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早朝の決闘

今日もはじまり、はじまり


 「じゃあ、勝負してみようか」


 ジョン王の鶴の一声で始まったアレックスとアイリスの決闘は、夕食会の翌朝に持ち越された。

 早朝の、モニカが水浴びをしに行く時刻に部屋で1人になったアレックスをたたき起こしに来たのは、兄アントニオであった。


 「おはよう!起きろアレックス!もうみんな外で待ってるぞ」


 「うあ……、おはようございます兄様……すぅ」


 半分眠ったままのアレックスが、目を閉じたまま挨拶をするのを、アントニオは片手で毛布を引きはがし、ひょいと肩に担いで部屋の外に歩き出す。

 廊下を歩いて戻ってくる、髪が濡れたままのモニカが、慌てた様子で急ぎ足で近づいてきた。

 

 「おはようございますアントニオ様。 申し訳ありません、王子を起こしてから部屋を出たんですけど、またお休みになってたみたいですよう」


 「おう、モニカか、おはよう。こいつは大物なのか抜けてるんだかわからなくなる時があるぜ、アイリスなんか昨夜からピリピリしてて、日が昇る前から格納庫に行ってたのに、大した肝の据わりようだ」


 そんな事を知ってるアントニオはいつ起きたのか、という疑問がわいたモニカであったが、軍を率いて国内を巡る職業がら、早寝早起き当たり前かつ部下と交代で夜警まで行うアントニオにしてみれば、王城内で早朝に動くものの気配を探ることなど造作もない事であった。

 

 「朝としか決めてなかったのにもう皆外に出てるからな、アレックスが着いたらすぐ始めるぞ」


 「ありゃあ、何としても起きていただくべきでございました。 お手を煩わせてしまいました……」


 「うーん、むにゃむにゃ……」


 担がれたまま運ばれるアレックスを起こそうとしながら頭を下げるモニカに、アントニオは朝には少し暑苦しい顔を向けて笑う。


 「別にかまわんさ!お前はアレックスの家族であって王家の家臣ではないのだから、そうかしこまる必要はないぞ。さあ、もうすぐ着くからアレックスも自分で歩け!!ほら!!」


 担いでいたアレックスの尻をバンバンと叩き、持ち上げた時と同じようにひょいと下して立たせる。


 「きゃっ!! あ、おはようございますアントニオ兄様……、モニカもいる……あああああ!!」


 ようやく目が覚めて決闘の事を思い出したのか、アレックスは寝間着のまま大声を出してしまった。






 ジョン王が開始を宣言する早朝の練兵場には、国王の家族と騎士団の連中が大きく輪になって集まっていた。

 大きな運動場ほどの広さがある中に、赤いスズメバチを人型にしたようなゴーレムと、アレックスを取り込んで装甲に赤いラインを走らせた勇神とが、差し向かいで拳を構えている。

 

 「さあ、二人とも準備はいいな! ルールは先ほど確認した通り、アイリスは武器なし、アレックスは初代様の力を借りずに自分で戦うこと! 決着はどちらかが降参するか、相手を練兵場の外に押し出す事で決まるものとする!! 始め!!」


 「手加減はしないぞアレックス!! ちょっと一人暮らしをしただけで姉の偉大さを忘れるとは、また教育し直してやらんとな!! この新型で思い知らせてくれよう!!」


 いかにも素早そうな騎士団新型ゴーレムに乗ったアイリスが、先手必勝とばかりに殴りかかる。

 深紅の魔法光が噴射されるように関節を輝かせ、ばねのある動きで距離を詰めると、容赦なく勇神の顔面に拳を突き出した。

 視界に迫るゴーレムのパンチを反射的に躱し、勇神に合身したアレックスは、大きな体を小さくして防御の姿勢をとった。


 「うわわわわ!」


 幼少の時より男勝りのこの姉に、ことあるごとにいじめられてきたアレックスは、本能的に身をすくめてしまう。


 『アレックスよ、反撃しないと負けてしまうぞ!!殴り返すのじゃ!!』


 アドバイスすることは禁止されていない勇神が、アレックスに発破をかける。

 

 『おぬしの恐怖心を乗り越えよ! 前に出んか!ええい!!もどかしいのう!』

 

 「どうだアレックス!!このっこのっ!!」


 防御を構える勇神の腕を、がつんがつんと殴りつけるアイリスのゴーレム。

 

 「はははは!!お姉ちゃんに生意気な口をきくとこんな目に遭うのだ!!さあ、さっさと降参しないか!! うりゃうりゃ!!」


 騎士団たちが大きな声援を上げるなか、赤い新型は勇神をじりじりと後退させていった。


 「やめてよアイリス姉様! あいた!いたたた!!」


 衝撃転換装甲が放つ光の中で、アレックスは何とかこの場を切り抜けようと思案を巡らせていた。

 このままアイリスに負けてしまえば、自分は勇神の信頼を台無しにしてしまうだろう。

 二人で目指す合身の形はまだわからないけれど、歴代の操者たちを超える目標がある以上、身内の模擬戦で躓いているわけにはいかない。

 勇神が戦うべきは、この国を脅かす魔獣や、犯罪者の操る凶悪なゴーレムなのだ。


 しかし、それ以上にアレックスはこの姉が怖いのも事実であった。

 何かにつけて意地悪なアイリスは、小さい頃のアレックスの服に虫を這わせて驚かしたり、背中を突っついて池に飛び込ませたり、食堂からおやつを盗み出す手伝いをさせた挙句にばれそうになると自分だけ逃げたりと、彼を苦しめた事を挙げればきりがないほど、絶対的上下関係を築いていたのだ。

 何度か反抗してみようとしたこともあったが、実力で騎士団幹部にまでなったアイリスには腕力でも敵うはずがなく、他の兄姉たちに助けられて何とかやり過ごしてきた事ばかり。

 今回のように周囲の助けなくこの姉の横暴に立ち向かうのは全く初めての事であったのだ。


 「しぶといだけで勝てると思うなよ!!だりゃあああ!!」


 防御を崩せないでしびれを切らしたアイリスが、勇神の膝にめがけてタックルを仕掛ける。

 上半身にガードを集中していたアレックスは不意を突かれて、バランスを崩され倒れてしまう。

 

 「わああああ!」

 

 巨体の激突と、地面に倒れ込む轟音がほぼ同時に響き、互いの装甲が閃光を放って瞬いた。


 『いかん!』


 倒れたまま両足をつかまれた勇神が、目を回したアレックスに警告する。

 

 『アイリスはこのまま儂を投げ飛ばすつもりじゃ!! 何とか足を自由にせんと終わりじゃぞ!!』


 「その通りだ!!ははははは!!」


 勇神の両足を脇に抱え込むようにして、ジャイアントスイングの体制に持っていくアイリス!!

 そして、自分とほぼ同じ体格の勇神を、ゆっくりだが持ち上げ回転させる新型ゴーレムの脅威の性能!!


 「見たか!!これが私のゴーレムだ!!」


 勝ち誇るアイリスが高笑いを響かせる中で、ギャラリーにいた者たちは思った。

 あんたのゴーレムじゃないだろ、と。

 

今日はここまで

お読みいただきありがとうございました。

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