【キーワードに何を書く?】 ジャンル・キーワード・あらすじの関係性に思うこと
早くも2016年も四半期を過ぎました。今年の「小説家になろう」では「ジャンル再編成」という大きなイベントがあります。
半月ほど前に第二弾のお知らせがありましたが、「なろう」での【ジャンル】と【キーワード】については、個人的に若干の戸惑いと悩みをもっています。
主として 「ジャンルを一つに決められない」
「キーワードとして何を書こうか」
「あらすじに何を書こうか」 という点です。
別にジャンル再編の方向性などに関するものではないのですが、過去に読み手として様々な小説を検索し、今年からは新参者なりに作品を投稿した経験から感じることを、少し綴ってみました。
【ジャンル】(genre)とは『芸術作品を類型的にまとめた作品群』であり、一般に『文学・芸術作品を、その形式、内容に応じて行った分類』を指します。
文学・芸術論などにおいては、この【ジャンル】と同一視されがちであるが区別すべき概念として、他に【様式】(style)があります。
『世界大百科事典』の記述を引用して説明しますと、
【ジャンル】は『客観的に類型的統一をつくる作品群を語る概念』、
【様式】は『一作品にみられる個性的相貌の類型的性格を語る概念』、 となります。
ジャンルは本来実体的な性質を持ちますし、様式の方は「表現形式」や「文体」と置き換えてもいいでしょうか。
(閑話:いわゆる「テンプレ」は「様式」の方ですよね? 多分。
これを【ジャンル】とするのには、個人的にちょっと違和感があります。
ただ、実際には「テンプレ小説」は、様式のみならず主題的な観点も含んでいます。
そういう意味では確かに【ジャンル】でもあるなぁ……と)
「小説家になろう」に投稿される数多くの作品においては、ジャンルと様式、それぞれに特異的なものがありますが、これが現在のシステムなどにおいては上手く反映されておらず、また同一化されてしまっている気がします。また【キーワード】が十二分には活用されていないと感じるのです。
今回のジャンル再編においては、大ジャンルと小ジャンルの区分わけが行われ、【ジャンル】が細分されました。
そして【公式キーワード】【おすすめキーワード】が導入されます。
これらの意図するところを、自分は「検索機能の向上」として前向きに受け止めています。今回の変更は、「探しやすくする」ことに特化していると感じています。
情報検索においては、現在までに様々なアイディアが組み入れられ、利便性を増してきました。その中でも伝統的であるが高効率のものが【統制語彙】の導入です。
【統制語彙】(controlled vocabulary)は、古くは図書館、近年ではデータベース検索において幅広く活用されているものです。分野によっては「ディスクリプタ」とも呼ばれます。
辞書的な定義でいうならば、
『探す手がかりとして付加する言葉の「表現形(書き方)」「意味する範囲」「使用できる条件」などを規定することで、探す手がかりを統一し、探し漏れ(検索漏れ)や探し間違い(検索ノイズ)を減らすための工夫』 となります。
運営側からのお知らせにもありましたように、公式キーワードやおすすめキーワードは検索性の向上を目指したもの以外のなにものでもありません。
同じ「文字列」でその作品の特徴を表現することで、間違いなく探せるようにする。これは本当にありがたい機能です。
そんな中で運営側から示された「FAQ」の中にあった一文が、ちょっとだけ気になりました。いい方向で。
ですが、きちんと取り入れられるのかなぁ?という不安もあります。
それは『複数ジャンルに分散される可能性があるものについては、キーワードでの取り扱いを推奨する』というものです。
例示では、今は【ジャンル】扱いとなっている「戦記」「学園」が【キーワード】での表現に変更されています。
(閑話:この対応、とあるデータベースのシステムをご存じの方には、何となく既視感があるのではないでしょうか。私はMeSHにおけるQualifiersの考え方、そのものだと思いました。)
この、【ジャンル】と【キーワード】の組み合わせによる作品紹介。
上手く機能すれば本当に作品を探しやすくなりますし、自作品の特徴を余すところなく伝えられると思います。
