国王登場
今日もはじまり、はじまり
「その秘密が、アーティファクトよ」
アザレア博士の言葉に、ワッジとザッカーは食事の手を止めた。
全く聞き覚えのない単語に面くらい、目をぱちぱちさせる。
「何すかそりゃぁ?」
「聞いたこともないでヤンス」
博士は鼻からふふんと息を吐くと、得意そうに続ける。
「あんた達が知らないのは当たり前よ。研究所の人間か、王家と一部の貴族しか知らない筈だもの。 アーティファクトって言うのは簡単に言うと、時々発掘される古代文明の遺物、その中で機能を保ったまま現在に残っているものよ」
「おとぎ話でヤンスね」
「古代文明って、姐御大丈夫ですか? ちょっと心配になってきたぜ」
「実際あるんだからしょうが無いじゃない。 でね、アーティファクトは形も働きも様々だけど、現在の技術では再現出来ないほど高性能なゴーレムのパーツとして機能するの。勇神とその支援ゴーレムにはアーティファクトが多数組み込まれているわ、いえ、むしろアーティファクトの塊、そのものと言ってもいいぐらいね」
ここまで話して、アザレア博士は肩を落としてため息をつく。
「はぁ、つまりね、アレに勝つには同じくらいのアーティファクトを搭載したゴーレムじゃないと勝負にならないって訳よ。だから馬車を盗みに行ったんだけど、後は知ってるでしょ。 勇神の戦闘データは盗めたけど、それだけ。 質問あるかしら?」
「姐御の頭脳でも、その遺物を作る事は出来ねえンですかい? 組み込んだって事は、何かしら調べてあるんでしょうに」
魚の缶詰に酢をかけながら、ワッジが尋ねる。
「まだ無理ね。私はアーティファクト自体は専門じゃなかったから。 馬車の建造に使われた物は長い時間かけて王国が収集したものだったし、天才の私でないと組み立てが出来なかったのは事実だけど、スイッチと効果は判明しても機序が不明のものばっかりだったわ」
「自分で天才って言っちゃったでヤンス」
ザッカーは食事を再開しながら、自分の解る単語だけ拾って聞いているようだ。
「じゃあ、馬車がダメなら、他の二つはどうなんです? 盗ってこれねぇんですか?」
「難しいと思うわ。他のは勇神と同じ、魂とも言うべき高度な自律機能があるのよ。 だから純粋なゴーレムに近い馬車を入手して、勇神の部分を他の機体で補完するつもりだったの。 あの火力なら勇神自身にも通用する筈だからね」
「なるほどでヤンス」
「これから私はアーティファクト収集と古代文明の調査に動くわ、あんた達にもその方向で働いてもらうつもり。 ゴーレム開発は続けるけど、勇神との対決は暫く時間を置く。いいかしら」
テーブルの上の料理も、殆どの皿が空になってきていた。
「今の話が本当なら、仕方ねぇんでしょうね」
「アニキに異論がないなら自分はついていくだけでヤンス」
眠気をこらえた男達が、長話と満腹で辛そうにしている。
「それと、二人には休暇を取ってもらうわ。 魔法使いの方は倉庫の件と、二度のゴーレム戦でかなり消耗してる筈よ、そろそろ休まなきゃ不調を起こすでしょ」
一人で食器を重ねて片付けながら、アザレアはワッジに釘をさす。
「へい…」
「休暇でヤンスかへへへ……」
話が終わりに近づいてもう限界なのか、机に突っ伏し始めた二人。
アフロ頭をテーブルクロスにつけて、ごうごうといびきをかき始める。
アザレア博士は席を立ち、一度退室してエプロンに着替えて戻って来ると、黙々と片付けを始めた。
王立研究所。
王城の外郭に建てられた格納庫と、ゴーレム開発の為の工場を内包した研究施設を総合した巨大建造物。
勇神の住み処であり、王国の聖域でもあるこの場所で、進入者の痕跡が発見されたのは猛牛ゴーレム騒ぎから2日目の事であった。
馬車のチェックが済み、騎士団から上がった報告を記録官が勇神に照らし合わせている最中、研究資料の盗難が発覚したのである。
