王子の家族
今日もはじまり、はじまり
「どうだアレックス!!このっこのっ!!」
防御を構える勇神の腕を、がつんがつんと殴りつけるゴーレム。
早朝の空気涼しい王城内の練兵場で、赤いスズメバチを人型にしたような新型ゴーレムが、勇神に鋭い拳の連撃を見舞う。
「はははは!!お姉ちゃんに生意気な口をきくとこんな目に遭うのだ!!さあ、さっさと降参しないか!! うりゃうりゃ!!」
「やめてよアイリス姉様! あいた!いたたた!!」
勇神と合身したアレックスが、悲鳴にも似た声を上げて下がるのを、新型ゴーレムは容赦なく追い詰めてゆく。
(なんでこんな事に……)
衝撃転換装甲の光がまたたく中で、アレックスは昨夜の出来事を思い出していた。
二か月ぶりに家族がそろった王城で、国王一家は夕食の席についていた。
給仕も置かずに家族だけでの食事。
全員が大テーブルに並んで和やかな時を過ごす機会は、子供達が成長するにつれて減る一方で、アレックスが外に屋敷を構えてからは年に数回ほどとなっていた。
「いやあ、みんなが揃うって良いもんだね。 アルフレッド、お前もそう思うだろう」
酒が入ったのか、ジョン王が上機嫌で息子に絡む。
「そうですね、誰かがもう少し働いてくれたらこんな機会も増えるんじゃないかと思いますね」
「全くだ、我が夫ながら情けない!昔はもう少しシャキッとした感じだったが……」
「そうよ~、貴方最近だらだらし過ぎよ。 お腹もたるんで来て良くないわ~」
何気ない一言が藪蛇だったのか、普段の行いをアルフレッドと妻二人から責められてしまう。
「だいたいアルフレッドちゃんは新婚さんなのよ~!このままお仕事で一杯だったらいつまで経っても孫の顔が見られないじゃない! ね?」
「そうだぞ!マリオンだって一人寝所で我が身を慰めるのはつらいと思っているはずだ!! な?」
何かスイッチが入った妻たちの矛先は、アルフレッドの隣に座っている彼の妻、マリオンに向かう。
焦げ茶色の髪をアップにして、小柄なほっそりとした温和しめの美人のマリオンは、顔を真っ赤にして慌てる。
「え? え? あの、わたくしは別に……、いつもお手紙を頂きますし。アルフレッド様がお早くお帰りになって下されば嬉しいですけど、あの、ガブリエラ叔母様が仰るような事は……」
「叔母様ではなくお義母様だマリオン。もう成人しているのだから恥ずかしがることはないぞ!恥ずべきはこのぐうたら国王なのだからな!」
「ほら貴方!マリオンちゃん困ってるじゃないの!普段から気を利かせてあげないと、最近は嫁ぎ先でぞんざいな扱いをされたとかで、里帰りされちゃうケースだってめずらしくないのよ~! ね、モニカちゃんもアレックスに大事にされなくなったら私に言いなさいね~」
隣に侍らせたモニカを抱きしめながら、飛躍した理論でオフィーリアがジョンをなじる。
なんだかわからないうちに抱き込まれてしまったモニカは、曖昧な笑いを張り付けて固まっていた。
母ガブリエラの親類である隣国王家の姫であったマリオンは、数ヶ月前にアルフレッドに嫁いで来たばかりであったが、今ではアレックスの家族に馴染んでいた、と言うより飲まれていた。
脱線してヒートアップする母二人に、アレックスはおろおろとして周りの兄姉達を見回した。
「気にするなアレックス。アレはじゃれてるだけだから心配いらん。それより野菜も食え」
もりもりと骨付きの肉を囓りながら、向かいにいるアントニオがトングを使ってサラダのボウルからアレックスにも野菜を取り分ける。
良く食べ良く動き良く寝るこの兄は、騒がしくなる食卓にあって泰然自若に自分の食事を進めていた。
「なんだまだ野菜嫌いなのか、そんなんじゃ大きくならないぞ。お姉ちゃんのも分けてやろう、ほらほら」
アレックスの隣に座っていた、モニカと同年代の黒髪ショートの姉が自分の皿にあった付け合わせの根菜を、アレックスのサラダの皿に載せにかかる。
