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捗る妄想と増える仕事

 私が目を覚ますと、ベッドにグレンさんの姿は既になかった。

奥の方から水音が聞こえるので、おそらくシャワーでも浴びているのかもしれない。




 それにしても目が覚める間際に、ちょっと良い夢を見てしまった。

 なんとグレンさんが私を助けに来てくれる夢だったのだ。ギュッと抱きしめられた逞しい体がやけにリアリティーがあって、もう胸が今でもドキドキしている。

 まぁ、結果はデッドエンドだったけど、自分が死ぬ夢って縁起が良いって昔誰かに聞いた気がするし。




 それにしても昨日の事は思い返せばおかしい事ばかりだ。何で私は公園からの帰り道、グレンを連れていなかったんだろう? なぜか辺りにグレンの姿も見当たらなかったし。

 それで、私は私でグレンがいないのが普通みたいに思っていた。




 もしかして、グレンは帰ってしまったのだろうか。

 私のファンタジー的仮説が正しければ、グレンは元の世界に帰り私の記憶も無かった事になったと、そう言うパターンだろうか。

 なんだかそれは寂しい気がした。何も記憶まで消さなくてもいいのに。

 そう考えてから今の鷹状態な自分の立場を思い出して、グレンが帰りたくて帰ったのでも、消したくて私の記憶を消していったのでもないのかもしれないと思い直した。

 あ~あ、グレンも私のこと忘れちゃったかな。





 洗面所から出てきたグレンさんは珍しくなんだか疲れたような顔をしていた。

 こっちの世界の昨夜、私はいつのまにか眠ってしまって知らないが、グレンさんはおそらく夜遅くまで仕事をしていたのだろう。



 ぴょんぴょんしながら近付くと、グレンさんは「おう」と笑みを浮かべた。

 肩にタオルを掛けただけの上半身裸族スタイルは普段だったらきっと赤面もので直視できないが、今はポーカーフェイスの鷹顔なので後学のためにもしかと拝ませていただく。



 日本でこんな鍛えられた体を持つ人なんているのかな。

 う~ん ボディービルダーとか? やだ。なんか異常にナルシストそうで怖い。

 で、でもグレンさんだったら、ナルシストでも良いかも。鏡の前で己の筋肉に陶酔するグレンさんとか可愛い。



  『見ろよ、この筋肉!カッチカチやぞ!カッチカチやぞ! 』



 そこまで妄想して、慌てて首を振る。そんなグレンさん嫌だと思いつつも少し見てみたい気もする。じゃあそれならこっちのバージョンもみたい!



  『オイ、俺の筋肉!やるのかい?やらないのかい?どっちなんだい? やる~』



 某芸人のギャグをグレンさんがやっているところを想像するだけでニヤニヤが止まらない。しかし、いくら私の顔が緩んでいようと、ここは天下のポーカーフェイス鷹顔だ。グレンさんにバレる心配はないので安心だ。

 部屋の掃除をするグレンさんをピョコピョコ追いかけながら、私のバカな妄想は止まらなかった。




「んじゃ、朝飯でも食いに行くか? 」



 着替えを終えたグレンさんの肩に私は飛び乗り、「レッツゴー」とばかりに張り切った。肩乗りが上手くなった私を誉めるように、優しい手が首元を擽った。


 同じ日に現れた犬のグレンが居なくなったという事は、私がここにいられるのは今日がもう最後って事もあり得るだろうか。もしかしたらそんな規則性はあるのかどうかすらわからないけれど。

 私が居なくなったら、グレンさんもミレディ―の事を忘れてしまうのだろうか。




 もう空元気でも何でも良い。

こうなったら今日はグレンさんにペットの立場を利用して甘えまくってやる。




 しかし、その望みは叶わないことになった。




 出掛けようと建物を出たところで、うっかりグレンさんの部下につかまってしまったのだ。なんでも王様が呼んでいるとかで、まだ朝早いというのに城へ向かわなくてはいけなくなってしまったのだ。



「陛下はその鷹も一緒にと・・・・・・」


「コイツは今日、なんか具合が悪いみたいでな」



 グレンさんはそれをやんわりと却下した。

 え~?現時点で肩に乗っているのに? その言い訳厳しくないっすか?

っていうか、今日が最後かもしれないのに。今日こそ絶対一緒にいたいのに。  ショックだ~。




 しかし私は空気の読める良い鷹なので、グレンさんの意思に副わない事はなるべくしたくないのである。

 おとなしく、部屋で留守番をすることにした。

出て行きがけ、グレンさんは私に小さく声をかけた。



「おそらく、あの我が儘王子がお前のことを欲しいとでも言い出したのだろう。適当にすっ呆けて来るから、悪いな」



 もうグレン様、お子様な私に悪そうな顔でウィンクとか止めてください!!

