深夜の激闘
今日もはじまり、はじまり
『「さあ!!仕切り直しといこうか!!」』
雄々しく立ち上がった勇神が、今度は闘気を纏って夜空に映える。
右の拳は胸の前に、体を半身にして左の手刀を構え、猛牛ゴーレムに走り掛かった。
頭を振って迎え撃つ猛牛の、空気を裂いて襲い来る二本の角をかいくぐり、拳の嵐を打ち込むと、ひるんだ下顎に強烈な膝蹴りを叩き込んだ!!
『「せいやァ!!」』
思わず天を仰ぐ巨獣が、後ろへ下がって距離を取ろうとするのを、今度は騎士団ゴーレム達が壁を作って押し戻す。
石畳を蹴り上げて繰り出される猛牛の後ろ蹴りを、一機が誘い、一機が防ぎ、残る一機が斬りつけて、入れ替わり立ち替わり、徐々に機動力を奪いに行く。
前からは勇神の猛攻を、後方からは騎士団の連携を受け、巨獣は逃げ場を失って通りに閉じ込められた。
「アニキ!!どうするでヤンス!?」
「どうもこうもねぇ!!姐御から連絡があるまで粘るだけだ!!」
地面に突き立てる様にした両角を、瓦礫とともに振り上げる猛牛ゴーレム。
苦し紛れの目くらましであったが、勇神は追撃を警戒して軽くステップを踏んで下がる。
「ブレイブ・ネイル・シュート!!」
距離を取った勇神の握り込んだ拳から、光の釘が放たれた。
ブレイブ・パイクを小型にしたような、光のエネルギーを凝縮したそれは、指の間に左右四本、合わせて八本!!
闇を裂いて飛ぶ魔法の矢は、狙い違わず猛牛の前足を狙って突き刺さる!!
「おわあああでヤンス!!」
「こんちくしょう!!」
足を重点的に攻撃され、動きの悪くなった猛牛が正面突破に賭けて、角を振り回して勇神に迫る。
失った突進力を頭部の遠心力で補って、破壊のエネルギーは暴風の如く辺りを砕き、横向きの竜巻となって荒れ狂う。
渦潮の様に回るコクピットの中で、ワッジとザッカーも荒巻く慣性と乗り物酔いに必死で耐えた。
『「勇神キック!!」』
巨獣の動きを完璧に見切った勇神は大きく回転しながら跳躍すると、暴れ牛の頭を飛び越えて胴体に蹴りを決める。
今日一番の轟音と、稲妻のような閃光の爆発!!
扁平足と揶揄された両足を揃えて繰り出されたドロップキックは、スタンプの様に猛牛の肩にめり込むと、その巨体を大きく吹き飛ばして地面に叩きつけた!!
「ぎゃあああ!!うっゲロゲロゲロ」
「オロロロロでヤンス……」
王都の外れの造成地まで蹴り飛ばされ、その巨体を横たえた猛牛ゴーレムに、あの日と同じ勇神の足音が迫る。
ズシン ズシン ズシン
「っは!! おい!ザッカー起きろ!!」
ズシン ズシン ズシン
「げっっほ!!ッはァ!! 喉が詰まって死ぬところでしたでヤンス」
ズシン ズシン ズシン
闇夜に歩み来るシルエット。
関節から吹き上がる青白い魔法光は、勇神の顔を下から照らし、見るものの心胆を寒からしめる凶相を浮かび上がらせる!!
『貴様ら、先日の強盗であるな?』
地獄の底から響く魔神のような、聞くものの体を凍らせる勇神の声。
唐突な勇神の指摘に、覆面をした二人が抱き合って互いを見る。
『その黄色の魔法光には覚えがあるぞ、アレックス泣かしてくれた下郎共め! 我が子供らが互いに争うことの無きよう、ゴーレムに設けた不殺の誓いをも悪用し、王都を騒がせてくれるとは、その罪もはや贖いがたし!!今度こそ成敗してくれる!!』
「「ひいいいいいいい!!」」
『不殺の誓いはゴーレム対人間のために定めたもの、ゴーレム同士の戦闘では機能せん事を知らんとは言わせんぞ……!!』
猛牛ゴーレムにびしり!と指を突きつけて、勇神の怒りは最高潮に達した!!
『アレックス!! ロイヤル・フォーメーションじゃ!!』
時を遡って勇神到着前。
下水を通って王城の内部に忍び込んだアザレア博士は、物陰に潜んで警備の隙を伺っていた。
夜半になって城下町で騒ぎを興し、酔っ払いを使って騎士団を妨害し、勇神を王城から遠ざけたのはまさにこのため。
「配置は予定通りみたいね」
夜の街を遠く歩く猛牛と、それに向かって進んでは止まる騎士団ゴーレムの魔法光を双眼鏡で確認しながら、口に飴玉をほおって噛み砕く。
思わせぶりにゴーレムを街中で暴れさせることで、勘違いして深読みした誰かが、王族居住区を重点的に防衛する為に移動を始める隙に、城郭の端で警備の薄くなるであろう王立研究所にしのび込む為であったのだ。
白い歯と形のよい顎が、飴を砕いてバリバリと音を立てた。
予定より速く早馬が王城に駆け込んだのを確認した博士は、人目を避けてアナグマのようにもそもそと城壁に沿って移動すると、王立研究所の裏口にたどり着く。
「作ってたの誰にも言ってないからしょうがないけど、合鍵で入り放題っていうのはどうかと思うわ」
大荷物の中から取り出した鍵束を、くるくると指先でまわしながら、彼女のかつての職場に潜入した。
ドアの外に荷物を置いてまっさらな白衣に着替えると、いつもの小さな眼鏡を縁の大きく派手なものに替え、化粧セットでちょちょいと見た目を整えて、堂々と研究所内を歩き始める。
バインダーを小脇に、すれ違う研究員に軽く会釈をして、腕につけた時計をちらちら気にする振りをしながら廊下を進む。
その姿は残業に熱中するあまり恋人とのデートに遅れそうになって焦る、若き女性職員そのもの。
「あたしのかぼちゃの馬車は、まだ元の場所かしら?」
予定通りとはいえ、あまりにスムーズに進んだ潜入に上機嫌になる博士。
似顔絵に書きづらい、特徴のない美人顔だから可能な、どこまでも大胆な潜入工作であった。
「ここは変わってないわね」
格納庫と書かれた大きな扉に辿り着いた博士が、その先にあるものを睨みつけるようにして、扉の端の小さな通用口をくぐる。
明かりの点いていない内部には、巨大な気配が3つ、目覚めを待って眠っている。
「さあ、行きましょうか」
三つの影のうち、一際大きなものに触れようと、博士が歩み寄り手を伸ばした瞬間、赤い、青い、黄色い光の門が沸き起こり、博士の前の影を連れ去っていった。
「あたしの…… 馬車……」
残された博士は、手のひらに爪を立てて震えると、踵を返して格納庫の外へ歩き出した。
今日はここまで 次回「大勇神」
お読みいただきありがとうございました。




