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初勝利

今日もはじまり、はじまり


 「アイリス姉様!!こんな茶番はここまでです!!」


 陽が上りはじめた練兵場で、光の細剣となった串を構え、アレックスの表情をした勇神が叫ぶ。

 

 「アリア姉様も!!隠れて見ていないで出てきてください!! いるんでしょう!?」


 半歩勇神の足を進めて新型ゴーレムに迫りながら、アレックスはもう1人の姉に呼びかける。

 今朝から姿を見せないアリアに誰も不思議がらなかったのを、勝負の前のアレックスは眠気と緊張で気付かなかったが、これは全くおかしなことであったのだ。


 「お、おい!!アレックス! アリアは関係ないだろう! わたしを前にして茶番とは何だ!! その、あれだ、しょ、勝負の最中に失礼だぞ!! 」


 わかりやすく動揺しているアイリスのゴーレムが、両手をわちゃわちゃと変に動かして勇神を指さす。

 搭乗者の慌てた様子がそのままに、関節から漏れる深紅の魔法光も恥じらうようにまたたく。


 「アリアは多分寝ているだけだ! うん、寝ているに違いない!! だいたい決闘の相手を前にその態度はなんだ、勝負はまだ終わっていないのを忘れたか!!」


 真っ赤な魔法光を放ちながら勇神に突っかかるアイリス。

 先ほど同様の素早さで獣ののごとく距離を詰めると、ゴーレムの拳を打ち出した。


 「おりゃあ!!」


 「負けるもんか!!」


 今度はアレックスの勇神も引かなかった。

 新型ゴーレムの腕が伸び切る前に自分で間合いにとびこむと、鶏冠のある兜のような額で拳を受ける。

 

 ガアン!!


 朝日よりまぶしい魔法光が飛び散り、互いの足元の地面がめくれて荒れる。

 パンチの威力が乗り切る前に腕を止められたアイリスのゴーレムに、勇神はお返しとばかりアレックスの魔力を乗せた細剣を振るう。

 狙うは動きの止まった右腕と、踏み込んでいた左脚の膝関節。

 

 「遅いぞアレックス!!」


 二点同時に突き出された細剣は予想通りであったのか、後ろに残しておいた右足を鞭のごとく振り回して回し蹴りを放つアイリスのゴーレム。

 魔法の串の切っ先はゴーレムの装甲をわずかにかすめただけで、胴体に蹴りを受けた勇神の体は大きく後ろへ弾き飛ばされてしまった。


 「さすがアイリス姉様、強い!!」

 

 『ガブリエラの娘じゃからの、あの歳でやりおるわい』


 勇神が体勢を整えて立ち上がるまでに目の前に迫っていたアイリスのゴーレムが上から拳を撃ち落とす。

 

 「のんびり話している暇はやらんぞ!!」


 「なんの!!」


 中腰のまま細剣を交差させて防御したアレックスは踏ん張りを効かせると、立ち上がりざまにゴーレムの腕を逸らし下から突き上げるような頭突きを見舞う。

 初めて姉に一矢報いた少年の、記念すべき一撃であった。

 顎下に勇神の鶏冠が刺さるようにぶち当たり、装甲が魔法光の血しぶきを上げる。

 勢いも距離も足りない頭突きではあったがカウンターのタイミングは完璧に、勇神のパワーを乗せた跳躍にも近い反撃は新型ゴーレムのつま先を浮き上がらせた。


 「きゃん!!」


 思いがけず可愛らしい悲鳴を上げるアイリスと仰向けに転ぶ新型ゴーレムに、頭突きの勢い余った勇神がのし掛かるようにして一緒に地面に倒れる。


 『でかしたアレックス!!そのまま押さえ込んでしまえ!!』


 「はい!!」


 アレックスの操る勇神が新型の両腕を掴み、胴体の上に座り込んで体重をかけた。

 みしみしと関節が軋む音と共に、両者の装甲の隙間からダメージを軽減する為の魔法光が吹き荒れる。


 「くっ!!それだけで私を降参させられると思うなよっ!!」


 勇神の下で足掻く新型から、なんだか違う意味にも取れそうなアイリスの声がする。

 練兵場を囲んでいた騎士団の若手が、顔を赤らめて成り行きを見守った。


 「いいえアイリス姉様、言ったはずです。こんな茶番はここまでだと!!」


 勇神の腕に更に力を込めてアレックスは、アイリスのゴーレムの腕が地面にめり込むまでに押さえつける。


 「思えば昔から、姉様たちはこうだったのですね。 母様を亡くし、勇神様の操者となったボクがひとりぼっちにならないように、アイリス姉様が強引に外に連れ出し、アリア姉様が後始末をしてくれていたのでしょう。うまく言えないけれど飴と鞭を使って、ボクを助けてくれていたんだ」


