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八話 親御さんにご挨拶

 華子は俺のことが好きらしい。

 頬にキスしてきたのがその証拠だ。

 おいおい参ったな、極上の女に惚れられちゃったよ。

 ということは、全部が終わって童貞を捧げ終わった後も、二人は付き合い続ける?

 キャッキャウフフな恋人生活を楽しめたり?

 よーし、じゃあまずは華子と実加子さんの仲を取り持とう。

 俺に惚れてる女のためだ。

 頑張るぜ!




 俺はまず華子の母たる実加子さんに会おうと思った。

 華子いわくタチが悪い実加子さんという人を知っておきたい。

 恋人の親御さんには、ちゃんとあいさつしたかったりも?

 仲介役は兄貴にした。

 デートの翌日も休みなので、二人して実加子さんの家を訪ねる。

 並んで電車のつり革にぶら下がり。


「きっかけはともかく、ついに……ついに、快人に彼女ができたか……」


 兄貴が感慨深げな息を吐く。

 兄貴には今までの出来事を全部説明してある。

 俺は不器用な童貞なので、情報を伏せながらうまく説明するなんてできない。


「兄貴、二組とも結婚したらどういう続柄になるんだろう?」

「ん? 気が早すぎるだろ?」


 兄貴はまだまだ結婚に踏み切る勇気がないようだ。

 俺の方?

 華子の奴、俺にベタ惚れだからなぁ。

 かなり情熱的に迫ってきそうだ。

 たどり着いたのは学校の最寄り駅近くにある八階建てのマンション。

 そこの四階に実加子さんの家はあった。

 ……華子の住処たるゲンさんの家から歩いてすぐだよね?

 華子の家出はかなりお手軽だった。




 玄関扉を開いてくれたのは、ひと目見て華子と血が繋がっていると分かる人。

 実加子さんは俺を見るなり片眉を軽く上げた。


「ま、こんなもんか」


 どんなもん?

 実加子さんの家――つまりは華子の本来の家は……散らかってた。

 兄貴がため息混じりに言う。


「今日ぐらい片付けときなよ」

「どうにもならないよ、華子がいないんだから」


 けろりと実加子さん。

 いや、自分で片付けろよ。

 かろうじて食卓の上は片付いていた。

 そこに三人収まる。

 実加子さんと兄貴が並んで座り、その正面に俺。

 う、恋人の親とご対面って、思ってた以上に緊張するな。

 実加子さんがにっこり笑いかけてくる。

 笑い方が華子に似ている。


「うちのバカ娘がお世話になってるそうで」

「いやいや、お世話ってほどじゃ。俺もいろいろいい目に遭わせてもらってますし」

「へぇ、例えば?」

「手を握ってもらったり」

「……あ、そ」


 覚めた言い方をされてしまった。

 あ、あれ?

 もっと親密なところをアピールしなくては?


「キ、キスもしてきました。向こうから」

「へぇ! あいつにそんな度胸があるんだ?」

「でもほっぺだろ?」


 横から兄貴が言う。

 実加子さんが首を傾げる。


「そうなんだ?」


 なんか覚めてるな?

 いやいや、ここはアピールしなくては。


「ほっぺたでもキスはキスですよ。あいつってば俺にベタ惚れなんで自分から……」

「ベタ惚れ? ほっぺにチューで?」


 実加子さんが難しい顔で首を傾げる。

 なんでそんな反応?

 実加子さんが身を乗り出してくる。


「あのさ、キミらデートしたんでしょ? 詳しい話までは聞いてないんだよね。一部始終を語って聞かせてよ」

「はあ」


 ここで俺たちがいかに親密か……華子がどれほど俺に惚れてるかアピールだ。

 包み隠さず言う俺。

 ……他のお客に絡まれた時の話はしなくてもよかった?

 俺は馬鹿正直な童貞なので一部の話を誤魔化すなんてできない。


「なるほど……。で、華子はキミにベタ惚れ。そう主張するんだ?」

「主張っていうか……事実っていうか……」

「まぁ、華子はキミに好感を持ってるみたいだね。それは確かだ」

「でしょ? あいつってば俺にベタ惚れなんですよ」

「ん?」


 実加子さんがまた首を傾げる。

 その横では兄貴まで首を傾げていた。


「え? え?」

「じゃあさ、観覧車の下りをもっと詳しく話してよ」


 言われたとおりに話す俺。

 いくつか質問されたのでそれにも答えつつ。


「あーあ」


 実加子さんと兄貴が同時に言う。

 え? え? なに?