動悸がマジ半端じゃないです。



 グレンさんが部屋を出て行ってしまうと、部屋は急に静まりかえった。

あ~あ、何して過ごそう。

グレンはいつも私のいない部屋で何をやっていたんだろう。

 あ~あ、私はグレンを忘れちゃうし、グレンさんも忘れちゃうんだろうな。

 私はヘコむ気持ちをどう浮上させようかと考え、突如良い事を思いつく。

 そして、それを早速行動に移した。







 完成したものを見て、私は一人呟いた。


これはどこのストーカー女の犯行だ。


 改めて見ると、それは大変重いシロモノだった。ドン引きするぐらい重い。

 しかし、もうここまでやってしまうと引き返しようがない。

せっかく良い案だと思ったのに、実際現物を見るとあまり良いとは言えなかった。



 しかし、まだ私がいるうちに発見されても気不味いからと、目立たない所を選んで良かった。もしかしたら、これに気が付かないかもしれない。

 こう言っちゃなんだけど、グレンさんってなんだか鈍感そうだし。




 そんな事をやって時間を過ごしているうちに、何か扉の外から人の気配のようなものをを感じる。

 なんだろう?息を潜めているような・・・・・・。

それはグレンさんのものではないことは分かる。


私は音を立てずに物陰に身を潜めた。



 やがて部屋中に不思議な香りが立ちこめて来る。

意識が段々と朦朧としてきて、必死で自分の羽根を嘴で引っ張った。

やや経って誰かが部屋に入ってくる音が聞こえた頃には、私はもう目を開けていることができなくなっていた。











 気が付くと、私は石造りの冷たい部屋で鳥籠に入れられていた。

 ほう、もしかしたらどこぞへでも攫われたのだろうか。

 相変わらずこちらの世界は刺激的だ。爆薬、毒殺に続いて誘拐とは。

しかし私は寝れば日本へ帰れる特殊能力を持っているのだ。

 グレンさんから身代金を取ろうったって無駄な話だ。



 しばらくして、重そうな石の扉から現れたのは懐かしの面子だった。

 イヤ、会えても全く嬉しくない陰気なローブの三人組である。



「やぁ、言葉は分かるのかな。魔術塔へようこそ」



 真ん中の男が言った。確か何とか卿とか言うサディスティックな年を取らない人形男だ。私はあえて無視を決め込んだ。



「なんだ、魔力は有っても所詮馬鹿な鳥頭か」



 しかし私はそんなチョロイ挑発には乗るような鳥頭ではないのである。

 すると、人形男のフードからチラリと覘く口が弧を描いた。しかし、そっちに気を取られていた私は反応に遅れてしまった。人形男の隣にいた男が苛ついて鳥籠を蹴りつけてきたのだ。籠は私を入れたまま石畳の上を、音を立てて転がった。


「ホワイエ卿が聞いているんだぞ!さっさとお答えしろ」


 鷹なのに答えられるか、この暴力男めっ。

 お前なんか、この前グレンさんが現れた時にめちゃくちゃビビっていた小者のくせに。

 しかし、その男を静かに制したのはホワイエだった。



「そんな事をしろと誰が言った? 」



 叱られた男は「すみませんでした」と素直に頭を下げた。ホワイエはふぅと息を付いて、もう一人の男に「読み上げろ」と命じる。



「鷹科リョウシタカ種。名前はミレディ―。昨日における爆破未遂事件、及び殿下を狙っての無差別毒殺未遂事件の功労者であり、天鷹騎士団 団長グレン・フェルトンの愛鷹。1ヶ月程前より飼われるようになる」



 よく調べたなと感心する一方で、そういえば部屋に残してきたシロモノの所為で自分の誘拐がストーカー女による犯行と考えられないか心配になる。



「お前がやった事は、到底普通の獣にできる事とは考えられない。そしてその魔力。私に協力してくれれば、昨日の事件の犯人の居所をフェルトンの奴にリークしよう。ふっ、私の所には色んな話が舞い込んでくるものでな」



 協力も何も、私は何もできない。魔力なんて知らないし使い方も分からない。

 でも、犯人の居所をリークって言うのは本当だろうか。

 私はホワイエのビー玉みたいな瞳を睨みつける。かつての稀代の魔術師、かつての英雄の目は一見空っぽのようで、その奥はギラギラと燃えていた。


 それに協力するにしても、いつまでここにいられるか分からない。どのみち夜には一度日本へ帰ることになるだろうし。ここへ来るも来ないも、私が選択して決める事は出来ないのだ。

 私が考え込んでいると



「考える時間をやろう」



 そう言い残して三人組は部屋を出ていった。




 蹴られた衝撃で堅い床と籠に打ち付けた所がズキズキと痛んだ。

 どうしよう、ちゃんと考えなくっちゃ。確かに昨日の犯人が捕まればグレンさんは助かるだろうけど、ホワイエの言う犯人は本物なのだろうか。





 しばらくしてまた現れたホワイエの部下に出した答えは是、コクリと首を縦に振った。


 この後私が消えたとしても今の時点では協力する気はあるのだ。

 もしもうここへ来れなくなったとしても不可抗力だ。


 鷹だからしゃべって説明出来ないだけなのだ。

 とりあえず、私はグレンさんのために動く。最悪こっちの世界で死んだとしても私にとっては夢の中の出来事だから。




 魔力か。あんまり本格的なファンタジー分野は詳しくないんだよね。

 フハハ。とりあえず今日、日本に帰ったら何かいい方法は無いかインターネット先生に『 魔術 覚醒 』とかでお尋ねしてみよう。










***************









 呼ばれた理由は主に王太子を救ったお礼だった。

 そして思った通り、王の隣に立つ王太子よりミレディーを譲って欲しいとの要望があった。しかし俺が拒否すると、陛下はそれに助け舟を出してくださり事なきを得る。思っていたよりあまり面倒な事にならずに済んで正直ほっとした。