 「なっ!?」


 明らかに動揺したアイリスの新型が脚をばたつかせて脱出しようとするが、アレックスの勇神がそれを許さない。


 「アイリス姉様が乱暴なのはボクの前だけで、お部屋には可愛らしいものが沢山あるし、甘いものを食べると上機嫌でくにゃくにゃになるし、ボクが怪我や病気をした時はお稽古事を休んで会いに来てくれて、王城にいたとき雷の日や夜中にお手洗いに行くと、必ずついてきてくれる優しい所もあるのを知っています」


 『ほほう?』


 「何言い出すの!? わ、わかった、アレックス!!もう止めてー!!」

 

 騎士団と家族がにやにやしながら見守る中で、アイリスは悲鳴を上げた。

 ゴーレムの操縦もおぼつかなくなったのか、出鱈目な手足の動きがだんだんと弱くなる。


 「きっと今回も、ボクが王都を出るのをためらわないようにアリア姉様と話し合って仕組んだ事でしょう? 夕べの怒り方はちょっと無理矢理な感じがしましたから、もしかして父上達もみんなが知っててこの決闘を用意したのですか」


 「うぅっ、もう止めて……、お姉ちゃん降参するから、お願い。 ほんっと恥ずかしい……」


 悪魔の如きアレックスの純真な心が、遂に決着を決めた瞬間だった。








 練兵場の柱の陰で事の推移を見守っていたもう一人の姉アリアは、ついに観念して姿を現した。

 

 「男子三日会わざればって、こんな事を言うのかしら……はぁ」


 勇神を降りて家族とともに彼女を迎えるアレックスのもとに、ばつが悪そうにしながら歩み寄る。


 「アイリスじゃないけど、全部見抜かれるとこれは恥ずかしいわね。ごめんなさいアレックス、貴方の言った通りこの決闘は私達が考えたことよ。 旅に出るのに心残りがないようにアイリスが貴方をやっつけて王都の守りの盤石さを見せつけ、再戦を約束した上で武者修行に出す計画に、お父様と勇神様が乗っかったの」


 「ついでに新型のテストも兼ねてたがな、はっはっはっは」


 ジョン王がアリアの頭を撫でながら、愉快そうに付け加えた。


 「しかし参ったな、アイリスが自分のものと宣言したゴーレムを騎士団に下賜するとなると、若い騎士達で喧嘩になりそうだ。レイモンドに通して王家で引き取るしかないかな。まだ婿選びには早いし」


 「うひっ、良い試合だったぞアレックス!都に戻る度に見たいくらいだ!ぷっ!!」


 「僕も時間を作った甲斐があったよ、ははっ!!いやあ見事だった、ぷすすっ!!」


 互いの背中をばんばんとたたき合いながら、大きな兄達が笑いをこらえて揺れている。。

 朝陽に照らされてその様子をぽけっと見ていたアレックスは、顔を上げて勇神を見上げた。


 「勇神様も知ってたんですか!?」


 『許せ、アレックス。お主の成長に必要な事じゃとジョンが言うものでな』


 アレックスの驚きに、勇神は頬を掻きながら目をそらす。

 背後ではゴーレムに立てこもったアイリスが、騎士団の説得を受けている所であった。


 「アイリスちゃ~ん!!出てきなさ~い!!」


 「う、うるさい!!出ないと言ったら出ないぞ!!これは私のゴーレムなんだから良いじゃないか!!」

 

 「ひーめーさーまー!! 可愛いもの好きのアイリスさまー!! 出てきてくださいよう!!」


 「言うなぁ!!」

 

 「効いてるぞ犬、もう一息だ! アイリス、ほら、お菓子をやろう!!」


 なぜか騎士団に混じってゴーレムに呼びかけるモニカと母達がわいわいと騒ぐ。

 その様子を見ながらアレックスは、自分の力の源はもしかしたらこんな時間から産まれるのだろうかと、小さな手を握ったり開いたりしていた。

 


今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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