30年前の教訓から、真っ先に王族の警備を厚くした近衛兵の判断は間違いではなかったが、手薄になった王立研究所に賊の侵入を許してしまったのだった。
奪われた研究資料はゴーレム開発の根幹に関わるものではなかったが、直近の勇神の戦闘データなど、機密であることには変わりなく、前代未聞の不手際に研究所は上へ下への大騒ぎとなっていた。
「お騒がせして申しわけありません、初代様」
騒ぎの中、椅子のような待機スペースでぼんやりとアレックスの事を考えていた勇神を現実に引き戻したのは、どことなくやる気なさげな、それでいて何故か存在感のある声だった。
『ジョンか、久しいな。 んおぉぉ……』
足元に立っていた髭ダンディに目をやって、勇神は一つ伸びをすると肩をポキポキと鳴らした。
「退屈なさっていると聞きましたんでね、私でよければお話などお付き合いしましょうかと。 アレックスと訓練中でしたか?」
『いや、今日はもう済んだ。 気遣いは有難いが、おぬしはここにおって良いのか? 曲がりなりにも国王であろうに』
格納庫に現れたのは、王国の現国王、ジョンその人であった。
茶色の髪を短く刈り込み、口ひげを蓄えた体格のよい中年。
貫禄ある男前ではあるのだが、けだるげなオーラが滲み出てつかみどころのない男であった。
「それはよかった。 王の仕事ならもうずっとアルフレッドが引き受けてくれてますし、私はいつ隠居しても良いぐらいですよ。 あっはっはっは」
『笑い事ではないと思うがの』
「はっはっは、手厳しいですな初代様は。 今日はもしかしてご機嫌斜めであったりしますか?」
王でありながら砕けた言葉遣いと、締まりのない態度で語るジョン。
「それとも、うちのアレックスが何事かありましたでしょうか。 それでしたら愚息に代わってお詫び申し上げますが……」
『それには及ばん。 ちと考え事をしておっただけよ。 まぁ、アレックスが無関係という訳ではないのじゃが』
勇神は猛牛ゴーレムとの戦闘後の、アレックスとのやり取りをジョンに語って聞かせた。
「ははあ、そりゃまた難儀な挑戦ですね初代様。 合身しながら二人のまま、歴代の操者を超えようとは」
『そうであろう。言ってはみたが儂も実は何をどうして良いやら全く思いつかなんだ。 その場の勢いというか、まあ流れでこうなったのじゃが、ジョンよ、何か名案はなかろうか?』
ここに来て驚愕の事実!! 皮膚があれば汗をかきながら語ったであろう、勇神の声は震えていた。
「そんなノリで王国まで造ったんだからこの人はもう……。そのままそれっぽい事言ってればあの子は真面目だから自分で何か掴みますよ。いつも通りにしてればいいんじゃないですか」
『そんな薄情な!!おぬしそれでも親か!』
「あはははは!親だからこそ、あの子の伸びしろを信じているんですが。 とはいえ、初代様にまた何年も塞ぎ込まれても適わないのでここは助言を一つ、可愛い子には旅でもさせてみたらどうでしょうか」
ジョン王は笑いながら勇神の足をぺちぺちと叩く。
「人の世は人が治める原則から、守護神の半身は王位継承権も、自前の配下を持つことも許されない。 それもあの子は理解した上で初代様と戦う道を選んだんです。 今は強くないが、決して弱くもない男ですよアレックスは」
『操者となっても王族でなくなる訳ではないと屁理屈をごねて、意地でも王子の肩書きを残してやった父親のいうことは違うのう。 しかし旅か、ふんむ』
「あれは妻たちが離縁を盾にして脅すからですよ、私としては慣習なんかどうでも。うちの子はうちの子ってだけなんですが。 旅、いいでしょう?」
親ばかとバカ親の会話は、格納庫にいつまでも続いた。
今日はここまで。
お読みいただきありがとうございました。




