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異世界はチーターだらけで俺は脇役。  作者: 時の勇者
第一章:不幸でも異世界転生がしたい!
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第5話:朝の散歩ついでに観光をすると

「おはようさん」


「あ、おはようございます……」


 目が覚めると、病院のベッドの上だった。自分は今、患者用の服を着ているのが分かる。ゴワゴワするなぁ。


近くの窓に太陽が上っているのが分かる。朝か……。


 隣には白衣を着た医者がいた。禿げた年老いたおじいさんだったが、それがベテランの風格を漂わせる。少し太っているところを見るに、相当儲けているようだ。腕は確かなようだと思われる。医者はどうやら今さっき来たところらしい。医者がカーテンを開けていた。


「具合はどうだね?まだ少し、痛むかね?」


 そう言われたので、体を動かす。不思議と痛みは無い。状態を起こして左手のひら、腰を見てみる。傷跡が見られない。まるで無傷だ。


 はっ……!と思い、右足の骨を確認する。骨に異常どころか、痛みすらない。痛み止めを打ったかどうかは知らないが、どうやら無事なようだ。すごいな。


「いえ、大丈夫みたいです。ありがとうございました」


 そう返事をすると、医者はにこやかに笑い、そうかい、とだけ言ってくる。医者はじゃあ取り敢えず大人しくしているんだよ、と言って扉を開けて部屋から出ていく。


医者が何も言わずに出ていったのには驚いたが、まあアレだろう。落ち着いてから状況説明するタイプだろう。


 落ち着いてから、ある事に思い至る。もしかしたらこれは、異世界に行ったという夢なのではないかと。


 考えてみれば、ありえない事だったのだ。何が異世界だ、バカバカしい。異世界の人があんなに抜けた人だらけではないだろうに。


 そもそも神様が嘘臭かった。ニートで神様ってそもそも無理があると思う。もっと頼り甲斐のある存在だと思っていた。(まあ、働いていた点ではニートではないが)


 そう思っていると、扉が開かれた。そちらの方を見てみる。すると、先程の憶測が割れるように消え去る。神様がぴょこと顔を出す。うわー威厳がない登場の仕方だ……。


「大丈夫だったかい?まさか初日で死にかけるなんて思わなくてびっくりしたよ」


「あはははは………。」


 うん、それは俺も思ったわ。笑うしかない。何せいきなりモンスターが出てきて、狙われて殺されそうになるとか、終わってるな、俺の運勢。


「失敗だったね。まあ、強くなったらその心配は無くなるから、まずは観光ではなく、先に身体を鍛えないとだね」


「ソウデスヨネー」


 正直それは思ったのだが、それ以前にもっと重要なのがある気がする。それが何かは分からないが。


「ていうか、これって運関係あるのですか?ある意味幸運ですけれど」


「なんで?」


 と神様は訊ねてくる。当然だ。ギルドには入れない。料理は高い。観光しただけで殺されかける。いい所なしだ。だが、


「異世界らしい異世界のイベントがあったんです!それっぽくなかったがギルドがあって、強い人は現実では有り得ないくらいの強い人で、街で出現しないはずのモンスターがいて……」


 神様は静かに佇んでいる。まるで、子供が今日何をしてどうなって、どうだったのかを静かに聞いてくれる親の様に。


「まさか1日目でほとんど全ての体験が出来たなんて。本当は、異世界って行ったところで何も出来ないのでは、と思っていたんで」


 不運の連続かと問われたならば、別段不運とは言えなかった。(むし)ろ幸運だと言える。思っていた通りではなかったが、それでも異世界という名のファンタジーは体験出来た。満足だ。


 だけど、この世界でのルールについて、少し聞きたいことがあった。


「それでですね、神様……いえ、テールさん」


「さんは要らないよ。ここではみんな、テールで通してもらっているからね」


 おっと、通してもらっているというのならば仕方が無い。日本人として周りに合わせておこう。……コミュ力高いな。


「テール、この世界のレベル上げとこの世界での目標を教えて下さい」


「ふむ、なるほどね」


 レベル上げは確かに必要だが、どういう風に上げられるのだろうかが少し疑問だった。対決のみならば対戦相手を探さなければならないし、必要無いのならば1人で鍛えたいからだ。化け物揃いと対戦したところで強くはなれないだろう。


