雷鞭
今日もはじまり、はじまり
『「今の一匹は警告だ!!街道を騒がす魔獣ども!!これより先に上がるなら大勇神と!アレックス第三王子が相手だ!!」』
大河と街道の間の川岸に立ちはだかり、自身を取り囲む魔獣に向かって、大蜥蜴の一匹を水面に叩きつけた大勇神が宣言する。
無論大蜥蜴たちに言葉が通じるものではなかったが、哀れな見せしめの上げた水柱のしぶきをキラキラと受けながら、巨神は魔獣達の敵意を一身に引き受ける事に成功していた。
「モニカはみんなの避難を手伝って!!荷物は捨てて、人と馬を逃がすようにするんだ!!」
「はい!!」
後方で元気よく返事が上がるのを確認したアレックスは、大勇神の足下を這い回る大蜥蜴の群れに踏み出すと、果敢に飛びついてきた二頭を大河の中へ蹴り戻した。
『「おおりゃあ!!」』
跳躍した所をまとめて回し蹴りの餌食となって、団子になって水柱を上げる大蜥蜴。
空白になった足下へ、すぐさま次の魔獣が這い込み、大勇神の体に登ろうと装甲に爪を立てる。
『「ええい!!」』
軸足と蹴り脚を入れ替えて、まとわりつく魔獣を振り払う大勇神。
組み付いてくる者を片っ端から投げ飛ばし、豪脚が空を切るたびに大河に大きな波紋が生まれ、腹を上にして気絶したまま浮かんで流れて行く蜥蜴たちの数が増える。
しかしながら、大勇神を取り囲む黒い包囲網はその勢いを失わず、次々と大河から這い上がるばかり。
「勇神様!きりが無いです!!」
『うぬぬ……、こう近ければブレイブキャノンは使えんか!』
両手に一匹づつ魔獣の首を捕まえて、大勇神が焦りを見せる。
両腕のシールドタービンを起動して電撃を流し込み、気絶した大蜥蜴を振り回して周囲を打ち払うが、背中の甲殻を打たれてもたいした痛痒にはならないのか、包囲網の動きは鈍らない。
そればかりか、大河に叩き返した大蜥蜴たちも息を吹き返すと、群れに合流して再度攻め手に加わる。
シャアアアアア!!
シャアア!!
大河の中から首だけ出した蜥蜴たちが威嚇音を発して大勇神を睨むと、大河の水が球状になって浮き上がり、大勇神に向かって空中を移動し始めた。
これぞ魔獣の魔獣たる所以。
彼らは魔法を使うが故に、その生態や種族にかかわらず人類の存在を脅かす、大自然のもたらした試練そのもの。
複数の大蜥蜴が発する魔力をもった鳴き声は、大小様々な水球を川面から浮き上がらせると、大勇神めがけて打ち出す。
空中でぶつかり合って大きくまとまりながら、およそ自然では考えられない程のスピードで大気を走る水球は流線型に歪み、岸で戦う大勇神に襲い来る!!
ドバッシャア!!
『「おおおお!?」』
大勇神の装甲馬車で出来た胴体ほどの大きさに膨れあがった水球は、恐ろしい勢いで大勇神を打ち据えると、その足下をぬかるみに変えて巨体を転ばせてしまった。
尻餅をつくように川岸に座り込んでしまった巨神に、これ幸いと群がる大蜥蜴の波。
『しまった!!』
装甲に牙を立て、間接に巻き付いて大勇神を押さえ込むと、魔法光を放つ装甲の開口部に思い思いの攻撃を加え始める黒い波。
『何故じゃ!! 臆病なアクアリザードがこれほどの攻撃性を発揮する事など!!』
青黒い波に呑まれて、ぬかるみから立ち上がる事もままならず、大勇神が驚愕の声を上げる。
本来なら水辺からの不意打ちに失敗すると、即座に水中に撤退する筈のこの大蜥蜴が、これほどの数で自身より遙かに強大なゴーレムに挑みくるなど考えがたい事態であった。
国中の水辺に生息するアクアリザードは、産卵期でもなければ積極的に丘にあがる事は無く、水草や魚を食べて暮らす種族であり、極まれに不幸にも人の味を覚えた個体以外は駆除の対象にもならないものである。
『致し方ない!出来る限り命は奪わぬつもりであったが、このままでは逃げた馬車を追う者が出るじゃろう!! アレックス、覚悟を決めよ!!』
「っはい!!」
大勇神の鬼神の如きマスクの目に、殺意のこもった光が灯る!!
アレックスの返答と同時に衝撃転換装甲が魔法光を放ち、全身に反発力を込めると、両肩の後ろのブースターの可動域を確保する為に身をよじり、蜥蜴の波を跳ねのけんとする!!
ドドドドド!!
背部のブースターが火を噴き、勢いよく上半身を跳ね上げた巨神は、まとわりついた大蜥蜴を引き千切り、シールドタービンの回転数を上げて両腕を振り回した。
『「イクシード・レーザー!!」』
掛け声に呼応して、盾の下にあった前腕を覆う手甲が展開し、方腕に二門づつ姿を現したレーザー発振器!!
回転する盾と手甲の間から、深紅の光条が走る!!
大勇神の腕に追従して辺りを切り刻む四本の光剣は、機体の周りのアクアリザードを細切れにして暴風の如き死を振りまいた!!
シャアアアア!!
慌てて大河に撤退を始める大蜥蜴たちを追って、立ち上がった大勇神が川面に拳を突き出す。
『「ぬうううあぁぁぁ!!」』
レーザーが舐め回した軌跡が水に触れ、膨大な水蒸気が立ち川面が沸騰するが、水中まではその威力が届かないのか、波間から首を出したアクアリザードたちが鳴き声を上げて、再び先ほどの水球を放たんと魔力を発揮し始めた。
『させん!! 必殺!!コズミック・ボルトォ!!』
大河の上で大きくまとまり始めた水球に向かって、大勇神が両手を向けて力を込める!!
両腕のタービンが甲高く音を立てて放電を始め、レーザーを撃ち続けていた腕から青白い稲妻が川面に向かって次々と放たれた。
バリバリ!! バアン!! ババン!! バリバリ!!
まるで真夏の雷雨のごとく幾度も川面を叩き、水球を散らしてしまった稲妻は、先の戦いで猛牛を破壊した大勇神必殺の切り札!!
イクシードレーザーによって対象との間にある空気をイオン化させれば、減衰を押さえて中距離兵器としても用いる事が出来るのだ。
水球を粉砕し、波間に頭を出していた大蜥蜴たちのことごとくを飲み込んで、大勇神の振るう雷鞭は大河を打ち付けて飛沫を上げ、爆音を轟かせる!!
水中にありながら黒く焦げた煙を発して、アクアリザードの群れはその殆どが討ち取られた。
今日はここまで。
お読みいただきありがとうございました。




