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マジカルトマト裁判  作者: ぜーだい
トマトは魔物か食物か
4/4



 わたくしが街に戻ってから数日後。

 「トマトは魔物か食物か」を決める裁判が、再び始まりました。


「……それではこれより、第二回目の審理を始めたいと思います」


 裁判長の一声により審理が開始されるやいなや、真っ先に別の裁判官が発言します。


「しかし裁判長。規定により審理が開始されはしましたが、正直に言って『トマトが食物である』ことに疑いがあるとは思えません。どうでしょう。エイミー弁護人に反論がないのであれば、このままキャシー弁護人の勝利ということに――」

「異議あり!」


 法廷内にざわめきが生まれます。

 常になく自信と鋭さを持ったわたくしの声に、先の裁判官の言に同調していたらしき他の裁判官たちも驚いたようです。

 敗北を認める? とんでもありません。

 わたくしは既に勝利への鍵を手にしているのですから!


「ほう……ではエイミー弁護人には『トマトが食物である』ことに対して反論があるということですね? 実際に食べることができたにも関わらず」

「はい」


 ここからが正念場――

 わたくしはふう、と息を吐き、一旦呼吸を整えてから続けました。


「確かに私もルイーゼ商会の提供するトマト料理を口にしました。しかし、『食べられる』ことが必ずしも『食品である』ことを保証するわけではありません」

「と、言いますと?」


 頭に疑問符を浮かべる裁判長。

 それはそうでしょう。わたくしの言っていることは非常識ですから。

 ですけれど、今の世界は非常識が常識になりつつある世界……。


「食品衛生法第四条において定義される食品に、魔法薬を使用することにより可食としたものは含まれません」

「なんと!」


 再びざわつく法廷内。それだけわたくしの発言が衝撃だったのでしょう。

 魔法薬などという貴重なものを、料理に使うという発想はなかなかできるものではありません。事実、わたくしも初めはそうでした。

 魔法薬を使うということは、料理の値段が魔法薬以上になるということ。「とんでもなく美味しい」と言った付加価値でもなければ、採算がとれるはずもありません。その事実が無意識の内に発想を邪魔していたのです。

 しかしルイーゼ商会の目的が魔法薬の密造にあるとすれば、むしろ料理が売れない方が儲かるのです。余った素材がその高価な魔法薬に変貌するのですから。

 わたくしはもっと早く気づくべきでした。


「つまりエイミー弁護人は、第一回目の審理で提供された料理には魔法薬が使用されていたと言うのですね?」

「その通りです」

「証拠はあるのかね?」


 別の裁判官から質問されます。

 ――当然その質問は来ますわね。


「ありません。魔法薬の効果が成分により決定されるわけではない以上、例え今ここに先の料理が存在していた所で証明もできないでしょう」

「何だって! 君は証拠もないのに否定する気かね!!」


 驚きではなく怒りで法廷内がざわめき始めると、裁判長が木槌(ガベル)を叩いて静めました。


「静粛に! まだエイミー弁護人の答弁は終わってはいません。……どうぞ、続けて下さい」

「魔法薬の使用を証明することはできませんが、それは構わないのです。問題はトマトが食品であるかどうか……。キャシー弁護人は前回の審理において『トマトに認識されずにその実を落とすことができれば食べることができる』とおっしゃいましたが、少なくともそれが間違いであることは証明できます!」


 わたくしが実際に魔法薬を口にした後、わたくしたちはそのまま当初の予定通りトマトの生息地へと歩を進めました。

 そしてジェニファーの魔法によりたやすく「トマトに認識されずにその実を落とす」と、確かに強酸はなくなるものの、それだけではその実を食べると身体に異常をきたすことを確かめました。連行していた男性にご協力いただいて。もちろんその後魔法薬を使いましたが。


「なるほど……確かに『トマトに認識されずにその実を落とす』だけで本当に食べることができるのかどうか、それは調査可能ですね」

「発言よろしいでしょうか」


 それまで沈黙を貫いていたキャシーが、ついに動きました。

 自信はありますが……キャシーは一体何を言うのでしょう……。


「どうぞ、キャシー弁護人」

「はい。エイミー弁護人は、ルイーゼ商会の提供したトマト料理に魔法薬が使用された可能性について言及されましたが……それは私も考えました」


 えっ。


「そして調査の結果、ルイーゼ商会が公的に魔法薬を使用した可能性はないと言っていいでしょう」


 ええええ!?