 そしてもうひとつは目標。こういう世界では魔王がいるのは当然だろうが、その割には食料以外は問題が無さそうだ。多分、魔王と相対峙(あいたいじ)出来る存在がいると結論する。


「レベル上げはそうだね。対決以外でも1人で修業をすればレベルは上がるよ。ステータスカードがギルドで支給されるから、そこに書かれる。討伐数も書かれていたりするからね。目標というのは、この世界の目標(ゴール)という意味かい?そんなものは沢山いるが、強いて言うなら魔王はいるね」


 思った通りだ。というか当たり過ぎていて、自分がエスパーなのか疑いたくなってしまう。凄い、流石俺。(自画自賛)


だが、それは誰だって考えられる結論であると思う。異世界とは〇〇でー、と言うように常識で考えただけだ。


 ならば、先程考えた方法で強くなって、魔王を最終目標にして目標を猛者の討伐としておこう。これも常識だからな。


「分かりました、それだけで十分です。ありがとうございます」


 そうかい、と神様が返事をして用事が済んだのか、じゃあ、と言って帰った。置いて行くのかよ……。


 その後、医者が戻って来て足やら腕やら腰やらを見て、叩いて確かめてから何かしらの注意をして、退院許可証を頂いた。その時に元の服に着替えて(サービス精神がいいのか服が洗濯されてあった)外に出るために外へと目指した。


 病院を出ると街から出る門があった。ここは最南端だろうか。それとも別の方角なのだろうか。


 一瞬、迷子になったかと思ってどうしようか迷っていると、テールが走って戻って来た。少し大急ぎでやってきたのだろうか、息を切らしながら口を開く。


「はぁ、はぁ、そう言えば、ここがどこかは、はぁっ、まだ分からないよねっ?」


「助かります。ありがとうございます」


 と言いつつ少しお辞儀をする。それにしても体力の無いこと驚きですね。この人ギルドになんで入れたんだろう。


「ですが、今日のところは1人で街を歩いてみたいので、ここがどこなのかを教えてくれればそれだけでいいですよ」


 何とも失礼で上からものを言うような言い方になったのだろうが、他に言う方法が思い至らず、仕方なくこう言った。コミュ力低いなぁ……。


ようやく息が呼吸が元に戻ったのか、少し深呼吸をして口を開く。


「そうか。では場所を教えておこう。ここは街の最北端だよ。右の道を真っ直ぐに歩くと私の家があるから、覚えておくようにね。あと、道には気を付けることだよ」


 と言い、神様は小銭を渡してこれがいくらかを伝えてから、歩いて帰って行った。多分、さっきの忠告はモンスターにまた出会うと踏んだのだろうか。できれば出会いたくないところだが、心配してくれているのだろう。とてもありがたい事だ。そしてこの小銭は道中何か買いたくなったら少しくらいは買ってもいいのだということだろう。


 何故あんなにも神様がこちらに気を使ってくれているのかは知らないが、それを考えたところで分かりようもなかった。


 今日は西側と東側に行ってみようか。確か、西側と東側にはたくさんの店があるんだったな。お金を持っていくと何かと買いたくなってしまうだろうと思ったからテールを連れて行くことをやめた訳だ。まあ結局お金をもらったわけだし、意味がなかったが。とりあえず先に最西端まで行ってから順に東に行こうか。


 中央の広場とギルドのところを通って往復するのもなんだし、最北端のところにいる訳だ。この街は円形に外壁が囲まれていて、外に出るには東西南北の四ヶ所くらいからしか出られないと聞いた。つまりは最北端の門がここにあるわけだし、ここから壁に沿って左に行けば最西端に着くはずだ。そこから中央に向かって直進すれば往復する必要もない。同じ景色を二度も見るのは少しつまらないからな。


 そうと決まれば早速観て回ろうかと歩き出す。住宅街といえどもポツポツと薬局があり、この街は健康に対しては気を使っているのだと思った。とはいえやはり進歩していない異世界だ。その数は少ない。もしかすると大きな病院はさっきまで居てた所だけなのだろうかと考える。


