前編 過去時 第三話 団欒
後日昼過ぎ。あるアパートの一室というか僕ん家では、一種の取り調べのようなものが行われていた。
「………。」
「………。」
白髪の少女は既に目覚めていた。
そして、何故まだこの家に彼女がいらっしゃるかというと、昨日の一件からワケアリだという事は既に重々承知していたので、僕が家に居候させることにしたからである。
「………。」
「………。」
……そうそう、生活が少し厳しくなりそうなので新しいバイトとかさがさなけれゃいかんな。
感慨深そうに腕を組んでみる僕。十二時の方向からの視線が物凄く痛い。
美少女に睨まれている。あ、これはゴミを見る目だ……、
しかし、美少女か……。
まぁ、美少女が家に居候しに来たというのはドラ○もんが居候しにくるのとは月とすっぽんというより美少女と青狸ってくらいに大違いだ。『ドラ●もんが貴方の家にやって来る』みたいなイベントのために必死でハガキ書いてた小学生の頃の俺をぶん殴ってやりたい。
おっと、そろそろ彼女が場の空気に堪えられなくなってわなわな震えだしたからギャグパートに入ろうか。
僕と彼女はよく刑事ドラマで目にする白いデスクに対になって座っている。そのデスクには当然のようにライトスタンドと、カツ丼……は用意できなかったから牛丼をヨ○ノ屋でお持ち帰りしたものを置いている。容器は発泡スチロールなので、素朴な感じが満載だ。
まぁ、生活感満載の部屋が用意したもの全部を無駄にするくらいのアウェー感を産み出している。THEなんちゃって取調室って感じだ。
「……あのぅ。」
恐る恐ると言った感じで少女は尋ねる。
「これって何ですか?」
あからさまに牛丼を指差して尋ねる。
「………、」
さて……、どう答えたものか?……
十秒…二十秒と時間は流れ、空気は段々と重苦しさを醸し出し少女を深刻な顔にさせた。
僕はプレッシャーに耐えられず、
「雰囲気作り……かな?」
「えぇっ?!」
凄く疑うような目をされた。ちょっと傷つく。
だが、そこで引いてはいけない………!
ツッコミを待つんだ!待つんだ!ジ○ー!!
「君は『まず形から入る』という言葉を知らないのか?」
「知りませんよ、そんな言葉は……、え?………待って下さい!?なんでそこで驚くんですか?!」
慌てたように手をバタバタと振りだす少女。
えー?マジで知らないのか?
……まぁ、いいけどさ。これ以上ボケ倒すのは面倒だし、ここからはシリアスでいこうか。
「さて、冗談はここまでにして……、」
話を切り替えるために、この文章を言ったつもりだったが、少女は何か不服が残ったようだ。ジト目が半端無い。
「本当に冗談だったんですか?」
「冗談は冗談さ。そこの牛丼だって君の朝御飯なんだぞ?」
「本当ですか?」
それを聞いて少し明るくなった少女は僕の部屋の角にある食器棚から取り溜めしてある割り箸を一本取ってきて……って、何でもう僕ん家の台所事情を理解しちゃってんの君は……?
…………、
何はともあれ彼女は割り箸を手に取り、牛丼を口に運ぶ、そして、一口。
「もう、冷めきっています!!」
素晴らしい感想だなこのガキ。
つーか、可愛い顔して本性はこんなんだったんだな………!
可愛いから許すけどさ。
それよりも、
「無いよりマシじゃないかなァ……?」
「にゅっ?!」
彼女はビクンと背を震わせる。
こうやった方が分かりやすいか、な?
ふ、ふふふふ………
というか、僕。全然許してないなこれは。
「我慢、します…」
数秒間沈黙が続き、オドオドと蚊の鳴くようなこえで返事が返ってくる。
「我慢しますだとォーッ?!」
ドウシテ、ウエカラメセンナンドァー?!キサマハァーッ!!
もう、頭がおかしい。
数分後………
「牛丼、有り難うございましたぁッ!!」
最後に、ぷるぷると両手を握りしめながら礼をして彼女は叫ぶ。
「ほんじゃ、食べろ。」
「…はい。」
ガツガツとむしゃむしゃと箸を動かしていく。
むすっとした顔は止めないのな……
それを少し残念に思う。
僕のせいでもあるけど……。
「………そろそろか。」
そして、反れた話題を僕はもとに戻すことにした。
出会った頃からずっと思っていたこと。
「君は一体誰なんだ?」
彼女は箸を止める。その言葉を聞いた直後に。一秒もかからなかったかもしれない。
少しの間、そうしていると彼女は言葉をゆっくりと紡ぎ出した。
「私は……、……。別に、貴方の質問に答える義務はないですよ。」
「ムム……」
それも、そうか……。
いや、押してダメなら引いてみな。と、ことわざ(だったっけ?)では言ったと思う。
引いてみようか。
「じゃあ、教えなくてもいいよ。」
押して………引こうか。
「実をいっちゃあ、僕は君の事なんてこれっぽっちも知りたくはない。……一ミリもだ!!」
「ミリ単位になんの関係が……?」
「比喩だよ!!」
………まぁ、いいさ。
後はあちらの反応を待とう。
「…では、貴方には私の情報を一切教えないで良いのですね?」
「………うんうん。……………え?」
「どうもありがとうございます。」
かしこまられた。
「………あー。えーと。」
アカン。流されとる、流されとる。
やっぱり、聞き出す方が良かったのか……?
そう思って「やっぱり、今のはナシでお願いします」と言おうと口を開くと、
「………やっ」
「ついでに、これ以上聞き出そうとしたらセクハラで訴えますよ?」
「いきなり、反応が冷たくなったな!!」
……昨日と全然違う…
と、凹んでいると、彼女はニコッと笑って、
「冗談ですよ。名前くらいは教えます。貴方の事は少なからず信用していますからね。」
と言った。
「…ね」のトコだけすげぇ作り物っぽい笑顔なんですけど。目が笑ってないっていうか。若干ひきつり顔というか。普通に怖いわ。
あと、信用の幅狭いな。どこのダークヒーローだよ。
「だったら、名前は?」
しかし、名前を聞いておいて、損をするということはないだろう。
「そうですね。……カレン。それが私の名前です。」
「へぇ、そんな名前なのか。」
普通に可愛い名前じゃないの。
たしか、銃の名前だったと思う。実際の意味は結構可愛くない……
「じゃあ、よろしくなカレンちゃん。」
「ちゃんは不要です。」
怪訝な顔をされた。
「では、カレンさま。」
「何故ッ?!あと、その呼び方にはそこはかとなく悪意を感じます。」
僕のイメージではどっかのお姫様って感じなんだよね。だから、さま付けにしました。……後悔はしていない。
「冗談だよ、カレン。」
「そろそろ、私の中では狼少年になりますよ貴方……。」
「ごめんなさい。」
あはは…と笑いながら場は少しずつ和んでゆく。
ふと彼女の顔を眺めるとほんの少しだけれど、薄く微笑んでいる気がした。