ただ、この機能を、本当の意味で機能させるためには、運営側も、作者側も、そして読者(検索者)の側も、それなりに手をかける必要があります。
まず運営側。
これは一にも二にも「キーワードの語彙統制を、いかに的確に、誤りなく、また普遍的に行うか」につきます。
語彙統制は簡単な作業ではありません。はっきりいって、誰もやりたくないはず。
日々変化し栄枯盛衰する言葉を、誰もが納得する形で、無理矢理に一つの言葉に統一するのですから、もともと無茶な作業です。それを強制的にやり遂げるだけの権限と、人々を納得させるだけの作業結果が必要です。
今回【公式キーワード】として示された言葉の表現形(書き方)や意味範囲などにも、すでに不満や疑念を持たれている方はいらっしゃるでしょう。今後、これらのキーワードをより増やしたり変更してゆくためには、広範で膨大な知識と語彙能力が求められることになります。言ってみれば、新しい辞書を作る作業なのですから。
そして作者側。
今自分が抱えている問題もそうですが、「自作品の【キーワード】に何を書くか?」は、自分の作品主題を示す上でも、また数多くの人の目に触れる機会を増やすためにも、本当に大切で悩ましい問題ですよね。
【公式キーワード】を始めとする統制語キーワードを活用する場合は、当然そのキーワードを付与する必要があります。その上で、不足する部分を補う【自由語のキーワード】を追加するわけです。
統制語キーワード(予め意味範囲や書き方が決められたキーワード)がきちんと決まっていればいるほど、この【自由語のキーワード】の付け方には工夫と配慮が必要です。
現在、お知らせなどで案として提示されているものを一つ例にとってみましょう。
・【ジャンル】を「恋愛―現実世界」にしました。
・【公式キーワード】である「学園」を付与しました。
・その上で【おすすめキーワード】にある「スクールラブ」を付与しました。
・さらに自分で「高校生の恋愛」というキーワードを付与しました。
この設定(ジャンルと3つのキーワード)、あなたはどこまで必要だと思いますか?
この問に「正解」はありません。人によって必要性は異なるはずです。
例えば「恋愛―現実世界」のジャンルと「学園」のキーワードだけでも十分意味は通じるかも知れません。でも「学園」の種類は分かりませんし、「恋愛」が誰を対象としたものなのかも分かりません。よって、自由に付けた「高校生の恋愛」は重要な要素です。
では「スクールラブ」と「高校生の恋愛」は両方必要でしょうか?
今後は必要になるはずだと思います。少なくとも「公式/おすすめキーワード」が普遍的なものになるまでは。(でも多分ならない)
「高校生の恋愛」だけで「スクールラブ」は不要、と感じられる人も多いとは思いますが、その場合、せっかく運営側が工夫してくれた「統一表現による検索漏れを減らす」という機能が活かされなくなります。
つまり、新しい方針である「キーワードの統制語表現」を、作者側がサポートしていかないと、せっかくの運営側の努力を無にしてしまいかねないということです。
これを突き詰めてゆくと、キーワードとして付与すべきものが増えます。
これって、作者側からすると面倒。同じ事なのに、キーワードが二つも三つにも別れてしまいかねないのです。
(だから、図書館や専門的なデータベースでは、自由な言葉でのキーワード付与を行っていません。逆に、そうさせないための統制語です)
よって、作者側の動きと連動しますが、読者側にも求められること。
探す時に「あらかじめ決められたキーワード」で探し、内容を判断すること、です。
先に挙げたような作者側の工夫、つまり作品の特徴を説明するために、あえて似たような別のキーワードも付けてみる、という対応は、探す側への配慮でもあります。
ということは、探す側がそれを必要としなければ、要らないわけです。
先の例でいうならば、 『高校生に拘っていたとしても、学生の恋愛についての作品は全て「スクールラブ」で探すよ!』 という読者側の行動があれば、作者はキーワードに「高校生の恋愛」を付ける必要がなくなります。
じゃあ、自分のこだわりはどこで示せばいいの?? ということになります。
これは作者側も読者側も同じ事ですね。
