勇神再び
今日もはじまり、はじまり
「ねぇねぇスキ坊、最近貴族の子が入り込んでるってホント?」
「ああ、何か共も連れねぇで下町で屋台巡りしてるガキがいますね。今日も見ました」
「ふーん よそ者が入ると危ない通りもあるし、あたしちょっと行ってこようかな」
「わざわざリーダーが? 追っ払うなら自分らでも……」
「あんたらの見た目だと怖がらせちゃうでしょ。貴族ともめ事なんてみんなも困るから、一人でいくよ」
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「スキ坊!スキ坊!あたしリーダー辞める!! これまでお世話になりました!! じゃ!!」
「はぁぁ!? 待て待てリーダー!! 何があったかぐらい話せよおい!!」
「あたしあの子に着いていく事に決めた!! 話しかけたら、何かもう!!頭の中がグルンってなって、わーってなって、バーンってなったの!!」
「何言ってんだか解らねえよ!! リーダーそんなに馬鹿だった!? 着いていくって、えぇぇ?」
「あたしも解んない!! でもこうなったから!! もう行っていい!? 離れてると爆発するかも!!」
「説明下手ぁ!! 貴族の家来になるのが決まったって事か? スカウトされたん?」
「んーん、なんか家来もっちゃダメなんだって! ペットぐらいしか飼えないって、だからあたしペットになって着いて行くって言ったら、まぁそれならって!! あの子優しいの!!」
「ペットかよ!! しかもそれで良いのかよ!! そして今から行くのかよ!! 何もかもが急すぎるだろ!! あとクネクネするな!!」
「いいの!! スキ坊次のリーダーね、もうみんなには話してあるから!! よろしく頼むよう! じゃね!!」
「え?ちょっおい!! 待て、ないのな。 足速えぇ…… はぁ。リーダー、そりゃあ……」
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恋だろ
道路に寝っ転がって大の字になったスキンヘッドは、自分がうたた寝をしていたと気づいた。
何か懐かしい、それでいてとびきり騒がしい夢を見た気がする。
あの変な二人組に倉庫で敗北して、組が乗っ取られると心配したら何の事は無い、たんまり金をもらって酒を飲んで道で寝ろと、良くわからない依頼をされただけだった。
組の連中は訝しがりながらも、恐れ半分、もらった金に喜び半分で町に繰り出し、大いに騒いだようだ。
酒を飲まないものに、潰れた奴から道路に寝かせて来るよう言い聞かせて、一人倉庫で自棄酒をくらっていたが、どうやら律儀な誰かが潰れた自分も外に運んでくれたのだと、夜空の月が教えてくれる。
「俺まで放る必要ねぇだろ……」
仕事熱心なのか、舐められているのか、一度しっかり確認する必要がありそうだ。
馬蹄の音が近づいてくる通りの真ん中で、スキンヘッド寝返りを打つと再びまどろみ始めた。
「だぁはっはっはっはぁぁぁ鬱陶しい!! ザッカーおめぇ降りてあの馬止めてこれねぇか」
片方の前足を上げて動きを止めた猛牛の、蹄の行く下に巧みに馬を操って割り込むオットーに、ワッジは大声をあげた。
何やら固まっていた騎士達が走り出したと思ったら、一人の騎士があろう事か、ゴーレムの腹下に潜り込み、踏み出す足の着地点を妨害し始めたのだ。
おびえる馬の向きを巧みにかえて、荒れた路面を細かく移動する技術はまさに名人のもの。
「あの手綱さばきはただ者じゃないでヤンス」
牛型ゴーレムの頭部でこの間の覆面を被った二人は、大河港からここまで移動させた巨獣が、ただの騎士一人に足止めをされるとは思ってもみなかった。
ゴーレムを操作するワッジの目の前に赤いシグナルが点滅し、エラーを吐き出した計器が出鱈目に光る。
「自分らの作戦をそのまま返されるってぇのはこんなにムカつくものかよ!!」
「ほんとでヤンス。さっきの騎士達は戻って来ないし、もしかして姐御の方バレたんじゃないでヤンスか」
ゴーレムは人命を奪えない。
この絶対の法則を逆手に取って騎士団を妨害し、勇神を誘い出して遠くに連れ出す計画が、このままでは水泡に帰す所である。
「せめて騎士団ゴーレムに囲まれねぇうちに、出てきてくんねぇかなあの骨董品ヤロウは!!」
「あのガキもう寝てたりなんかするんでヤンスかねぇ?」
そう言ってやっと一歩、馬をかわして地面に片足を着く。
いらだちを叩きつける様に石畳を踏みしめた衝撃は、リュディヴィーヌを大きくいななかせた。
後ろ足だけで立ち上がった彼女に遂にオットーはバランスを崩して、手綱を握ったまま鞍を下り、愛馬の首にしがみついて落ち着かせる。
「良くやったぞリュディヴィーヌ。我らの仕事はここまでだ」
荒く息を吐きながら、手綱を引いて横道に移動するオットーの後に、腕組みをして通りに立つ少年の姿があった。
細身で小柄なその体躯。耳下まで伸びた色の薄い髪はさらさらと土埃の混じった夜風になびき、幼さの残る色白の頬をなでる。
足首までの短ブーツに膝丈のズボン、上品な装飾の施された白の上着を羽織り、左手には深い血の色の大宝石が輝く腕輪を嵌めたその身なり。
猛牛の魔法光に照らされた琥珀の瞳が力を宿し、左手を大きく天にかざす!!
「勇神!!召喚!! と合身!!」
辺りに昼間の太陽と見まがうばかりの閃光を発して、巨大な魔法陣が幾重にも出現する。
赤が、青が、黄色の光が折り重なり、緩やかにうごめく門となって、アレックスの足下に展開した泉の中から、頭部が、肩が、胸が手足が登り来る!!
まるで昇降機で吊り上げられる様に、地平から登り来る朝陽のように姿を現した勇神は、その途中でアレックスを取り込むと、先ほどのアレックスと同じように腕組みをして構えた!!
がっしりとした手足に逆三角形のボディ 胸には交差する剣を背後に獅子と鷲をあしらった王家の紋章
赤いラインに縁取られた、滑らかな曲線が描く白磁の装甲の間からは青白い魔法光を放ち、力強く優美にも感じられる甲冑のようないでたち
鶏冠のついた兜のような頭部は揺らめく炎を燃やし、冷たく敵を射すくめる瞳には確かな怒りを込めて
『「勇神!!ここに見参!!」』
機械の顔が大きく叫ぶ!!
放射されるエネルギーが足下の召喚魔法陣を打ち砕くと、地を走る光の衝撃波が猛牛を叩き、その存在を否定する!!
『「王都の安眠を妨げる悪党め!!この勇神と!アレックス第三王子が相手だ!!」』
二体の巨影が対峙する王都の夜空に、大きく響く高笑い。
『はっはっは!!アレックス!格好良く決まったであろう!!』
今日はここまで 次回「勇神危うし」
お読みいただきありがとうございました。




