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Dive in Cipher World   作者: 無様
1/2

Ep:0 prologue

息抜きで書き始めた作品です、比較的気楽で、短い作品になると思います。

 幼い頃、枕元で聞かされた絵本の世界に憧れてた。


  子どもの頃、クラスで流行りのアニメの世界に自身を投影させた。


   思春期の頃、無限で夢幻な将来に想いを馳せた。


 そして今、幻想は色褪せて、夢見た将来が少しの不安な私に、不意に訪れたワンダーランドは。


とても、刺激的で、魅力的で、少しだけ、怖くて。


 そして、静かな世界だったんだ。



―Dive in Cipher World―



 2XXX年、連休明けの5月某日、日本のK府某所にある私立黒羽大学。

私、朝霧(あさぎり)雨夜(うや)は、そこの文学部現代文学科に通う2回生だ。

成績は平均よりは上、ルックスとスタイルは優秀だと自負してる。

就職活動という目先の暗雲はあるけれど、今は大学生活を満喫中よ。


 その日は、午後からの講義の小レポートに手間取って、校舎5階にある先生の部屋にそれを提出し終えた時には、右手首のアナログ時計は18時過ぎを指していた。

夕焼けで橙に染まる廊下は、中々風情があるよね。


 それが嬉しかったのか、あるいは一人だったからかは分からないけど、私はエレベーターではなく階段で降りようと思ったの。

…体重を気にしてる訳じゃないわよ、多分。


 硝子張り、夕焼け色の階段踊り場で、私は風の音を聴いた、気がした。

それは上の階から、上の階と言ってもこの上は屋上しかないし、覗いても案の定、暗い扉が閉じられているだけだった。

 

