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勇神退場

今日もはじまり、はじまり


 

 もうあんたらくっついちゃいなよ!! です!!!


 「何それ?」

 『は?』

 「今更なにを言うのじゃ……」


 どや顔で名案とやらを披露したモニカに、三人から冷たい反応が返る。

 もう真昼になった河原で龍と巨大ゴーレムと人間とが、膝をつき合わせて集まった集会は、いよいよ佳境に向かって動き始めた。

  

 「王子までそんな反応するとは予想外でしたが、モニカは負けません!!良いでしょう、これからあたしの話を聞いたらそんな呆けた返事をした事を後悔しますからね!!」


 しゅしゅしゅ!! と拳を振るって自分に活を入れたモニカがアレックスを指さす。


 「王子、王子のお父上には何人奥様がいらっしゃいますか?」


 「母様はだいぶ前に亡くなってるから、今は二人だね」


 『オフィーリアとガブリエラじゃな。それが如何いたした』


 「ありがとうございます。ドラゴンさん、今お聞きになった通り人間はオスが複数のメスとつがいになる事もあるのです。400年前の勇神様に奥様があっても、貴女を奥様にとお考えになるのは決して不誠実な行いではありません!! むしろ優秀なオスだからこそ、多くのメスから慕われ求められるのです。貴女の選んだオスもまた、とびきり優秀であったと言うだけのこと!!」


 身振りを交えながら、地面に埋めた顔をちょっとだけ出した翠星王に詰め寄るモニカ。

 アレックスと大勇神は、いつになくハイテンションなモニカに若干引きつつ、ドラゴンの顔が少しづつ地面から出てくるのをただ見ていた。 


 「勿論一人のパートナーと生涯添い遂げる人間もいますが、勇神様ほどの英雄ならば、奥様が複数いらっしゃる事の方が多いのですよう。これは人間とドラゴンとの文化の違いから生まれた不幸な行き違いです!!」


 「そうなのか……、妾の選んだオスに間違いはなかったと言うのだな」


 ようやく土から顔を全て出したドラゴンが、モニカの話しに聞き入る。

 

 「そうですよう!! ではドラゴンさん、ドラゴンのつがいが連れ合いを亡くしたらその時はどうするのでしょうか? 新しいつがいを探しますか、それとも操を立てて死ぬまで独りで過ごしますか?」


 「うむ、個体にもよるがドラゴンは長命ゆえ、新たなつがいを見つける事が多いのではないか……と思う」


 「では、連れ合いが亡くなったドラゴン同士がつがいになる事だってあるでしょうね」


 「珍しいケースじゃが、そんなつがいもおる事じゃろうな。それとさっきの話と、何の関係がある?」


 翠星王が羽根を広げて、アレックスとモニカを日差しから守りながら、鼻を鳴らして次の話を急かす。

 

 「勇神様は400年前に奥様を亡くされて、今はお一人でいらっしゃいます。 ドラゴンさん、確か貴女のご主人のエクスさんという方も、400年程前にお亡くなりになったとか。 どうでしょう、お互い400年間も前のパートナーに義理立てして来たのですよ、もうそろそろ新しいつがいを見つけても良い頃だと思いませんか?」


 「なんと……!いや、そう考えれば確かに…… 妾たちドラゴンの法にも叶うか……」


 『詭弁じゃぞ娘!!』


 黙ってやりとりを聞いていた大勇神が抗議する。

 正座した膝を叩き衝撃転換装甲を輝かせるが、関節から漏れる魔法光は頼りなく、もはや自重を支えるのが一杯一杯な様子で、先のダメージを思い出させた。

 

 「じゃあどうなさるおつもりですか。さっきの戦いを再開してどちらかが倒れるまでやりますか? お優しい勇神様が事情を知ってなお、このドラゴンさんを攻撃出来るとはあたしには思えませんよう」


 「ボクもそれがいいと思います勇神様。ボクとの合身が不完全では、歴代の操者達のように翠星王さまを追い返す事も難しいでしょうし。 勇神様が原因で傷ついている女性を、さらに追い詰めるようなマネはちょっと……」


 『いや、しかしだな、こういうことは当人の気持ちというか何と言うか、ほら、あるじゃろう? そんなのが! 人から言われてはいそうですかといくものか!!』


 しどろもどろになってしまった大勇神に、横から翠星王が悲しそうな声をかける。


 「そなたは妾が嫌いかえ……?」


 『そんなことは無い!! しかし翠星王、お主先ほどは人とつがいになるのにあんなに驚いておったではないか!!』


 「そうであった!! 人とつがいになるには尻を……!! うう、やはり妾には無理じゃ……」

 