 その結論で間違いはないだろう。もし仮に別のところにもあったとするのならわざわざ俺を最南端から最北端まで運ばないはずだ。とすれば、今後は病院に行くことを諦めた方がいいだろう。年寄りには生きづらい世界だな。


 ついでに道中では兜は被っていなかったものの、剣を腰にぶら下げ、背中にバッグを背負って鎧を着ている人が何人か目撃できた。きっと今からギルドに行って、この街から外に出てモンスターを狩ったりするのだろう。中には杖とローブのみの人もいた。多分魔導師だ。


 その他にも白のマントを着ているものがいた。腰に木刀があるところを見るに、戦闘しても殺傷できないようにされているのだろう。俗に言う憲兵というやつだろうか。よく憲兵とは一般市民に対して無抵抗だからといって脅して金を巻き上げるところ見るが、彼らは違うようだ。いやこれが普通だけどね。


 住宅以外にも店がたくさん増えてきたのを見て、そろそろ北西あたりだろうと思う。服や食料品を売る店が多くなってきた。中には怪しげな店もあったが、ポーションショップだろう。……朝は閉じているのか。


 このあたりになってくると朝でも賑やかになってくる。道が整備されているのかここでも中央広場が豆のように見える。どうやらこの街では道が中央までいけるように、そして迷っても中央まで行ってから元の場所まで戻れるように分かりやすくなっているのだろう。この街の創始者は賢いな。お陰で迷わずに済む。


 そうこうしている内にお腹が鳴った。朝だからか、昨日の夕食を食べていなかったからか、それとも両方だからか。とにかくお腹がすいた。仕方ない、お腹を満たすために少しお金を使おう。


 とはいえ料理店に行ったとしてもあまり分からないのと、軽く食べたかったから、果物の売られている所に行こうと思った。丁度よく近くに果物店があったのでそこに寄る。一応歯は磨いているぞ?


 果物店でも異世界だからか八百屋形式で売られていた。ようは店に入らずその場で店主と交渉して物を買うというシステムだ。元の世界では最近あまり見られなくなり、商店街に行かなければ見ることさえ少し難しいものだ。特に都会ではスーパーが主流になってきてるはずだ。


 などと思いながら店主と思われるエプロンを着た、褐色肌の白髪の、少し厳つい、けれどどこかしら優しそうなおじさんに話しかける。


「おはようございます」


「いらっしゃい……おや、見ない顔だな。最近ここに越してきたのかい?」


 おじさんはニコッと笑いながら話してくる。その笑顔がとても似合っていた。営業スマイル感がないだと……っ!?


「はい、冒険者になりたいと思いまして、ここに来ました」


「ほほう、そうかそうか!頑張りたまえよ、若造よ!」


 そう言って店主は親指を立ててこちらにキラリと歯を見せる。何だか眩しい。というか初対面で朝なのにここまでのテンションとか流石八百屋だな。


 果物で売られているのはりんご、ぶどう、いちご、パイナップル等々。……バナナまで売られている。熱帯地方のものをどうやってここまで運んできたのだろう。


 とりあえずここは王道のりんごを2つほど買っておくか。……いや、王道って決まってはいないが。


「おじさん、りんごを何個かください」


「はいよ、りんごはひとつ4ベルロッゾだよ」


 ……………………。


「すみません、お金の単位を知らなくて」


 そういうと、店主は手を顔に当て、あちゃーとか言いながら上を向く。そしてこちらに顔を向けて、


「あのな、硬貨には種類があってだな。ラッザが金貨、ルッズが銀貨、ロッゾが銅貨だ。単位が100分の1ずつで、この穴が開いているのがベル硬貨といって、穴が開いていない硬貨の10分の1の単位だ。硬貨の種類によって、ベルラッザ、ベルルッズ、ベルロッゾ。分かったか?」


「はい、ありがとうございます。単位の種類が豊富なんですね」


 ……ってやばかったな。間違ってベルを半分の単位で記憶していたところだった。よく考えたら24ベルルッズを2ルッズと4ベルルッズで渡してたんだから単純に10分の1だって分かるのに。やはり頭悪いなぁ……。


