表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/92

クズヤロウ

今日もはじまり、はじまり


 ドラゴンが現れた事で一目散に逃げ出した旅人たちの背中を見送って、モニカはアレックスの馬車の馬を王都の方角へ放った。

 賢い馬がまっすぐに駆けて行くのを確認して、彼女は最低限の荷物を車の中から取り出すと地面に埋め、自分も地に伏せて最初の襲撃で転倒していた荷馬車の影へと移動する。


 「あたしだけはここを離れる訳にはいかないんですよう」


 誰に聞かせるでもなく呟くモニカ。

 アレックスの忠犬を自負する彼女は、我が身の危険など二の次に、主人の戦いを見届ける決意を固めているのだ。


 「王子が無事にお戻りになると、あたしは信じてますからね……」


 爆音と衝撃が次々と襲い来る街道の隅で、栗髪の美少女は一人、神話の戦いの行方を見守っていた。








 「さあドラゴンさん、ちょっとそこに正座しましょうか? 勇神様も並んで、早くする!!」


 完全にその場の主導権を握ったアレックスが吠える。

 二体の巨影は河原に両膝を揃えて、肩を小さくしながら正座させられてしまっていた。


 「そこのドラゴンさんは自分からはブレスしか吐けない様なのでこっちから質問します。勇神様が発言したい時は挙手して許可を取って下さい」


 龍の魔法を乗っ取って翠のオーラを揺らめかせ、空中に浮遊したアレックスが大勇神を睨む。

 罅だらけの巨神は両肩の馬頭までしゅんと下げて、黙ったまま小さく頷いた。


 「ではまず、貴女は聖国の守護聖獣、翠星王ミストラル様で間違いありませんか?」


 「……はい、そうです」

 

 ドラゴンの鼻先まで飛んで行って、質問と言うより尋問の様な口調で話しかける少年。

 翠のドラゴンは目を伏せ、四本の角を萎びさせて絞り出す様な声で返答した。


 「声が小さい!! まあ良いでしょう、では、本日王国に見えた理由は何ですか? ただの喧嘩なら外交問題になりますから、言い訳があるなら慎重にどうぞ」


 小さな体から信じられない程の威圧感を放って、アレックスが凄む。

 焦熱冷めやらぬ河原の空気は一瞬で熱気を奪われたかのように、大勇神とドラゴンを震えあがらせてしまった。


 「っひぃ!! 大河の上流で歪みに憑かれた魔獣を見つけて追って来たんですぅ!! 国境を越えてしまったのは夢中になってたからで、妾に敵対する意思はない!! 本当じゃ!!」


 胸の前で前脚を揃え、イヤイヤをしながら弁明するドラゴン。

 尻尾を正座した脚の間に隠して、羽を畳んだ翠星王は支配種の誇りを忘れて萎縮していた。


 「歪みとは?」


 その様子を冷めた目で見やりながら、尋問を続けるアレックス。

 遙か昔に滅ぼされたと言われる、魔王の如き絶対零度の視線が翠星王ミストラルを射すくめて貫く。

 涙目になって止まってしまったドラゴンに変わって、おそるおそる大勇神が挙手をする。


 『歪みとはこの星に発生する、異界との穴じゃ。大きくなれば異形のものを向こう側から呼び出したり、魔獣にとりついて先ほどの様に生態系を乱す災害を起こすのでな、儂やドラゴン達が対処しておるものじゃ、です……』


 「挙手と許可が必要って言いませんでしたか? 今はこのドラゴンさんと話しているんですけど。次からは気を付けて下さいね……! 歪みについては理解しました。 ではドラゴンさん、なぜ勇神様と争いになったのか、その訳を聞かせてもらいましょうか」


 大勇神の方には見向きもしないで、氷の冷たさを放つアレックスが翠星王に詰め寄る。

 あわれな大勇神は、マスクの口の辺りを両手で押さえて、何度も頷いて黙った。


 「うっ、ぐすっ……、昔そやつに騙されて、結婚詐欺にあったのじゃ。 妾は純情を弄ばれ、こつこつ溜めた財産を奪われた被害者なのじゃ……です」


 涙を流し鼻をすすって、衝撃の過去をぶっちゃける翠星王!!

 片手で口を押さえて挙手しながら、大勇神が必死の目でアレックスに無実を訴えるが、ドラゴンの告白は終わらない。


 「何度も何度も妾の寝床に泊まりに来おったこの男は、妾が世界中から集めた宝物を持ち帰る事が目的であったこそ泥だったんじゃ!! あまつさえ別につがいがおる事も隠して妾の気持ちを笑っておったのよ!! このクズヤロウ!! 馬鹿エクス!! 死んでしまえと思っていたら本当に死におって、こんな体になってしまって、妾はもう!!ううぅ……うわーん!!!」

 

 両手で顔を覆って泣き始めた翠星王。

 大勇神は両手を×の形にして、黙ったまま頚を横にぶんぶんと振った。


 「モニカ!! ちょっと来て!ボクだけじゃどうしたらいいかわかんなくなっちゃった」


 地面に伏してしまった翠星王の横に着地して、少し冷たさを和らげたアレックスがモニカを呼ぶ。

 自分の口元を指さして挙手を続ける大勇神にだけはつららの様な視線を突き刺しながら、ドラゴンの甲殻を優しく撫でる。

 わんわんと子供のように泣きじゃくる伝説のドラゴンは、大粒の涙を焼けた大地に雨の様に降らせた。


 「はーい!王子の忠犬モニカ参上です!! 勇神様の衝撃の過去、しかとこの耳で聞きましたよう!!」


 何故かにっこにこの笑顔で、土と煤まみれのモニカが街道から走って来る。

 途中で一度立ち止まり、犬の様に体を震わせると服の汚れを落として顔を拭き、アレックスの側までやってきた。


 「いや~ぁ、お堅い方だと思ってましたが、全然そんなことなかったんですね!さすが建国の英雄様ですよう!! よっ!この女殺し!!色男!!うりうり~!!」


 大勇神の脚をべちべち叩いて、滅多にないほど上機嫌のモニカが胸を張る。

 あっけにとられるアレックスと、口を押さえた大勇神の前で翠星王に歩み寄ったモニカは、ドラゴンの大きな翠の瞳を覗き込んで宣言した。


 「王子!! この恋話はあたしが仕切ります!! 良いですね!?」


今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