがとうございました。




