3 長い一日
ようく星が見えるでしょう? 寒い日、冬はとくに空が高くなって澄み渡るのですよ。
私は子どもたちに呟いた。聞こえていないものに喋りかけるのも癖だっただろうか。
一しきり遊び回ると疲れて草っぱらに寝転がり、「きれー」と口々に言う彼らはもうずいぶんと成長していた。今では私に正しい質問を浴びせるほどに頭脳も心も伸び広がっていた。
「次はどこに行きましょうか」
そう聞くと子どもたちは仲良く相談して「海」と答えた。
「どうして?」
「星にさわりたいから! 空が青いのは海の光が映っているから、そうだよね?」
そんでもってみんなにプレゼントすんだ、とも。
・・・・・・私は、久しぶりに答えに詰まりました。こんなことはずいぶんと懐かしい感じでした。
「ええ、そうですよ。……さあもう体が冷えてしまいますよ。戻りましょう?」
子どもたちは聞き分けよく、次の予定を楽しそうに宿舎にぞろ歩いて行きました。私もそれについていきます。
けれど、私は心の中で喋り続けます。
『ええ、そうですよ。あなたたちは星が高い空の上にあることを知っているし、それが海の底にも、そこらの草葉のかげにも、私たちの中にもあることを教えられてきました。長い夢を見ているのです。きっと夢から醒める日が来たのでしょう。誰にもで起こるような儚い卒業を、この手であなたたちに味あわせなければいけないのです。私や、あなたたちが誰一人として一緒にいられない日のために免疫を塗りつけてしまわないと……』
頭をふって考えを飛ばします。それよりも海の中に星を散らばめる方法を考えなければ。
「楽しい日になりそうですね」
子どもたちは振り返って「うん」と声を合わせました。
ああ、この顔を曇らせるのは嫌だ。それが自己満足であろうとも。
せめて別れる日まで、私らしく。