 大勇神の言葉でモニカから聞いた事を思い出し、顔を覆ってしまった翠星王。

 その隣にいた大勇神が心底ほっとした様子で胸をなで下ろすのを、モニカは見逃さなかった。


 「その逃げ道も折り込み済みですよう!! 王子、アルフレッドさまの奥様について質問します!! お二人がご結婚なさるまで何度お会いになったか覚えていらっしゃいますか?」 


 『何ィ!!』


 「えーと、確か何かの式展で遠目で見たのが一回、婚約の為に兄上がマリオン義姉様の国に足を運んだのが一回だね。後は婚姻の義までお手紙でやりとりされたって聞いたけど」


 「はい、ありがとうございます!! ドラゴンさん、さっきはああ言いましたが、実際人間のつがいには今お聞きになった様に、遠距離恋愛といって体ではなく心で交流をする場合だってあります!!恥ずかしい所をさらけ出すのは確かに互いの信頼のため、子孫を残すためには必要かもしれませんが、それだけが全てでは無いと言うことです。大切なのは相手を思いやり尊敬する気持ちです! 愛なのです!!」


 「愛……」

 

 女神の様に両手を広げて翠星王に向き合い、キラキラと河の反射を受けて力説するモニカ。

 翠のドラゴンは目を輝かせて、小さな彼女を拝むようにしている。


 「そう愛ですよドラゴンさん!! 今ちょうど勇神様は連れ合いがなく、また「何故か」大変傷つきお疲れのご様子です。ここは一発優しく看病などして同じ寝床で過ごせば、二人の距離がぐっと縮まる良い機会ですよう!! 何も今すぐつがいにならなくても良いので、ここはお二人でじっくりお話をなさるべきです。ついでに色々400年分発散してきても全然オッケーですよう!!」


 最期の所はアレックスの両耳を塞ぎながら、翠星王を焚き付ける。


 『計ったな娘!! だいたい発散とはなんじゃ!! 儂とドラゴンで何が出来るというのか!!』


 大勇神が遂に立ちあがって叫ぶ。

 チラチラと横から視線を送って来る翠星王を一生懸命無視して、何とかこの場を逃れようと必死である。


 「折り込み済みと言ったでしょう勇神様? 答えは一つ、合身すれば良いのです!!」


 『そう来るか!! ええい、妙な所で知恵の回る娘よ……!!』 


 「合身?妾とエクスが?」


 「魔法に長けたドラゴンさんとなら容易いはずですよう。身も心も一つになって、魂でお話するのです!!きっと言葉を交わすより早く、400年のすれ違いを埋められると、モニカは考えておりますよう!!」


 『ぐぬぬ……』


 がっくりと地面に手を着いた大勇神に、穏やかなほほえみを向けて歩み寄るモニカ。

 

 「あたしが仕切るからには無責任なやり逃げは許しませんよう。勇神様はそのお体に使った宝物分は、ドラゴンさんに真摯に向き合う義務があるのですから。 さあ、ドラゴンさん!!今から勇神様をお連れして、霊峰でしっぽり水入らずな時間を過ごすのです!!」


 「え、いいのか?」


 翠星王がモニカとアレックスを交互に見やり、動かなくなった大勇神を横に困った様子を見せる。

 

 「ボクは緊急時に召喚出来ればそれで。あ、訓練が必要な時は連絡しますね」


 『アレックスまで!! う~ん……』


 もはや自分に味方はいないと知った大勇神は、全身の力を抜いて河原に土下寝してしまった。


 「ささ、ドラゴンさん、今のうちにどうぞ!!」


 「お、おう。この恩は忘れんぞ優しい方の人間よ。妾は翠星王ミストラル、おぬしが困った時は必ず助けになると約束しよう。メス同士の誓いじゃが、おぬしの名前を聞かせてくれぬか」


 だらんと力の抜けた大勇神のボディを愛おしそうに抱えて、翼を広げる翠星王。

 その顔は威厳と欲望に満ちて、遙か見上げる巨体を空中に浮かせる。


 「あたしは王子の忠犬モニカと申します。どうかお幸せに!!」


 「モニカじゃな、しかと覚えた。ちっこい方の人間も、この度はそなたの国を騒がせて済まなかった。いずれ聖国より使者を遣わすであろうから、この始末についてはその時に」


 「はぁい!! 勇神様をよろしくお願いしますね!!」


 「きっと悪いようにはいたさぬ!!ではさらばじゃ!!」



 翠星王は来たときと同じように大地に巨大な影を落とし、翠の軌跡を残して上空を何度か旋回すると、やがてまっすぐに山の方へ飛んで行ってしまった。


今日はここまで。

お読みいただきありがとうございました。

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