6 冬
真冬に釣りをしているとアンセル・フィッシュ(※高価な観賞魚。見目は綺麗。平べったい。また、とてもじゃないが食用にはならない)がかかっていた。
逃がすかか売りとばすか悩んでいると別の釣り人が美味そうで太くまんまるな一匹を網にあげていた。
その釣り人に交換を申し出ると向こうは喜んだ。実直な男だったためにその釣り人は尋ねた。
「どうして交換なんてしようと思ったんだい。魚拓をとっている様子もないし、リリーサーでもない。売りとばしたらもうちょっとましな釣竿が買えるだろう?」
「金はいらないんだ」
釣り人は怪訝な顔をした。「ま、いいけどさ。せっかくだし可愛がって育てるよ。ありがとう」
「ああ、好きなだけ可愛がってやんな」
「娘が喜ぶよ。多分」
今日の釣果はこれで十分だといいたいのか釣り人は背を向けて行った。
釣り人がいなくなった後で、でっぷりとしたその魚は地べたに放り出された。そして長靴のはらでおもいきり踏み潰された。一時間後、跡かたがなくなると次にそれは海に蹴り飛ばされた。おそらくより小さな魚のえさとなるだろう、と笑った。
そして頭が冷静になると、釣り人に渡した魚をもったいなく思った。
その金があれば犬猫ぐらい買えたのに、と。
せめて穏やかで平和的に、ストレスと寒さを癒せるのに、とも。