この店主、普通なら嘘をついてぼったくってもいいのに、本当のことを言ってくれたのだろうか。優しい人だ。沢山買ってやろう。……まあ、テールのお金だから沢山買っても損はしないんだけどな。うわ、考え方が悪人だな、俺。


 早速テールから渡された小銭袋を開くと、中には10ベルロッゾ、10ロッゾ、10ベルルッズ、10ルッズが入ってた。……なんか、きっちりとした枚数だな。あらかじめ予想はしていたのだろうか。


 たくさん買おうと思っていたが、そんなには食べられないと改めて考え直し、結局2つ買うことにした。店主が紙袋にりんごを2つ入れて8ベルロッゾ渡して購入する。


「ほい、毎度ありー!」


 と店主は言った。……よくよく考えると毎度ありって毎度ありがとうございますの略で、毎度というか初めて来たんですけど、俺、と思ってしまった。定型文なんだから仕方ないといえば仕方ないんだけど。


 紙袋からりんごを1つ取り出し、かじりながら再び歩き出す。りんごが甘酸っぱくてジューシーだ。美味い。


 西門にやっと着く。意外とりんごが大きかったために、残り1個残したまま紙袋を片手に、中央広場の方角を見る。門があるためか、ここは今までの道よりも大きく造られていた。そして、右にも左にもたくさんの装備品やポーション売り場、料理店などがあった。服だって売ってあるな。


 東門まで何分かかるか分からないが、どうせ暇なんだしと思い、急ぎ足で歩く。ほら、一応修行しなきゃだしね?時間がもったいないしね?急がないといけないといけないと思ってね?


 などと、いったい誰に対してなのか分からない言い訳をして街を見て回る。中央広場までの間、ほとんど代わり映えのない街並みだった。しかしながら、風景としてみれば最高だった。


 高いところで三階建ての建物があり、大通りだからか逆に一階建ての建物がなかったりと、大通りといえどもそこはやはり栄えているところだなと思った。さっきの北西の町並みなんかは一階建ての建物が多かったしな。


 中央広場では、大きな噴水が今まで通り大きい噴水を起こしていて、鳥たちが飛び回り、人が溢れ返っていた。近くにはギルドもあり、人が沢山いた。早くここを離れないと邪魔になりそうだな。


 噴水をギルドのあるところとは反対のほうに迂回して、東門の方へと向かう。


 と、そのとき、後ろから何処か可愛げのある声がかけられた。


「すみませ〜ん!あなたは確か、昨日試験に落ちた人よね?」


振り返ると、身長が小さくて可愛らしい水色のワンピースを着た、水色のサイドテールの美少女がそこにいた。目はぱっちり開いていて、まだまだ幼さが残っている。歳は10代前半と言ったところか。身長は130センチメートルくらいだろうか。顔は可愛いな。あ、俺はロリコンではないのでセーフ。

突然だが、ものすごいこと聞いてくるな、このチビは。


「そうだけど、あまり大声で言わないでね?マジで落ち込んでるんだからね?」


あはは、そうですねーと言って、頭に拳を当てる。テヘペロってやつだな。……うぜぇ。初対面相手にはやめろよな。


「試験にもう一回受けるのよね?」


「まあ、そうだね」


まあ今じゃないけどな、と言っておく。なるほどと言うように頷いてくれた。

というか、何が目的なんだろう。目的があって自分のことを知った上で話し掛けてきたはずだ。

と思っていた矢先、あちらから話しかけてきた。


「実は、あたしも冒険者になろうと思ってるの!」


「ヘーソウナンダー」


「なんでみんな棒読みなのよ!?」


あ、この世界でも棒読みって言うんだ。という感想を持ちながらも、言葉を返す。多分ギルドにも言われたんだな。


「いや、言っちゃ悪いけど、君さ。……戦闘出来ないでしょ」


「それもギルドの人に言われたわよ!?」


と、少女は涙目になりながらもツッコミを入れてくる。すごいな、なんというか、表情が分かりやすい。

 ともあれこの少女は、試験に落ちるどころか、試験すらも受けさせてもらっていないらしい。ギルドに言われたんならもう諦めようよ。普通ギルドはこんな態度しないよ?