アントニオと同じガブリエラの娘で、アレックスの異母姉アイリスの、親切を装った非道であった。
騎士団の幹部としてゴーレムにも乗る姉は、猫のような切れ長の目をにんまりとさせながら、弟の困った顔を楽しんでいるようだった。
「やめてあげなさいよアイリス。 ほら、私が少し引き受けるから、アレックスも頑張ってちょっとは食べるのよ」
アレックスを挟んでアイリスの反対側に座っている、もう一人の姉が助け舟を出す。
こちらは金髪ロングヘアーの、いかにもお姫様といった柔和な顔立ちで、アイリスが盛った野菜を自分の皿に少し取る。
アルフレッドと母を同じくする、アイリスと同い年の姉、アリアであった。
「ありがとうアリア姉様」
減りはしたものの結局野菜を食べる事には変わりないのだが、アレックスはとりあえず苦手なものが減ったことを喜んだ。
この二人の姉は同い年である上に誕生日も近く、まるで一卵性の双子のように気の合う凸凹コンビだが、アレックスに対してだけは意地悪なアイリスと、やたら甘いアリアとはっきり分かれていた。
やいのやいの言い合う姉たちに挟まれながら、もそもそと葉っぱを噛んでいると、遠く父の席から声がかかる。
「おぅい。アレックス。聴いてたかい、モニカちゃんも」
母たちの攻撃から逃れたのか、ジョン王がテーブルの端から手を振っている。
食器を置いたアレックスは、オフィーリアの隣に座らせられたモニカを探すと、彼女はきょとんとした顔でジョン王を見ているところだった。
「声が遠かったかな、アレックス。 お前にはそのうち国内を巡ってきてもらおうと考えているんだ。 急な話で驚くだろうが、これは初代様のアイデアでもある」
寝耳に水の事に混乱していると、アルフレッドがいつもの優しい声でフォロー入れてきてくれた。
「勇神様がおっしゃるには、君は王都から出たことがほとんどないからね、守護神の半身として国内を見て回り、自らが守るものがどんなものか、その目で知るべきだとのことだよ」
「その通りだ。今の俺たち辺境軍がやってる仕事は、かつての操者達が積み上げた魔獣退治のノウハウの上にあるからな、国中の足跡をたどるだけでもいい勉強になるだろう」
楊枝を使いながらアントニオが話を繋ぐ。
嫌いな野菜にてこずっている間に、大人達の間で話が進んでいた事を理解したアレックスは、一つ大きくうなずくと野菜を飲み込んで返答した。
「勇神様のお考えだったらボクも行ってみようと思います。でも、王都にこの間の連中が出たらどうしましょうか?」
アレックスの気がかりは勇神が二度戦った強盗たち、その目的がわからぬままに取り逃がして、いまだ王都を騒がせてしまっている事であった。
珍妙な手段で王城まで警戒させた、テロリストとも愉快犯とも知れない悪党を野放しにしては、旅に出るのも何か気持ちが悪いと思ってしまう。
「それなら騎士団がいるから大丈夫だ!私のゴーレムがあれば、そんな連中片手でもひっ捕らえてやる」
横で聞いていたアイリスが、目を輝かせて拳を握る。
ゴーレム乗りでありながらアレックスに実戦で先を越されていることに、普段から愚痴を漏らしている勝気な姉の意地が見て取れるようであった。
「アイリス姉様はこの間の連中を見てもいないのに……」
ぼそりと漏らしたアレックスの独り言に目ざとく気付いたアイリスが、椅子を蹴って立ち上がる。
「あの時は新型の受領で王都を離れていただけだ!! しばらく見ないうちに生意気な口を利くようになったなアレックス!勇神様でなければ賊の相手ができないとでも言いたいのか!!」
アレックスの頬を引っ張りながら、歯を見せて威嚇するアイリス。
アリアがいさめ、アントニオが指さして笑い、他の食卓にいた者たちが驚いて手を止める中、ジョン王はグラスを乾すと家長らしく宣言した。
「じゃあ、勝負してみようか」
今日はここまで
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