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三話 デート!(昼食)

 遊んでいるうちに腹が空いてきた。


 腕時計を見たらもう一時だ。


 華子と相談してフードコーナーを目指すことに。


 てくてくと歩いていく。




「あ、トイレだ。行っとこうかな」




 華子が立ち止まった。


 トイレに行くのか……。


 だったら男としてここは気を遣っていくべきだな。


 まず聞いておこう。




「どっち?」


「どっち? どっち!」




 華子が見開いた目を向けてきた。




「え? いや、時間かかるなら先に買っとこうかなって」




 フードコーナーはもう見えている。


 先に買っておいて、華子が来たらすぐに食べられるようにしておく。


 気が利いてるじゃないか。




「だからって聞かないでよ!」


「ゴメン……大きい方だと言いにくかったかな?」


「違うから!」




 顔を真っ赤にしてにらんできた。


 槍で串刺しにでもしかねない勢いだ。




「じゃあ、ここで待っとくよ」


「いいから先に行ってなさい。あれ見れば時間かかるの分かるでしょ?」




 あ、ホントだ。


 女子トイレの方は外にあふれるくらい列ができていた。


 じゃあ気長にフードコーナーで待つか。


 ……というのは気が利かない男の思考だ。


 ここは優しく気遣うべきだな。




「大丈夫? 我慢できそう?」


「だから、いちいち聞かないでよ。大丈夫ですから」


「そう? ヤバそうなら男子トイレ使えばいいしね?」


「え、男子トイレ?」




 華子が大きく首を傾げる。




「そうそう、男子トイレにも個室あるから」


「えええっ! なに言っちゃってんの、あんた!」




 無駄に大きい声を出す華子。


 あんまりオーバーリアクションしてると漏れちゃうよ?




「大丈夫大丈夫、俺の母さんとかよく入ってるし」


「あんたのおふくろさんと花の女子高生をおんなじにすんな!」




 俺の襟を掴んで激しく揺さぶってくる。


 破れる破れる一張羅が!




「わ、分かった、分かったから離して」




 俺はひたすら哀願する。一張羅が一張羅が。


 華子はどうにか力を緩めてくれた。




「うう……ホントにヤバくなってきたじゃない。じゃあ行ってくるし、適当になにか買っときなさい」




 そう言い残してパタパタと走り去った。


 俺なりに気を遣ったのにな。


 ホント扱いにくい奴だよ。






 フードコーナーで二人分の食事を買う。


 席を確保して待っていると華子がやってくる。


 俺は優しく声をかけた。




「どうだった?」


「どうだった? どうだった! なにを聞きたいの! なんて答えてほしいの!」




 くわっと開いた目で見てくる。




「い、いや、混んでたのかな、って」


「そんなの待ってた時間で分かるでしょ? 快人のことだしロクでもないことを聞き出そうとしたのかと思ったわ」




 乱暴にイスに腰を落とす華子。


 そのままうなだれる。




「……なんでカレーうどんなのよ」




 あれ? お気に召さなかった?




「い、いや、この遊園地特製のカレーらしいよ? 華子って、辛いもの好きみたいだったし」


「そう……そうね……。私は辛いものが大好きな女ですよ。お気に入りの白い服着てカレーうどんをかき込むくらいね!」




 今すぐ喉下に食らい付いてきそうな獰猛な視線でにらんでくる。


 なに? なんでそんな反応?




「い、いや……気に入らないなら俺のと替える?」


「……それ、食べかけじゃない」




 カレーライスだった。


 深い深いため息をつく華子。




「……普通待つでしょ? 女を放ったらかしにして自分だけ食べ始める男が、どこの世界にいるのよ。ねぇ!」




 さらにキツい視線を向けてくる。


 すごい居心地が悪い。


 でもどうしていいのか分からなかった。




「どうしよう?」


「……私に聞かないでよ。いいわ、このカレーうどんをおいしく頂くことにする。出されたものは全部食べる主義だしね」


「そっか、よかった」


「よくねぇよ!」




 華子らしからぬ汚い言葉遣い。


 激怒? 激怒してる?




