地下会議
今日もはじまり、はじまり
「ありゃ何なんだ姐御!!あんなのが出てくるなんざ聞いてねぇぞ!!」
「マジで死ぬところだったでヤンス!!」
王都の地下のアジトで、アフロヘアーの男が白衣の若い女に詰め寄る。
一人は茶色の髪の薄い頭頂部を除いていわゆる博士ヘアーに、もう一人は金髪を見事に縮れさせて、文字通り怒髪天を衝く勢いである。
命からがら猛牛ゴーレムから脱出した、ワッジとザッカーであった。
「私も聞きたいわよ!!何であんた達の方にアレが行っちゃった訳!? 私の馬車が!!」
アザレア博士も髪を振り乱して叫ぶ。
彼女が王立研究所に忍び込んだのは、どうやらブレイブキャリッジを盗み出す為であったようだ。
「知るかよ!! 私の馬車だぁ!? 姐御何言ってンだあんた!? 事と次第によっちゃストライキも辞さない構えだぜこっちは!!」
「すごい強さだったでヤンス。 もう勘弁して欲しいでヤンス……」
ぎりぎりとにらみ合う上司と兄貴分に挟まって、マッチョな体を小さくしながら、ザッカーは心底疲れた様にため息をつく。
先ほどの戦闘が、頭にちらついて離れない。
いや、戦闘というのもおこがましい、大勇神からの一方的な処刑というべき、完膚なきまでの敗北であった。
パワー、スピード、火力、何もかもが現行のゴーレムと違いすぎる、過剰なまでの戦闘力。
30年前に伝え聞く勇神にはなかった、挑むのが馬鹿馬鹿しくなるような、圧倒的な力の差。
伝説に聞くドラゴンさえ、今の大勇神の前にはたやすく撃ち落とされてしまう事だろう。
「姐御はあれを知ってたんでヤンスか?」
今にも互いに掴み掛からんばかり二人の間に割って入りながら、ザッカーは何とか話題を変えようと試みた。
「ハア、そうね。あれは私が作ったものよ。 今夜はそれを取り返しに行ったんだけど、結果はこの通りね」
アザレア博士はがっくりと力を落とすと、にらみ合いを止めて手の平をじっと見つめる。
格納庫で握りしめた爪の跡が、うっすらと血をにじませていた。
「作った? 姐御があの馬車をですかい?」
「信じられないでヤンス」
思いがけない告白に、勢いをそがれるワッジ。
「一からじゃないわ、完成させたのが私。だから造ったんじゃなくて作ったの。元々はずっと昔から進められていたものだったのよ」
アザレア博士はそう言うと、乱れた髪を撫でつけて、白衣を整えた。
「少し長くなるから、何か飲みながら話しましょ。 今日の報告会よ」
大皿に盛られた、豆と挽肉の煮物を取り分けながら、アザレア博士が話し出す。
「報告会と言うより宴会みたいになったわね」
テーブルの上には様々な料理が盛られ、ワッジとザッカーは粗野に食事を開始していた。
豆の煮物の他にはサラダ、潰した芋、大きな鶏の蒸し物、チーズ、魚の缶詰など、まるで統一感のないメニューであったが、さすがに誰も酒は飲まない。
「良いんじゃねぇですかい、残念会って事で。ザッカーの料理の腕は確かですぜ」
「悩むより食べろ、が信条でヤンス」
「まぁ良いけど、満腹で眠くなってもちゃんと聞きなさいよ。 私は数年前まで、王立研究所の研究者だったのよ。神童アザレアなんて言われて、7歳から働いてたわ。10年ぐらい居たかしら」
豆の煮物を上品に口に運びながら、アザレアは続ける。
「その中で、私が主に担当したのがあの馬車、ブレイブキャリッジなのよ。 地方まで勇神を迅速に輸送し、戦闘にあっては無敵の外殻となるような、そんな支援ゴーレムの組み立てね」
「組み立て、ですかい」
「神童ってのはなんか噂を聞いた気がするでヤンス」
二人で鶏を切り分けながら、ワッジとザッカーが聞き入る。
「そう、組み立て。 あんた達は今のゴーレム技術に疑問を持った事は無いかしら? いつから、誰があんな物を作ったか、その技術は何処から来たのか」
「産まれた時から普通にあるもんだと思ってたでヤンス」
「俺がガキの頃は田舎には無かったが、勇神を元にしたって聞いてますぜ」
「正解よ。勇神を解析して出来たの。ではいつからなのか、それは、王国が誕生してからずっとよ。 王立研究所の記録には、400年分の研究データがあったわ。この国と同じだけの長さよ」
豆を食べ終わり、チーズを大きく切って皿に取る博士。
「私が作ったあの馬車も、手を加えたのはほんの最後の仕上げだけ。それでも10年掛かったわ。残る二体も多分、同じだけの時間が掛かっているはず」
「ブーッ!! アレと同じ物があと二つ!?」
「アニキ、汚いでヤンス」
衝撃の事実に口の中の鶏肉を吹き出すワッジ。
「てめぇは良く落ち着いてるなザッカー……」
「話が大きくなって混乱してるでヤンス」
「良いかしら。 王家は勇神を解析しながら、およそ50年前まで、その技術を秘匿し続けたの。勇神が、神であり続ける為にね。でもそれが変わったのが先代王の時代」
「ゴーレム技術の限定解放ってやつでしたか、田舎のジジイ共は今でも語り草にしてやすぜ」
この中では年長のワッジがうなる。
彼はまた鶏肉を再び取り分けると、大きく頬張った。
「確か、辺境の開発が進んで魔獣との事故が増えたから、勇神の手が回らなくなって、それででしたかね?」
「アニキの故郷の話でよく聞くでヤンスね」
「それはかなり後の、大型戦闘用ゴーレムの話ね。今の騎士団ゴーレムの原型が実戦配備されたのが40年前。技術開放からは10年経ってるわ。あなたの故郷にまで配備されたのはいつかは知らないけど」
つ、と、グラスに口をつけて水を飲む博士。
白い喉がこくり、と動く。
「うちの田舎は北部と違って辺境警備軍の配備と同じ頃でしたぜ。 恥ずかしい話だが、それで騎士に憧れて王都に来たのが14の時だ。もうすぐ30年前ってことになるのか。 っと、今は姐御の話だ、それで?」
「先代王の話ね、彼は王家が秘匿していた勇神の技術を突然一般に開放したの、もちろん全てではないけど。 今でもその理由は不明、他国に先んじてゴーレム開発で優位に立とうとしたとか、行き詰った国力回復を辺境開発にかけて、その補助のためだとか、いろいろ言う人はいるけど真相は闇の中よ」
アザレアは眼鏡を光らせると、突然立ち上がって続ける。
「それで50年、ゴーレム開発が続いてきたのに、まだ勇神を超えるゴーレムは登場していないの。 50年よ、50年! どんな技術が伏せられてても、大抵の分野なら50年前の技術なんて化石みたいに使い物にならないか、基礎的過ぎて子供でも知ってるものになるか、例外的にコストと時勢に見合わなくて進歩してないもの以外、現在のモノが遅れを取ることなんてないの!!」
「は、はぁ、でヤンス」
「姐御落ち着いて下せえ、俺でもちょっと考えながら聞きたい所でさぁ」
はぁはぁと息を切らした博士が、ふぅ、と息を吐いて座る。
「要は古いはずの勇神が、なんであんなに強いかって事よ」
「なんでなんすか?」
「……ヤンス」
「金髪マッチョ君はもう聞いてないわね、まあいいわ。 その秘密が、アーティファクトよ」
今日はここまで
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