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宿場街

今日もはじまり、はじまり


 日が暮れた宿場町の広場は物々しい雰囲気に包まれていた。

 たいまつを持った逞しい若者達が手に手に獲物を握って集まっており、ちらほらと鎧を着けた者の姿も見えた。

 かがり火の熱気と人だかりで膨らんだ空気は近寄りがたく殺気を含んで、夜空に火の粉を上げる。

 炊き出しの大鍋が並んだたき火を中心に、周りをぐるりと取り囲んだ男達の影は長く伸びて怪しくうごめいていた。


 「戦える者はこれで全員か」

 「宿泊客の中でも協力してくれるヤツを頼んで来い!謝礼は街が出す!」

 「魔法使いが足りないな、どうして巡回騎士が不在の時に……」

 「町長は年なんだからウチにいて下さいよ」

 「わしゃまだまだ現役じゃい!!みゃでゅまでゃわぇきゃうぃもんにふぁ……」

 「ほら入れ歯!! 入れ歯飛びましたよ!!」

 

 炊き出しついでに話を聞こうと広場に到着したアレックスは、集まった人々の様子に驚いてしまった。


 「あの、こんばんは。この集まりは何事でしょうか……」


 おそるおそる話しかけた少年に、町長と呼ばれていた老人が頭を下げて応じる。


 「おお、これはこれは貴族様ですな。今晩はご迷惑をおかけしております。この先の街道に先日から山賊が出ましてな、血の気の多い者がこれから山狩りをすると言って聞かんのです」


 モニカとアレックスの格好を見て、少年の左手の腕輪に目が行ったのであろう、腰の低い態度と丁寧な話し方をする。

 アレックスが来たことで落ち着いた様子だったが、先ほどは入れ歯を飛ばす程興奮していた名残か、額には汗をかいている。

 若い者が血気にはやっていると口では言うが、彼自身も腰に剣を下げており、騒動を加熱させていた一人であったようだ。

 

 「私も騎士団の派遣をお願いしたり、腕利きを雇って山賊を排除しようとしたのですが、いかんせん神出鬼没な上に腕も立つ厄介な奴らでしてな。町民の我慢もそろそろ限界なのです。 ああ、お泊まりの場所をお探しでしたらもう宿は塞がっておりましょう、よろしければ私の家にお越しになられますか?」


 「それは助かります。あ、申し遅れました、ボクはアレックスといいます。こっちは家族のモニカ。王都から来ました」


 「アレックス王子の忠犬モニカと申します。ご厚意に甘えさせて頂きます」


 行儀良くぺこりとお辞儀をする二人の名前を知って、町長は目を見開いて驚いた。


 「アレックス王子と仰ると、もしかして第三王子様でいらっしゃいますか!? これはこれは失礼いたしました! おい!皆も一旦落ち着きなさい、王子様の御前だぞ! 静かにせんくぁふぁあぁ!」


 また入れ歯を飛ばしそうになって、広場に集まった者達に声を張って騒ぎを静めるとアレックスの前に膝を着いた町長。

 後ろにはおよそ200人ほどの男達がたいまつや武器を持って、町長と同じように平伏している。

 

 「何か変な事になっちゃったねモニカ」


 「こうなるのが普通だと思いますよう。王子は無自覚に王都を散歩しすぎです」


 すっかり注目されてしまって、モニカは呆れたようにアレックスの後ろで呟く。 

 王子として幼少時代を過ごしたものの、勇神の操者として訓練を始めてからはあまり世間と関わりが無かったアレックスは、良く言えば分け隔てのない、悪く言えば無神経な所があった。

 他人を思いやる優しさはあるものの、王族としての威厳に欠けているとでもいうのか、全く人に対して偉ぶる所がない。

 それは時としてモニカのような者の心を捉えもするが、彼の人となりを知らないものには混乱を与えてしまう場合の方が多かった。

 王国を統治して400年、王家はその絶対な支配力を維持し続けており、市井の者にとってはまさに雲の上の存在であるからだ。


 「そうかなぁ?」


 「そうですよう!でも、そこが良いんですけどね。こうなったら関わり合いです、王子もそのおつもりでしょう?」


 うーんと頚をかしげるアレックスに、笑顔で後押しするモニカ。

 

 「うん。困っている人がいたら放ってはおけないからね。町長さんも皆さんも、お顔を上げて下さい。山賊についてもう少し詳しく教えてもらえませんか」


 「皆さんどうぞお立ちになって結構ですよう。王子は堅苦しいのがお嫌いな方ですから、事情に詳しい人がいらっしゃったらお近くまでお願いします」


 二人が声をかけるが、誰も隣の者と顔を見合わせるだけで立ち上がろうとはしない。

 それもそのはず、無礼講と言われて本当に無礼講になる事は無いと、皆知っている大人たちだからである。


 「こまったなぁ。町長さん、この町の人や旅人が山賊に捕まったりとか、一刻を争う事態でなければ皆さんが進んで危険に向かうのは良いことだとはボクは思いません」


 「ははぁ……」


 気の抜けた返事をする町長の後ろで、ざわざわと小声がする。


 「こんな日が暮れてからでは怪我人も出やすいですし、皆さんもまた勇神様とボクが守る王国民である以上、勝手な逮捕や私刑は禁止されているはずです。もちろんこの宿場が大変なのもわかっていますから、ボク達に出来る事があるなら協力します」


「このままでは勝手に山に登る人たちが出ますよう。命を失っては何にもなりません、ここは一つ王子にお任せになっては? 後ろの方々も思うところがおありでしょうが、王子はけしてあなた方の不利益になるような事はなさいません」


 アレックスとモニカの説得の、特に利益という単語に反応してざわめきが大きくなったのを聞いて、町長がやっと口を開いた。


 「確かにそうですなぁ。皆生活がかかっておるので頭に血が上っておったようです。人的被害はまだありませんし、王族の方が仰るならば今夜は一旦解散しましょう。 皆も異存ないな!!」


 町長の声に渋々といった感じで徐々にざわめきが収まるのを待って、アレックスは広場を見回して今日最後の元気を振り絞って声を張った。


 「お聞き入れ頂いてありがとうございます。 みなさんくれぐれも危ない事は控えて下さい!!どうかよろしくお願いします」



今日はここまで。

お読みいただきありがとうございました。

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