外見が若過ぎるからとか、もっと将来について考えたほうがいいとか思ったんだろうな。


「なんでギルドに入りたいんだ?」


 そう聞いてみた。当然だ。女性で、子供で、(多分)いろんな人とも話せるだけのコミュニケーション能力を持っていて、別にほかの仕事を探しても良いはずだ。まぁ、頭の良さは分からないが。


「なんとなく……。」


「帰れ」


「待って!?もう少し話を聞いてよ!」


 少女に背を向けて歩き去ろうとしたら、袖を捕まれて引き止められる。面倒くさいな、こいつ。


「私、ヒーローに憧れているの!私はその人と結婚したいのよ!」


ざわっ!


「待て、お前らはロリコンなのかっ!?」


咄嗟に少女を庇いながら周りに突っ込む。周りのみんなが一斉に少女を見ているのがわかる。……ついでに犯罪臭もしてる。怖いです。お前らはその時点でヒーローじゃないから。


「というか、結婚って……メルヘン過ぎだろ」


思わず笑ってしまう。この子はディ〇ニー映画を初めて見た少女みたいだ。もしかして、永遠に結ばれるとでも思っているのか?


「悪いが、それはやめておいた方がいいぞ。後で後悔する羽目になる」


「なんでよ?」


真剣な眼差しで問いただしてくる。まあこちらもふざけて言った訳では無い。というか、夢を見させるのならばそのままで良い。が、しかしここまで本気ならば止めなければならない。


「いいか、まず結婚したと言う前提があるとする」


「ぜ……ぜん、テイ…………。」


 そう言って首を傾げる。あ、だめだ。前提という言葉を理解していない。子供に難しい言葉は禁物と言うことだろうか。最近の子は勉学が足りんのぅ。(←最近の子)


「あ~、とにかく、結婚できたとしてだな(前提)。問題はここからなんだが、」


 と言っていると少女はこちらにふんふん言いながら熱心に聴いてくる。


「その人が冒険に出かけた時に、滅茶苦茶強い敵が現れたら、もしかしたら死んでしまうかもしれないだろ?」


そう言うと、少女は頬を膨らませて眉を吊り上げてこちらを見る。


「そ、そんら……っ!そんな事ないもん!」


……噛んだ。今噛んではいけないところで噛んだな。


「だけどさ、万が一って事もあるだろ?そういうのを考えてだな、将来のことを考えたりして行動しなきゃならないんだぞ」


「ううぅぅぅっ!うぇぇぇぇんっっ!!」


そう言うと少女は泣き出してしまった。あ、忘れてたわ。俺ボッチコミュ障だったわー。この場合の対処方法なんて知らないからどうしようか。………あ、今殺気を感じたなーこれだからロリコンは全くダメ人げ――――――


「ヘビースノーストームッ!」

「エクスプローションッ!!」

「フレイムドラゴンッ!!!」


突如、視界内に吹雪と、爆発と、炎龍が現れる。

ドォォォオオオンッッ!!という音が聞こえる、がしかし、その瞬間何も聞こえなくなる。どうやら鼓膜が破けたのかもしれない。腹の辺りに爆発魔法を食らう。風圧で吹っ飛ばされる。

すげぇこれが魔法かーとか異世界っぽいなーとか思う訳が無い。何故ならそれらが狙っているのは紛れもなく自分だからだ。

……何故だろう。異世界っぽいイベントが多いのに、いつも怪我をするのは。


「待て待て待て待て待てーっ!!」


と、静止を促す。しかし、


「「「うるせぇ!天誅ゥゥゥゥ!!」」」


……どうやら聞き分けのないロリコンらしい。吐血しているから聞こえなかったのだろうか。いや、もしかしたら自分が今言った言葉通りを言えていないのかもしれない。鼓膜が破けると声って聞こえないんだな。