そこで意味を増してくるのが「あらすじ」(抄録・要旨)だと思います。
「あらすじ」は作品内容を説明する文章です。文章ですから、完全に自由な表現、これこそ「自由語」での表現です。
「なろう」および「読もう!」の検索システムは色々と工夫され便利ではありますが、余り活用されていない気がするのが「キーワードの出現位置を特定する」という機能。
「小説を読もう!」の方の「詳細検索」では、探すキーワードが「作品名」「あらすじ」「キーワード」「作者名」のいずれにでてくるのかを選択して探すことができます。(いわゆるフィールド指定検索機能)
ですが、選択しなければ、普段の検索はいわゆる全文検索。皆さんがウェブの検索(要はググること)で慣れている、どこかに入力した言葉が入っていればOKというやり方です。
「なろう/読もう!」での検索においても、キーワードが、小説情報のどこに書かれていれば、まとめて検索され結果として表示されます。
この出現位置の指定機能が基本設定(デフォルト機能)ではないならば、【キーワード】欄に書くことと、【あらすじ】欄に書くことを、完全に切り分けるだけで大丈夫ですよね。つまりキーワードには指定された「皆と同じ表現(文字列)」を書き、あらすじでその補足や言い換えとなる「自由な表現(文字列)」を書けば良いのです。
そもそも現在のコンピュータ検索は「文字列一致」機能が大原則。
基本的に検索は「文字」単位であり、その順序と表記(文字コード)が一緒なら、「(言葉としての)意味」の違いなんて意図してくれません。
たとえば(陶器などの)「タイル」を検索しようと思って「タイル」と入力すると、「スタイル」「アルタイル(星の名前)」だって検索してきます。
だったら【あらすじ】に必要な文字さえあれば、【キーワード】には要らない、ということになります。
(閑話:なお一部の検索サービスでは「ワード検索(単語単位検索)」機能があります。
これは、語彙の単語としての区切りをきちんと把握して検索してくれる機能。
またトランケーション機能(前方一致:~で始まる言葉/後方一致:~で終わる言葉)などと組み合わせることで、必要なものだけを検索できます。
「読もう!」の検索でも、トランケーションができればいいのですが……)
【キーワード】欄に書くべきことが、ある程度統制された語彙表現になるのであれば、必然的に【あらすじ】の書き方も変わってゆくでしょう。
【ジャンル】と適切に組み合わされた【キーワード】による主題と様式の説明があれば、求める小説に出会う機会はきっと増えてゆくと思います。
特に【公式/おすすめキーワード】が予め設定されるということは、作者にとっても自作品を人々の目に届けやすくする可能性を持っています。何故なら、そのキーワードで検索してくれた人のもとには、必ず検索結果として届くのですから。
(そして、その検索結果に埋もれない為の工夫が、【あらすじ】や【自由語のキーワード】として必要になるわけですが)
【公式/おすすめキーワード】の大幅な充実と、作者と読者の活用によって、さらに探しやすくなるシステムができあがってくるのではないかと、個人的に期待しています。
とはいえ。
【キーワード】に何を書くか。これは一つの個性でもあります。
作品の個性でもあり、作者としての個性でもある、大切な「自己主張」を否定したくはありません。
ここまで書いたことは、基本的に情報検索の効率性を重視した観点によるものなのですが、作者としての立場で考えると、あまりコントロールはされたくないな~とは思いますね。
悩みつきない難しい問題です。
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この文を書いてから自作品のあらすじとキーワードを振り返って、見事にブーメランを受けました……。
カタロガー&サーチャー観点で書いていますので「文学・芸術作品」への対応は苦手です、と言い訳させていただけると幸いです?
でも本当に、「なろう&読もう!」の検索機能は結構いい方だと思っているので、ぜひとも索引者が充実すると、さらに良くなると思うのです。
なお作者はサーチャーは1級二次落ち、RDA&FRBRに悩まされているへっぽこですので、どうやったらいいのか分かりません(苦笑)