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王子覚醒

今日もはじまり、はじまり


  「今までありがとうモニカ、そして勇神様。 あ、エクスって誰なんでしょうか……」


 大勇神と合身して、いままさに強大なドラゴンの爪牙にかからんとしていたアレックスは、ここで巨神と共に果てる覚悟を決めていた。

 勇神と知己であろう翠星王が何故ここまで敵意を剥き出しにしているのか、その理由は全く分からなかったが、しかしこの場は大勇神とドラゴンとのどちらかが倒れ伏すまで終わる事はないだろう。

 超常の戦いに矮小な人間の出来る事などこれっぽっちもありはしないのだ。

 因縁浅からぬ様子の勇神とドラゴンの死闘の行く末がどこにあるのか、ただ傍観するしかないと諦めが半分、勇神の邪魔をしないようにとの考えが半分に、妙に冷静な頭の芯がふとした疑問を漏らす。


 「なんだ貴様、もう1人中におるのか? 全く珍妙なつくりをしておる奴だ」


 尻尾に巻きつかれ、前足の鉤爪で肩の鎧をつかまれた大勇神の目を覗き込んで、アレックスのつぶやきを聞きつけた翠星王が動きを止める。

 鬼神の如きマスク越しに新緑の目と視線の合ったアレックスは、凄まじい力に充てられて、無理やり合身を解かれて大勇神の顔の前に吸い出されてしまった。


 「え……?」

 『アレックス!!』


 全く想定外の事態に仰天したアレックスは背後に大勇神、正面にドラゴンの巨大な顔に挟まれて、翠の丸い光に包まれたまま、空中に静止していた。

 眼球の大きさだけでも少年の身の丈を超える、翠星王が彼を覗き込んで見つめる。

 熱波の跡が立ち込める戦場で二つの巨影は、アレックスを間に膠着してしまった。


 『翠聖王!!その者を離せ!!』


 尻尾とかぎ爪で押さえられた大勇神が必死の声を上げる。

 剛爪で捕まれた肩鎧に罅がはいるのも構わず、アレックスを取り戻そうと手を動かすが、翠星王がそれを許さない。


 「くくく、どうやら貴様の弱みは此奴のようだな。ずいぶんちっこいが、これが今の貴様のつがいか?」


 慌てる大勇神の様子を楽しむように、邪悪な笑いを見せるドラゴン。

 光球に閉じ込めたままのアレックスを自分の方に引き寄せ、大勇神に見せつけるように舌を出して牙を舐めて見せる。


 『おのれ……!!』


 マスクの下の目が見開かれ、絶体絶命のアレックスを助けようと身をよじる大勇神。

 衝撃転換装甲が最後の光を上げて、みしみしと割れながら軋む。


 空中から自分をめぐって大勇神が傷つく様を見ていたアレックスは、頭の中が真っ白に塗りつぶされたように感じた。

 二体の激突で街道は崩れ、高熱でガラス状になった地表には大河の水が流れ込んで蒸気を上げる。

 ブレスと火器の余波は麦畑まで及び、青い葉をかさかさに萎びさせて先を焦がしていた。


 守るべき国土がこの有様であるのに、大勇神はアレックスを救おうと腕を引き千切らんばかりにしてドラゴンに抗い、外装の限界を迎えようとしている。

 翠のドラゴンはなぶるように巨神を押さえつけて哄笑を上げて大地を爪でえぐった。

 

 「もおおおお!!」


 何なのだこれは!!

 少年の理解の限界を超えた世界に、アレックスは叫ぶ!!

 手をメガホンの形にして、大勇神の装甲を引き裂かんとしていた翠星王に向かって!!


 「ドラゴンさーん!! ボクは勇神様のつがい?ではありませんー!! 子孫です-!!」


 自分が何を言っているのかアレックス自身にもわからなかったが、生死の境にあって運命とも呼べる謎の判断力が、今はドラゴンに伝えるべき情報はこれだと確信させる。

 神魔の伝説を再現した戦場で、少年の声は決して大きくはなかったが、二体の巨影の関心を引くことには成功した。


 「なんじゃちっこいの、子孫であってもつがいでないとは限らんであろうが。エクスの焦りようがその証拠よ、黙って人質になっておれ!」


 『アレックス、馬鹿な真似は止せ!! 動けるならお主だけでも逃げるのじゃ!!』


 「いいえ黙りません逃げません!! ボクは王国の第三王子アレックス・ダグム!! 半身として勇神様の戦いの詳細を知っておかねばなりません!!」

 

 牙を剥いて威嚇するドラゴンと大勇神に向かって一歩も引かないアレックス。

 彼は死の恐怖に当てられて、何と言うか、キレていた。


 「だいたい何ですか貴方達は! いい大人が売り言葉に買い言葉でみっともない!! 昔何があったか知りませんがこんな人の往来のある所でドッカンドッカン、ちょっとは迷惑ってものを考えたらどうなんですか!!」


 「えぇぇ……?」


 『アレックス? ちょっと落ち着こう、な?』

 

 少年の変容に殺気をそがれて狼狽えてしまうドラゴンと、自由になった両手の平をまぁまぁと彼に向ける大勇神。

 しかしその様子はアレックスの血圧を上げるだけの効果しか無かった。


 「勇神様は黙ってて!! 今大事なのはドラゴンさんの言い分を聞くことです!! さあ、この喧嘩の原因は何ですか!? 事と次第によってはこのボクが相手になりますよ!!」


 ドラゴンの光球の中で二体をびしびしと指さして、やけくそになったアレックスが叫ぶ。


 「わ、妾から!?」

 

 「そうですよ!! いきなり飛んで来たかと思ったら喧嘩を始めるなんて非常識過ぎますからね!! その訳をしっかり説明してもらわないとやってられないですよこっちは!! だいたい貴方翠星王って聖国の守護聖獣の名前じゃないですか!! 賢者と名高いドラゴンなら争いの前に出来る事は沢山あるでしょう!! さあ、納得いく説明が出来ないならニセモノ認定してやりますから、さっさと喋る!!それともその口は罵倒と悪口しか発せられないドブの蓋ですか!!」


 「酷い!! 何もそこまで……」


 『アレックス、それはちょっと可哀想な……』


 「うるさい!! 黙れと言った筈でしょう勇神様!! さあドラゴンさん、ちょっとそこに正座しましょうか? 勇神様も並んで、早くする!!」


 「ひぃ!!」


 『はい!!』


 ドラゴンの魔法を乗っ取って、翠の光球を自由に操り二体の顔の前を跳び周りながら、アレックスの怒りは収まらない!!

 

 

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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