勇神危うし
今日もはじまり、はじまり
『はっはっは!!アレックス!格好良く決まったであろう!!』
夜空に腕を組んで立つ勇神が、上機嫌に笑う。
『召喚と同時に合身とは、我がアイデアながらよくぞ思いついたものよ!どうじゃ、アレックス!今度は何処か高いところから飛び降りながら合身してみるか!!はっはっは!!』
目の前の猛牛ゴーレムなど眼中にないとばかりに、独り悦に入る勇神を、ワッジとザッカーは呆然と眺めていた。
「なんだぁ?」
「この間とはだいぶ違うでヤンスね」
先日自分らを恐怖のどん底に陥れて、極大のトラウマを植え付けてくれた機械の巨神は、派手に名乗りこそしたものの、今夜は戦いに臨もうとする覇気のようなものが感じられないのだ。
『のう!そこな大牛の者よ、如何であった!? 驚いたであろうが!! わぁっはっはっはっは!!』
「あのぅ、勇神様? 相手のゴーレムの人も困ってますから、ね?」
おろおろとしたアレックスの声が諫めに入るが、ご満悦の勇神は自らを見下ろす巨獣の前でまだ腕組みをしたまま動かない。
すっかり戦意をそがれてしまった猛牛の中で、覆面をした二人は、一時自分たちの目的も忘れて混乱したが、やがてふつふつとした怒りに自分達が染まり行くのを感じた。
戦うでもなく、侮るでもなく、ただその場に居ても居なくても結構だとぞんざいに扱われる事は、時としてどんな挑発よりも人の敵愾心を呼び起こすのだ。
「馬鹿にされてるでヤンス!」
「ああ!!ぶっつぶしてやらぁ!!」
小山のような猛牛ゴーレムの前足が激しく地面を掻き、全身に張力がみなぎる。
黄色の魔法光を吹き出しながら頭を低く、殺意の乗った角を闇夜に浸して突進の構えを取ると、勇神めがけて弾丸のようにその身を叩きつけた。
『「何のォ!!」』
轟音と炸裂する魔法光!! 夜の石畳をめくり上げて、土煙が王都を走る!!
二本の角をその手に掴み、突進を受け止め踏ん張った勇神の両手の関節から、青白い魔法光が激しく漏れた。
『「ぬおぉぉぉおお!!」』
頭部だけでも勇神の胴体ほどはある巨獣の突撃は、勇神の衝撃転換装甲で構成されたフレームを破壊する事は叶わなかったが、その関節に負荷をかけ、じりじりと後退させて行く。
勇神の両足が地面を押しのけて、土を盛り上げながら、体格差にあらがおうと青い光を輝かす。
「舐めた真似してくれたな時代遅れのガラクタ野郎め!!最近の流行はテメエみたいな扁平足の万能機じゃあねえんだよ!!だあっはっはっはっは!!」
「一点豪華主義こそ正解!!力こそナンバーワンでヤンス!!」
頭部のコクピットから間近に見える、苦悶の表情で持ちこたえる勇神に、さらに出力を上げて押し込もうと悪い笑いをこだましてワッジが魔力を込める。
黄色の魔法光が強く輝き、猛牛ゴーレムはうなり声を上げて、青の光を塗り潰す様にのし掛かる。
『「うわわわわ!!」』
遂に海老反りになった勇神の、足首までもが地面に沈み、もはや絶体絶命!!
ゴアぁぁァァァー!!!
次の瞬間、猛牛ゴーレムは背後から飛来した三本の投擲槍を受け、頭部にしがみついていた勇神を跳ね上げて激しく暴れた!!
おぞましい叫びを上げてもだえる巨獣の背後に現れたのは三機の騎士団ゴーレム!!
丸みを帯びた装甲に油断なく大盾を構えたコガネムシの如き機械騎士達は、予備の剣を抜いて後方の道路を封鎖する。
「しまった!!」
「さっきのは時間稼ぎでヤンスか!!」
覆面の下で仰天しながら、ワッジとザッカーが叫ぶ。
空中で身をよじり、正面の道路に拳を着いて着地した勇神の、機械の口がにやりと笑った。
『娘が間に合ったようじゃな!! アレックス!!』
数分前、現場に急行するアレックスの馬車が轢きそうになったスキンヘッドは、モニカの旧知であった。
道路に寝ていた彼の話から、賊の狙いを察知した主従は腕輪を通信機として勇神と相談し、二手に分かれてゴーレムの足止めと騎士団の救援に、それぞれ走ったのだ。
最大戦力を集結して叩くために!!
これぞ兵法!! かくも老獪!! 王国の歴史と同じだけ、知識と胆力を蓄えた勇神の、渾身の演技が今、アレックスに勝利をもたらす!!
『「さあ!!仕切り直しといこうか!!」』
合身を急いだのは、ただただアレックスの身を案じての事であったが。
今日はここまで 次回「深夜の激闘」
お読みいただきありがとうございました。