「い、いや……俺に悪気はないんだよ? 華子が喜んでくれるかな、って思ってさ?」




 見苦しいとは分かっていても言い訳してしまう俺。


 華子が箸を口元まで運んだところで動きを止める。




「黙ってて」


「は、はい」


「これから私は、カレーうどんを食べるのに全神経を集中させるから。私が食べ終わるまで、一切話しかけないように」


「は、はい」




 そして華子は、慎重に……慎重に、カレーうどんを食べ始めた――






 三十分後。


 華子がようやく顔を上げる。




「ミッション・コンプリート! ノー・ダメージ!」




 実に満足げな笑み。


 どうやら機嫌は直ったようだ。


 俺は明るく声をかける。




「おいしかった?」


「うん、おいしかった」


「そう、よかった」


「ホントはね、快人」


「うん」


「ホントはね、このお汁がいっぱい残ったどんぶり鉢を、あんたの顔面にぶつけたくて仕方がないのよね!」




 ひいいい、まだ怒ってるよ。




「わ、悪かったよ。なにか奢るよ。これも奢らせて?」


「いいえ、あえて奢らせないわ。それどころか私が奢ってあげる。ほら、これでソフトクリームを買ってきなさい?」




 お札をテーブルの上に放る。




「なに味がいい?」


「カレー味以外ならなんでも!」




 マジで目だけで殺されそうだ。


 無難にバニラ味のをふたつ買ってくる。


 華子は頑なにお釣りを受け取ろうとしない。




「頼むよ、華子……」


「ふふん、実に情けない顔よ、快人」




 嗜虐的な視線を向けてくる。


 ゾクゾクするけど、どうすればいいの?




「と、取りあえず、預かっておくよ?」


「お好きにどうぞ」




 横を向いてぺろりとクリームを舐める華子。


 ……エロいな。


 極上の女が長い舌を出す。


 さらに舐める。


 巧みな舌使い?


 ちらりと華子が見てきた。


 やべ、欲情してたのがバレたら怒りの炎に油を注ぐ。


 慌てて自分のクリームを舐める俺。


 華子が話しかけてきた。


 意外に落ち着いた声。




「快人って、ホントに女子とデートしたことないんだ?」


「え? ああ……まぁ、ねぇ……」




 やっぱりいろいろミスってるのかな?


 少なくともカレーうどんは失敗だったらしい。


 ちゃんと謝った方がよさそうだ。




「ゴメンな、華子。いろいろと呆れちゃったよな?」


「いや別に?」


「え、そうなの?」




 華子の顔を見ると向こうはソフトクリームに上からかぶりついたところだった。


 口を離してから唇の周りのクリームをひと舐めにする。


 エロいのか子供っぽいのか判断がつかない。


 華子がため息混じりに言う。




「だって、快人はしょせん童貞だもの。最初から期待してないからいちいち呆れたりはしないわ」


「……はぁ」




 それってけなしてるよね?




「期待してなかったのよね」


「まぁ、しょせん童貞ですもんね」


「そうそう、だから驚いちゃった」




 華子が口の両端を上げた笑みを向けてきた。




「え、なに?」


「快人と遊んでると楽しい。驚きの大発見よ」


「……へぇ」




 これは褒めてるよね?


 いやいやでも。




「カレーうどんは?」


「すっごいムカついた」


「あ、スカートは?」


「すごいキモい」


「後は……」


「笑顔であいさつしない。言わないと服を褒めない。靴が汚い。香水を勝手に嗅ぐ。香水の理由を聞きたがる。席が空いたのに確保しない。会話を途切れさせる。みっともなく奢りたがる。歩くの遅い。巨乳をチラ見する。係員相手にキョドる。ジェットコースターごときにビビりすぎる。乗り物に乗るのに支えない。ヘンな叫び声を上げる。降りる時に支えない。アトラクションを選べない。歩くの遅い。巨乳をチラ見する。小さい子供とぶつかる。なぜかスカートばっか見る。人の照れた顔を見ようとする。隙あらばうなじを見る。イシキしちゃってるなんて勘違いさせる。結局スカート見る。また巨乳。レストランでランチなんて思いつきもしない。トイレくらいスムーズに行かせてよ。そしてカレーうどんだ。しかも伸びてる。自分だけカレーライスなんだ? 先に食べ始めるんだ? 機嫌を取るどころかイラつかせるだけ。きれいに巻けてる方のクリームを寄こしなさいよ。お釣りなんて後でまとめて奢ってくれたらいいじゃない」


「うう……」




 やっぱり呆れてるんじゃないの?


 仕方ないじゃん、初デートなんだし。


 なにか言い訳しようとするが言葉が出てこない。


 と、華子が微笑んだ。




「すごく楽しい」




 とても親しげな目で、俺を見てくれた。

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