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絶対者

今日もはじまり、はじまり

 

 街道にいた馬車や旅人を遠ざけて、大勇神の戦闘エリアを確保していたモニカはアレックスの馬車に戻って、封鎖された大街道で遠巻きに戦いの行方を見守っていた。

 河よりやや高くなってる街道の縁からは、大勇神が大河に向かってレーザ-光と雷撃を撃ち込む姿が見えた。

 歓声を上げて大勇神を応援する旅人たちが、轟音に驚いて半歩下がる。

 どうやら戦いは主人の勝利で終わりそうだと、帽子をあげて額の汗を拭きながら安堵する。

 空気の焦げる臭い、そして閃光と爆音とが絶え間なく彼女の元にも届く。


 焼け焦げた大蜥蜴の死骸が、湯気を上げる川面をぷかぷかと流れて下流に消えた。

 

 「うわぁ、しばらくお肉は食べたくないかなぁ……」


 凄惨な大河の様子に目を背け、爽やかに広がる青々とした麦畑の方を見るモニカ。

 はるか山から吹いてくる風が青葉を揺らし、焦げ臭い空気をゆっくりとではあるが遠くに運んで行ってくれていた。

 

 「もっと吹いてくれても良いのに……、これは!?」


 汗をかいた頬を涼しく吹き付ける風に混じる、血と焦げ臭さの中に、何か恐ろしい気配を嗅ぎ取って、モニカは御者台から立ち上がった。

 

 「皆逃げて!! 何かヤバいのが来ますよう!!」


 

 




 アクアリザードの群れを退けて、両腕から蒸気を吹き上げる大勇神は、大河のほとりで血と泥にまみれて立っていた。

 足下では大蜥蜴の僅かな生き残りたちが、切断された同胞の肉を咥えて水に帰ってゆく。

 蒸気を発して煮え立つ大河も、次第にいつもの様相を取り戻して行く所であった。

 

 「勇神様?」


 いつもならば戦闘が終わると合身を解いて帰って行く筈の大勇神に、アレックスが声をかける。

 鬼神の如きマスクの下で、勇神はまだ戦闘態勢を解いていないのだと感じたからだ。


 『アレックス、周辺を警戒せよ』


 普段の調子とは全く異なる、硬く冷たい大勇神の声。

 解放した両腕の武装はそのままに、いつでも雷鞭が放てるよう油断なく構えて鬼神の如きマスクが辺りを見回す。


 『アクアリザードを狂わせた何かが、ここに近づいて来るぞ』


 「勇神様、それは……?」


 底冷えのするほど冷静な大勇神の声に、動揺したアレックスが何事か尋ねようとしたその時、大河に巨大な影が差した。

 夕立雲が突然陽光を断つ時のように一瞬で大勇神の真上に飛来した影に、大河と麦畑が波打って震える。

 超大型戦闘ゴーレムである大勇神を覆い、ぬかるみと化した戦いの跡までもすっぽりその下に収めてしまうほどの巨影に、アレックスは二度戦慄した。

 

 一つはその巨大さに。

 もう一つはそれに相対した大勇神の緊張を感じ取って。


 無敵の守護神が余裕を忘れる程に危険なものなど、この王国にあるのだろうかと。

 いや、知識では知っているのだが、それが現実に目の前に現れる事など考えていなかっただけかもしれない。


 大きく上空を旋回し、大勇神の側へ着陸しようとしているそれは、伝説にある姿そのままに、恐怖を振りまく厄災の化身。


 「──っひ」


 『アレックス!!気を強く持て!!』


 思わず息を呑んで気を失いそうになったアレックスに、大勇神が活を入れる。 


 『まさかお主とはな、ドラゴン』




 ドラゴン

 


 それは幾多の破壊の伝説に語られる自然の暴威。

 その存在を知らぬと答えるものは無いであろう、この星の支配種。

 相対したものことごとくを焼き尽くし、食らい尽くす魔獣の中の魔獣の王。

 

 太陽を遮って巨大な背中の翼を広げ、がっしりとした手足を地面に着いた姿勢でありながら、鎌首をもたげた高さは大勇神より遙かに高い。

 全身を覆う宝石のような碧の甲殻は鋭利なトゲで覆われ、体長の半分はある長大な尻尾まで続く。

 大きく裂けて牙の並んだ口を持つ頭部は4本の角と新緑の色の瞳を持ち、大勇神を見下ろして影になって、その表情を窺い知る事が出来ない。


 『人界に降りて来るとは珍しいではないか……』

 

 全身の火器を解放し、何か一歩でも事態が進めば即座に応戦する準備を構えながら、大勇神が苦々しく呟く。

 蒸気と煙を羽ばたきで晴らして巨神の側に降り立ったドラゴンは、頚を動かして辺りを嗅ぎ回っている様子であった。

 目の前の大勇神など歯牙にもかけず、何かを探しているような仕草をしていたドラゴンは、突然頭を大河に突っ込むと、大蜥蜴を一匹咥えて捕まえて持ち上げた。


 『なんと……』

 「あれは!」


 ドラゴンの大きな牙に捕らえられ、ギャアギャアと暴れるアクアリザードを見た大勇神とアレックスは、その異様な光景に目を疑った。

 先の戦闘で傷つき逃げ出したのであろう、焼けただれた大蜥蜴には、左半身がなかったのだ。

 レーザーで唐竹割りにされたのか、右半身のみでドラゴンの牙から逃れようと元気いっぱいにもがく大蜥蜴。

 いかな魔獣の生命力が強かろうとも、それは不自然で異常であり得ない光景であった。


 ぐるるるる!!


 異形の大蜥蜴を咥えた頭を天に向けてうなり声を上げたドラゴンは、口を大きく開けると碧の魔法光を放つブレスを吹き出した。

 周囲の音が消失したように感じる程の衝撃と、まばゆい光の柱が立ち上がる。


 『「うわわわわ!!」』


 両盾を顔の前で構えて、暴風に耐える大勇神。

 ドラゴンの牙の間に引っかかっていた異形の大蜥蜴は、その存在が始めから無かったかのように消えてしまった。

 

 

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

猛暑が続いております、どうか皆さま体調には十分お気をつけて、大事のないようお祈り申し上げます。

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