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五話 デート!(観覧車)

 観覧車のゴンドラに乗り込むまで華子はずっと無言だった。

 なんか圧力を感じてツラい。

 まず華子がゴンドラのシートに腰かける。

 並んで座りたいけど……やめといた方がよさそう?

 反対側に座ろうとしたら華子が声をかけてきた。


「こっちに座りなさい?」


 顔は向けてくれない。

 ……無言の密室。

 どうしよう?

 やっぱり怒ってるよね?

 童貞にはあれが精一杯なんだよ。

 とにかく謝るしかないか。


「ゴメンな、華子」

「……なんで謝るの?」

「いや、みっともなかったろ?」


 我ながらそう思う。

 万札で許しを乞うたわけだし。


「みっともなかった。情けなかった」

「……だよねぇ」

「しょせん童貞というところかしら」

「……そうなんですよねぇ」

「全部私が悪いんだけどね」


 まだそっぽを向いたまま。

 表情はうかがえないけど、きっとまだまだ怒ってるはず。


「いや、華子が悪いってわけじゃ……」

「私って、こういう奴なの。昔っからそう」

「……そうなんだ?」

「男子にも女子にも高飛車な態度。私はとんでもない美少女だから、最初のうちはみんな寄ってくるの。でも、すぐにみんな、私を避けるようになる。……メンドくさい女だから」

「うんまぁ……分からんでもない」


 俺だって童貞を捧げたいという大目標があるから華子に食らい付いたんだし。


「快人って、ホント童貞よね? 女がヘコんでるんだからうまくなぐさめてよ」

「あれ、ヘコんでるの? 怒ってるんでしょ、俺のこと?」

「なんでそうなるの?」


 華子がようやく俺の方を向く。

 目にはいつもみたいな力がない。

 あ、ヘコんでる。


「さっきのは向こうも悪いよ。華子は主張すべきことを主張しただけ。……言い方は悪かったけど」

「そのせいで快人に……」

「俺のことなら気にすることないって」

「快人……」

「華子に童貞を捧げるためだったら、俺はなんでもするからさ」

「……台無し」


 華子が顔をしかめた。

 え? いやでも、紛れもない本心なんだけど?

 軽くため息をついた後、華子が言う。


「童貞ごときになぐさめてもらおうと思った私がバカだったわ。しょせん童貞だもんね、しょせん」

「またそういう言い方でしょ?」

「ふん、これが私って女なのよ!」


 開き直ってふんぞり返る華子。


「……そんなんだといつまで経っても友達できないよ?」

「し、失礼ねぇ。私にも友達くらい……」

「いるの? 同年代のだよ?」

「……いない」


 顔を歪めて視線を逸らす。

 ぼっち飯ですもんね。

 そうは言っても……。


「華子だって、うまくやれば友達できるはずなんだけど」

「友達の話題を掘り下げないでちょうだい」

「そう言わず、もっと笑ったりしてみたら?」

「笑う?」


 俺の方を向いて首を傾げる。

 そんな華子に向かって、俺は思ってることそのままを言う。


「うん、華子って、笑うとすっごいかわいいし」


 途端に華子が顔を赤くする。

 耳まで赤いけど?


「どうしたの、華子?」

「か、快人ってば、そんなセリフをよく真顔で言えるわね? 私のこと、口説いてる?」

「口説く? いや、思った通りを言っただけだよ? 笑った華子って、親しみが持てるんだよね。酷い性格でもみんな我慢してくれそう」

「ええ? 口説いてるの? けなしてるの? どっちかはっきりしてほしいんだけど」


 華子は目をパチパチとさせている。

 眉尻を下げていつものようなキツいかんじが全然ない。


「あ、今もかわいい。そういうとこを見せてくべきだよ」

「また言っちゃうし。なんなの、こいつ……」


 あ、言いすぎた?

 童貞のくせに意見なんて生意気?


「ゴ、ゴメン、しょせん童貞の言うことだし、聞き流してよ」

「できるんだったらそうしてるわよ。ええ? どうしよう……」


 華子がうつむいてしまう。

 生意気言って怒らせた?

 機嫌を取らないとマズそうだ。


「怒った、華子?」


 華子の肩をちょっとだけ揺する。

 途端に華子が身体をびくつかせた。

 大きく見開いた目で俺を見てくる。

 なんか、驚かせた?

 すぐに華子の顔から力が抜ける。


「笑えば……いいのかな?」

「え、うん。……童貞のたわ言だけど?」

「ふふ、なんだそれ?」


 華子が穏やかな笑顔を向けてきた。

 俺は思ったままを伝える。


「やっぱ、笑うとかわいいよ」

「……バカ」


 華子がちょっと上目遣いをした。

 ん? なにその照れたみたいな反応?

 俺はまだ華子の肩に手を置いたままだった。

 その手に華子が自分の手を重ねてくる。

 え? え?

 柔らかくって? 温かくって?

 華子がしっかりと俺の目を見て言う。


「ありがとう、快人」

「う、うん?」


 華子はじっと俺を見つめた。

 俺も華子から視線を外せない。

 俺の手を握る華子の力が強くなった。

 ゆっくり身体を寄せてくる。

 その印象的な瞳に惹き込まれ――

 え?

 なに?

 なにが起きてるの?

 事態を把握できずに思わず身を引く俺。

 華子が少し首を傾げる。

 二回まばたき。

 反対側に大きく首を傾ける。

 身体を起こして正面を向く。

 その横顔を見ながら俺は聞いた。


「どうしたの、華子?」

「いや、別にどうもしない」


 なぜか無表情。


「……そうなんだ?」


 そしてゴンドラは降り場所に到着した。

 先に扉まで行った華子がふいに振り返る。


「快人って、ホント童貞よね?」


 眉間にしわを寄せて言う。

 え? 今さらだよね?




 観覧車乗り場から出た華子は機嫌がよくなっていた。


「よし、口直しにもう一回、ジェットコースターよ」

「おう!」

「スカート見たら目潰し! 分かってるわよね?」

「お、おう?」


 また目潰しを食らいかける。


「もぉ~! あんたって奴は本当にっ!」


 何度も蹴りを繰り出してきた。

 ブーツで蹴らないで?

 その後も二人して遊び回る。

 華子は屈託のない笑顔を何度も俺に向けてくれた。

 そのたびに俺は胸の中がもそもそとする。

 よく分からない感覚だ。

 まぁいい。今は気にせず遊び呆けよう。

 そのうち空が赤く染まり始めた。

 お名残惜しいけど、そろそろ帰らないと。

 夕飯前までって話だったもんな。

 楽しかった。

 初デート。しかも極上の女とのデートだ。

 横にいた華子が肩をぶつけてきた。


「ねぇ、いい時間だし、そこら辺で夕食も食べていきましょうよ」

「えっ! いいの?」

「うん。私、お腹空いて死にそうなんだけど。快人は?」

「俺もペコペコ!」

「じゃあ、決定!」


 華子が俺の腕を引っ張って先へと進む。

 よろけつつ追いかける俺。

 向こうの方が足が長いから、追いかけるだけで大変だ。

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