「あのな、快人……」

「ダメダメ、言っちゃダメだよ、ユキ。自分で気付いて後から悶えさせた方が面白いんだから」

「……なるほど」


 実加子さんに止められて兄貴がうなずく。

 なに?


「まぁ、そのやり取り聞いてても確かに華子はキミに好感を持ってるみたいだ」

「あ、でしょ? ベタ惚れなんですよ」


 深くため息をつく実加子さん。

 なにその反応?

 実加子さんが右の手のひらを開いてテーブルの上に立てる。


「ここがただの友達」


 続いて間を開けて左手も同じようにテーブルの上に。


「ここが好き」

「おまえはな……」


 兄貴が実加子さんの両手の間に自分の手を立てる。


「ここ」


 実加子さんが兄貴の言葉にうなずく。

 え? どういうこと?


「華子は……俺のことが好きなんでしょ?」

「好感は持ってる」


 実加子さんが言う。


「だから好きなんでしょ?」

「好きはここだよ」


 実加子さんが左手を軽く上げる。


「おまえはここ」


 兄貴が自分の手を軽く動かす。

 実加子さんの左手からは離れた位置にある。


「あれ?」


 華子は俺が好きなんでは?

 実加子さんも好感を持ってるって……

 え?


「……好感を持ってると好きは違うんですか?」

「ちょっとだけ、でも全然違う」


 ちょっとなの? 全然なの?

 童貞にも分かるように説明してよ。

 実加子さんが肩をすくめる。


「にしたって、華子が男子に好感を持っただけでもたいしたものだよ」

「そうなんだ?」


 兄貴が聞く。


「あの子、酷い男嫌いだからね。父親が酷いから」

「……ああ、離婚した時は何才?」

「三才。そんな小さな子供がいるのに愛人作りやがったんだよ、あの男」


 実加子さんが吐き捨てるように言う。

 兄貴が口の片端を上げる。

 そして意地悪げに実加子さんに聞いた。


「どうせ実加子さんのことだから、父親のことを悪く吹き込んでるんでしょ、華子さんに」

「……事実を語ってるだけだよ」

「ダメだって、実加子さんがボロクソに言うのを小さい華子さんは真に受けたんだよ。で、男に不信感を持っちゃった」

「なにその……私が悪いみたいな言い方は?」

「いや、実加子さんが悪いんだってば」


 言われた実加子さんが兄貴をにらみ付ける。

 そのキツい視線は華子と同じかそれ以上だ。


「あんたに子育てのなにが分かるのさ?」

「そういう子を口説いたことがあるんだよ。すごい苦労した」

「……この女好きめが」


 自分の恋人を罵る実加子さん。

 とにかく華子ってば男嫌いなんだ?

 父親が悪い奴だから?

 実加子さんが俺の方を向く。

 もう穏やかな表情。


「ま、これからも華子をよろしくしてやってよ。私がイロイロ仕込んでるからキミもイロイロ楽しめるはずだしさ」


 イロイロ? イロイロってどんなの?

 どうしても高まる期待。

 それはともかくとして。


「華子のことは俺に任せてください。童貞を捧げた後もちゃんと面倒見ますから」


 今はまだベタ惚れではないらしいけど、そうなるのも時間の問題だろう。

 そして二人はいつまでも甘い甘い時を過ごしちゃうわけだ。


「童貞を捧げるんだ? そういうのを親御さんに言っちゃうとか面白い奴だよね、キミ」

「えっ! あ、はぁ……」


 正直な童貞なのでついつい言ってしまうのだ。

 確かに親御さんに言う話ではない?


「うん、結構気に入った。ちゃんと自分からあいさつに来てくれたしね。どっかの誰かさんと違ってね~」


 実加子さんが兄貴をじとーっと見る。

 兄貴は顔を背けた。

 ああ、兄貴はそういうの、苦手っぽいよね。

 やっぱりちゃんと親御さんにあいさつに来たのは正解だったか。

 よかったよかった。

 ……って、あいさつに来ただけじゃないよね、俺。

 華子と実加子さんって、実際どういう母娘関係なんだろう?

 その辺を聞いておきたい。

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