少しでも穏健派だと思っていた自分が恨めしい。というか、理不尽である。

それらの魔法を避ける術はない。たとえ魔法が使えても受け切る自信すらない。ああ、神様。どうやら不幸とはいつでも起こり得るようです。

生き長らえる術がない以上、どうしようもないので諦めようとした時、少女が叫んだ。


「や、やめてくださぁぁぁああいッ!」


――――――瞬間、魔法が姿を消した。なるほど、強制停止は出来るっと。そう思いながら立ち上がる。足は怪我をしていないようだ。運が良いとは言えるが、やはり運が悪いと言えよう。

周りがガヤガヤと騒ぎ立てる中(殆どが常識人だったのか、魔法を撃った人達に怒鳴っている。よかった)少女がこちらに向いて怒った顔をして言う。


「じゃ、じゃあどうすればいいのよっ!」


今度こそ音が聞き取れた。どうやら鼓膜が破けてはいなかったらしい。普通なら破けてもおかしくないのにな。

質問には答えを示さねばならないと思い、答えた。


「そんな無理のある夢を見るのを諦めろよって言ってるだけだからな?」


そう言うと、落ち込んでしまった。顔を俯き、表情が見えなくなる。恐らく、先程と同じ顔を見せるとまた魔法が撃たれると思ってるからだろうか。優しいなぁ。でももう腹に魔法食らったから早く病院にリターンしたいんだよな……。


「……ないじゃない。」


と思っていたら、小さな声でぶつぶつと何かを言い出した。だが、声が小さ過ぎて何も聞こえない。


「すまないが、急いでいるから。じゃあな」


と真実を言って後にすることにした。ヤバイ、魔法を習うならまず治癒魔法と防御魔法だな。

 早速元来た道を戻って病院へリターンしようとした。だがすかさず足を止められる。


「ままま、待ってよっ!それでもその人が死ぬのかは分からないじゃない!」


 と少女は言った。何故だ、なぜ俺に対してこう関わってくるんだ。というか今は関わる関わらない以前に病院にいって治療を受けたい。もう何でもいいから、つば付けとけとか絆創膏ばんそうこう貼っとけとかなんてレベルじゃないから。もうお腹の辺りがこう、血塗れだから。トマトジュースとかそんなんじゃないから……っ!


「えっと、じゃあもうほら、後で話を聞こう!それでいいでしょ!?今は急いでいるんだから……!!」


「その用事ってそんなに大事なの?」


「ちょっと待て気づいてくれてるか!?腹の辺りに爆発食らったんだよ痛いんだよ病院いかなきゃなんだよ!?」


 今はまだ一般市民扱いなんだよ。こんな事でへばってちゃダメだろとか、こんな浅い傷で病院とかありえないとかそんなのどうでもいいんだよ。些細な傷でも傷は傷なんだから治したいんだよ!

 

「そんなの大したことないじゃない。ほら、治療魔法をかけるから」


そう言うと少女は、お腹の辺りに両手を出して詠唱を唱えて魔法をかけてくれた。


「ヒール!……どう?」


魔法をかけた瞬間、青白い光が発生して傷を治していく。すると、すっと痛みが消えていった。魔法ってチートじゃないのか。英語言ったら撃てるとか、外国人はみんな撃てるのではないだろうか。


「お、おう。ありがとな」


そう言うと少女は、えへんっと胸を反らして自慢げに笑う。そんな様子を見て、子どもだなぁ、と思う。

そう言えば、さっきまでの話でまだ聞いていなかった事があるな。


「なあ、今更だけど君、名前はなんて言うの?」


「私の名前は、リリィ=ハンデルスフェンよ。宜しくね」


リリィ=ハンデルスフェン。ふむ、いい名前だな。上の名前は相当長いのでそちらの方よりもリリィと読んだ方が短いしいいだろう。


「よし、リリィ。やる事がなくなった以上、俺はギルドの試験に合格しなければいけないんだ。魔法は有難かったが、すまない」


そう言ってすたすたと歩き去ろうとした時、またまた止められてしまった。


「だから待ってって言ってるでしょ!」


なんなんだよ、御礼をしなきゃなのか?と思っていたら、驚きの言葉を言われた。


「私のギルドへの加入方法は、あなたをギルドへ加入させることなのよ!」


……もう、ギルドって何がしたいんだよ。

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