 でも、どうしてだろう、その時の私は気紛れに、ドアノブを握っていた、好奇心は大事。

重めの扉はだけれど、普通に開けることが出来た。

この校舎、我ら現代文学科の学舎(まなびや)である清廉館の扉は全て電子ロックで、屋上のここは自動ロックの筈だ。

だから、こうして普通に開く状態にするには一工夫要るのだけど、外から吹き込んで来る風に興奮した私は、そんな事考えずに、ただ、覗き込んだ。



 第一印象は、汚い。

中学の頃一度、日光の実験か何かで屋上に行った機会があったけれど、その時と同じ位には。

大学の校舎は中学のそれよりもずっと綺麗だから、もうちょっと綺麗なのを期待した。

一応、コンクリートは剥き出しじゃなくて

けれど、物珍しいのは確かだから、私は外に出た。

自然に閉まる扉は、閉じたと同時にロックされる音が鳴った。

それよりも、私の目が奪われたのは。


 人。


 夕焼けを背に、こっちを見ていた、人。

黒いブレザーと黒いスカート、まるで一昔前の制服のような身形、痩せ細った体型。

影で表情ははっきり分からないけど、無表情で、見ていて何処か不安になるような、顔。


 そして、彼女は私に背を向けて。


 一歩、塀に足を掛けた。


「!」


 私は、直様(すぐさま)走った、本能、直感、それに準ずるものに突き動かされて。

何よりも先に、ただ、止めなきゃって。

彼女は両足を塀に乗り出して、某沈没船を題材にした映画みたいに手を広げて、身体を倒した。

何も、ない方に。


「――――――っ!!」


 幸いにも、私は女性てしては運動が出来る方だった。

熱心ではないけれど、陸上部の面目躍如である。

その瞬間、私の足は塀に到達し、左手は彼女の肩に手が届き、右手は服を掴み、無我夢中で引き寄せて、向きを翻して、全身の力を使って屋上側へ突き飛ばした。

所謂火事場の何とやらなこの行動は成功して、彼女は小さな悲鳴と屋上に尻餅をついたのだけど。


 勢い余って、私が空中に放り出されてしまった。


 ああ、終わった、頭の中が真っ白になって、真っ白なまま走馬灯が駆け巡る。

ごめんなさい父さん母さん、皆…

後悔と、彼女の無事が見えた達成感がぐるぐる回る不思議な感覚を覚えながら、私は落ちた。

綺麗な筈の夕焼けは、私の死を告げる黄昏の世界に変わった。


 校舎の、窓硝子越しのブラインドが見えた頃、それは起こった。

私は、不意な浮遊感に襲われた、包まれた。


「………………」


「………?」


 目を、閉じて、そして開いたのだと思う。

この瞬間の記憶は、凄く曖昧だったけれど。

身体に触れる感触と、空に浮く私の姿勢は。


 誰かに、何かに、所謂、その。

お姫様抱っこされている状態だった。


「 ? ? 」


 さっきまでの黄昏の世界は、まるで朝靄のミルク色の世界に様変わりしていて。

私も、夢見心地のような穏やかな微睡みに包まれていた。

私を抱く手は誰のものだろうと、上を仰いでも、見えたのは曖昧な人の形が浮かぶ、白く輝く霧のような何か。

神々しいと言うのは、多分こういう事なんだと思う。

手は、私よりも細いように感じたけれど、とても安心出来る、力強い手だった。


 少なくてもその間、下から聴こえる学生の悲鳴が、遥か遠い雑踏になる程度には。

私はこの景色に、感覚に、夢中になっていたんだ。


 私を抱く何かは、顔らしき輪郭を少し歪ませた。

それは、優しく微笑んでいるようで。

私に、母さんを想起させた。


 お姫様抱っこされたまま、ゆっくりと私は引き上げられて、やがて屋上の緑色に降ろされた。

私が両足で立てるよう、丁寧に。


「 ? ? 」


 私が両足で立った瞬間、或いは私を助けてくれた何かが私から離れた瞬間。

朝霧の夢は、夕焼けの現実に戻った。


 後にはただ、尻餅をついたまま唖然とする彼女と。


 同じく唖然とした、私だけが残された。

 

 やがて、騒ぎを聞きつけた守衛さんや、先生がやってきて、私は彼女が身投げするのを止めようとした旨を話した。

彼女の口添えもあったので、私が屋上に無断侵入した件は有耶無耶にしてもらえた。


 後日、彼女…浅井皐月(あさいさつき)経緯(いきさつ)を先生に聞けば、所属していたサークルで酷い虐めにあっていたのだと言う。

悪そうな子じゃなかったし、心配だったけれど、これ以上首を突っ込んではいけないと釘を刺された。

まあ、学校側からしたら自殺未遂者が出る程の虐めがあったなんて秘匿したいだろうし。

悔しいけれど、詳しい事情を知らない私じゃ、出来る事もないだろう。



 そして、あの日の不思議な経験。

目撃者から話を聞いても、皆記憶が曖昧だった。

あの神々しい何かを見たと言う人は皆無で、私が落ちた事すら覚えてない人が大半。

僅かに覚えてる人も、大体は気の所為だって。

私は、皆の話に合わせながら、夢見心地でも確かな記憶を、ずっと引き摺っていた。

もしかしたら、それは幼い頃の記憶にありがちな、一度だけの幻の公園や玩具店と同じような、幻想だったのかもしれない。

けれど、あれを幻想のまま終わらせるのは、いずれ忘れ去ってしまうのは。


 とても、悲しい事のように思うんだ。






「それで、この子が候補か」

「お、随分可愛い子だ」

「うん、おもったよりしらべるのに時間かけちゃった」


「それはあんたがサボってて、見つけるのが遅れたからだろ?」

「のっとさぼり、らいと休憩。

 上司にそんなこといっていーのかな?」

「うるせー、引きこもりが」

「止めろ二人とも、子供みたいに。

 この子を保護すれば良いんだな」

「子供だもん」

「みっともねえ」

「否定もできないでしょ?」

「ぐぬぬ、屁理屈を」

「……………」


「ま、話をもどすよ。

 この子の経歴をしらべたのだけど、なかなか期待できそうなんだ、あたらしい人材として。

 なにより女の子だから、個人的にも仲よくなりたいの」

「なら、自分で迎えに行けば良いだろうが」

「嫌、ここからだと電車乗らなきゃいけないし、車も窮屈で嫌い」

「相変わらず我儘な餓鬼だなあ」

「仕方ないだろう、これも仕事だ」

「別に良いけどな、朝霧ちゃん可愛いし」

「君より年上だよー」

「…朝霧さん可愛いし」

「はぁ、口説きに行くんじゃないぞ」

「そうそう、大切なお客様なんだから、丁重におねがいね。

 もしかしたら、これからながいつきあいになるかもだし」

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