「魔法薬の生産及び販売には国の許可が必要です。私は国の認可を受けた魔法薬の生産所の全てを調査しましたが、その全てにおいて、ルイーゼ商会に魔法薬を販売した記録はありませんでした。それはこちらの資料にまとめてあります」


 つまり……どういうことですの?


「……ふむ。つまり両者の発言をまとめると、まずは『トマトに認識されずにその実を落とす』だけで可食となるのか調査が必要でしょう。可食となれば『トマトは食品』ということになります。ならなければ、今度は『魔法薬の使用以外の方法で可食となるのか』調査する必要があるでしょう。可食となれば、ルイーゼ商会は単にその方法を企業秘密にしておきたかった。ならなければ――」


 ……あ。

 ルイーゼ商会による魔法薬の違法な取引、もしくは違法な生産の証拠となる――


「……審理は一旦中止とし、徹底的な調査を行って結果を得た後に再開とします」




エピローグ


 勝利も勝利、大勝利ですわ!!

 キャシーの発言を聞いた時、初めはどうなるかと思いましたが……。結局、国の調査の結果、魔法薬を使用しなければトマトは食べられないと断定。

 したがって裁判の結果はわたくしの勝利!

 それだけではなく、長年尻尾を掴ませることの無かったルイーゼ商会に、ついに操作のメスが!

 現在進行中で次々と別件の悪事も明るみになっていますわ!

 わたくしの評価はうなぎのぼり!


「ありがとうジェニファー! あなたのおかげですわ!」


 わたくしは恩人であるジェニファーを高級レストランを貸し切りにしてご招待しました。


「へえ。流石は上流階級御用達。普段から良い物食べてるんだな」

「いえ……流石に普段は食べられませんわ」


 国から特別給が出たおかげで……。

 ジェニファーには約束の報酬の倍支払いましたが、それでもまだまだ残っています。


「普段は何を?」

「パン(の一部)を……」

「お嬢様でもパン食べるんだな。でも良いやつじゃないと『パンはパンでもこのパンは出来そこないだ、食べられないよ』とか言うんだろ?」


 ジェニファーさんの中で「お嬢様」ってどうなってるんでしょう……。


「いや、しかしエイミーには悪いことしたな。ついつい意地悪してしまった。エイミーと私はキャシーを間に挟むライバルだから」

「ええっ!? ジェニファーさんも弁護士でしたの!?」

「そういう意味じゃない」

「?」

「……まあいい。それにしても、トマト料理を街中で食べられなくなったのは淋しいな。悪いやつらが捕まるのは嬉しいが」

「? 確かにトマト料理は美味しかったですし、魔法薬を使えば現地で食べることもできるでしょうが……」

「…………本当は言うなって言われてるんだが……教えてあげよう。周りに誰もいないしな。トマトの実は認識されずに落とした後、ドクヌギの樹液に一晩浸せば食べられるようになるんだ」

「――――え?」

「私たちの暮らした辺境は貧しい土地で実りも少なくてな。トマトはたくさんいたから、どうにかして食べる方法を長い時間かけて見つけたんだ」


 つまり、本当はトマトは食物――

 そして、ジェニファーとキャシーとは同郷――

 結局、私は勝利どころか、キャシーの手のひらの上で踊っていただけ――


「どうする?」

「……どうする、とは?」

「エイミーは弁護士として、どうしたい?」


 弁護士として……。

 弁護士なら、その持てる力の全てを使って、依頼主の弁護に臨まなければならない。例え自分の思想や主義に反するとしても。

 それが法。それが正義。

 法に携わる仕事をする弁護士が法を守らなければ、一体誰が守る?

 するべきは、決まっている。

 立ち上がる。

 立ち上がって――そのまま固まる。

 ――私が再び腰を下ろした時には、せっかくの高級料理の数々はすっかり熱を失っていた。


「……わたくしは何も聞いてませんわ。そしてジェニファーも何も知らない。それでいいですわよね?」


 ジェニファーはにっこりと笑い、右手の人差し指と親指で丸をつくるオーケーの形にして言いました。


「こちらがコイン投入口になります」


 ……こうして、わたくしが初めて得た特別給は、綺麗さっぱりなくなったのでした。





おしまい

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