 しかしそこで話が終わっていれば良かったのだが。






「それで来週隣国より訪問予定の賓客についてだが、一人お転婆娘が予定より早く入国してしまってな」



 陛下は困ったように苦笑いを浮かべた。そんな王の背後よりふわふわした綿菓子のような少女が顔を覗かせた。



「酷いわ~、叔父様。グレン、お久しぶりね」



 いくら血縁上の叔父であっても一国の王に対していささか馴れ馴れしく感じるのは、彼女が子供っぽい故か、それとも俺が狭量過ぎるのか。

 しかし、娘のいない陛下がこの少女にとことん甘い事を考えれば後者なのかもしれない。

 俺は作り笑顔で恭しく礼をした。



「ご機嫌麗しゅう、ナタリー嬢」



 ナタリー嬢は陛下の姉君アデリーヌ様が隣国の伯爵家へ降嫁されてお生まれになったご令嬢で、来週に母娘での訪問を予定していた。おそらくパートナーを探し始めたという事なのだろう。

 この見た感じ、千花より4、5歳ぐらい年上ではないだろうか。




  ”あなたは千花を愛してないの?”




 俺は少女愛趣味ではない。千花は今おそらく12,3歳ぐらいだろう。そんな子供に愛欲を向けるような歪んだ趣向はない。俺は心身ともに健康的なスケベである。



「ねぇ、聞いているの?グレン・フェルトン! 」



 すっかり飛んでいた思考をナタリー嬢の拗ねたような声に呼戻された。



「申し訳ございません」


「もう、相変わらず女性の扱いを知らないんだから! 」



 言わせてもらえば、女性ではなく子供の気まぐれに振り回されるのが嫌なだけだ。

 ぷんぷんと怒るナタリー嬢を陛下が取りなしてくださる。



「先刻そなたも聞いていたと思うが、グレンは色々と忙しい。今こうして会う機会を作ったことで満足してくれぬか」



「満足できませんわ。叔父様は以前お会いした時に約束してくださったでしょ? 次に叔父様の国へ遊びに行ったら、私の護衛はグレンにして下さるって 」



 なんと面倒な事を。ジトリと陛下を睨むと、バツが悪いように目を逸らされてしまった。



「私とて、殿方がお仕事で忙しい時に我が儘を言うほど子供ではありません。でもせっかく楽しみにしてきたレディーの願いを叶えるのも紳士の立派な役目ではないでしょうか?私はグレンのちょっと空いた時間にどこか案内をして頂きたいだけなのです」



 なぜそれを俺が。そう言いたい気持ちを喉の奥に飲み込んだ。

 今日の俺は寝不足の所為か、犯人が捕まらない所為か、やたらとイラついている自覚はある。このぐらいの事、いつもだったら大して何とも思わないような話だ。

 



「かしこまりました。では、時間が空いたらどこかへご案内いたしましょう」



 そう約束するとナタリー嬢はやっと納得したような顔をした。


「きっとですよ。グレンがデートをしてくれるまで、わたくし帰りませんからね」


 嬉々として手を振る令嬢と申し訳なさそうな陛下に見送られ退室し、俺は執務室へ向かった。



 近々に片づけなくてはいけない事案が多すぎる。

 部下たちが調べた聞き込み等の報告書に目を通し、爆薬の入手ルートや酒にいつ毒が仕込まれたのかの仮定をチャールズ達と詰め、部下では聞き難い貴族たちへの聞き込みと奔走した。







 結局、その日仕事を終えたのは夜遅くになってからであった。

 そこで自分の事はともかく、すっかりミレディーの餌の事を失念していた事に気が付く。

 急いで屋台で自分とミレディー分の食い物を買い、駆け足で兵舎へと戻っていった。


「すまない、ミレディ―」


 扉を開けると、真っ暗な部屋はひんやりと冷えていて、やけに風通りが良いことに気が付いた。明かりを灯して確認すると、部屋の窓が少し開いてミレディーの姿は部屋のどこにも見当たらなかった。




 開いている窓を更に大きく開き、愛鷹の名を呼んでみたが戻ってくるような気配もない。これは腹を空かせて、どこかに餌となるような物を探しに行ったのかもしれない。

 ミレディーは普通よりずっと賢い鷹だ。

 窓の鍵をクチバシで開けることぐらい可能な気がする。



 俺は買ってきた飯の半分を食べてから、窓を少し開けたままにして寝ることにした。いつミレディーが戻ってきても良いように。




 この時、俺は優先順位を間違ったのかもしれない。



 しかし俺はあの不確かな夢の世界、千花のいる世界にまた戻れるのか今日一日ずっと気がかりでしょうがなかったのだ。








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