少女の祈り
時が過ぎるのはどうしてこうも早いのかしら。
もう私たちの学年が最上級生だ。いつの間にか私の実力は学年一位になって主席になっていた。
そうそう、私たちの村出身のダン兄ちゃんだけどトーマスが出て行った1年後にサクっと学院を卒業したわ。
けど私やトーマスと違って全然実力がないからって寂しそうに村に帰って行った。
だけどその一年後よ!
街の商人たちが隣のエトア共和国の政治が上手く行っていないと噂していたのを前から聞いていたわ。
王様が病気で政治が回っていないのだと。
だったら代わりの人が早く王様になればいいのにエトア共和国の法律ではそれができないみたい。
王様が病気になった際の継承の仕方なんて不謹慎極まりないって言う理由で議論にも上がらなかったらしい。
隣の国の事で確証のない噂だけど対して違いわないと思う。
結局エトアの王様はそのままお亡くなりになったそうよ。
皇帝陛下がお悔やみの言葉といくつかの金品がエトアに運ばれていったから。
けど、皇帝陛下直属のお偉いさんと隣国の王に送る品を見ようとちょっとした騒ぎが起きたのはどうかと思ったわ。流石に不謹慎だし。
それよりエトアよ、王様が亡くなったのに1年間も次の王様が決まらないなんて。
そのせい、と言っていいのかしら?先輩たちの卒業後の進路に国境警備隊が追加されたの。
エトアから出国者。いえ亡命者といったほうがこの場合いいでしょうね。それが増えてきていて同時に密入国者も比例するように増えてきた。
密入国者が国境付近で犯罪を犯したり現地の人といざこざが発生して険悪なムードが出てきているみたい。
一度は村に帰ったダン兄ちゃんが出稼ぎと称して国境警備隊に入隊して大人と一緒に現地を駆けずり回っているらしい。
理想と現実は違うみたいで大人しく村に居るんだったと愚痴まみれの手紙が届いた。
私はこの手紙を読んで国境警備はごめんだと正直思ったわ。
国境警備は国が後ろにいるから給金はいい。手当もいい。ただ恐ろしいくらい厳しく、行動も制限されるみたい。
入ったが最後。最低でも半年から1年の契約期間が終わらない限り除隊できない。
毎日血反吐を吐きながら…、ダン兄ちゃんご愁傷さま。
て、ダン兄ちゃんのことはいいのよ。
エトアよ、エトア!
公爵家が動かないからってようやくまともな人が出てきたわ。
“エドガー候爵”
彼の手腕はすごいわ。瞬く間に国を立て直したんだから。
彼を支持したのは男爵以下の貴族達だけど爵位が低い貴族って当然だけど爵位が高い貴族より圧倒的に数が多いのよね。
その中の大体三分の二近くが彼の下についた。準貴族である騎士爵も味方に付けれたのも大きい。その調子で軍も味方について彼が存命中に届いたダン兄ちゃんの手紙にも亡命者の数が目に見えて減ったとか、休みらしい休みが取れたと書かれていたんだけど…。
先輩の隊員にお酒が飲める夜のお店に連れて行ってもらったことまで書かれていたの。そこで働く美人のように私もなれですって。私の知ってるダン兄ちゃんってここまで馬鹿だったかしら?女性に送る手紙の内容ではないと思うの。
けどまぁこれで、エトアの問題は解決するものだと思ったわ。
でも人生は何が起こるかわからないってこういうことね。
エドガー候爵が死亡した。
公爵家が刺客を差し向けたという話だけど王様が死んでもその重い腰を上げなかった人達がエドガー候爵に対してはここまで早く動けたのかと疑問に思うの。
実際、エドガー候爵死亡によってエトア国中に絶望感を植え付けることに成功し、追い討ちをかけるようなヴォーゼンの北進。この一連の事態は連動していると見ていいと思うけど証拠はない。
けど、どの道今の私は学院から動けない以上、詮索するすべもないのだからこの話はここまでね。
ヴォーゼンの北進によって学院での授業も大幅に変更になったわ。
座学では最新の進行状況が知らされ、地図の上の町の名前にバツ印がどんどん付けられてその数を増やしていった。
実技の時間はさらに増えていた。最低二人から多い時はクラス対クラスの団体によるフォーメイションやを組んだ戦闘訓練。魔法は集団魔法の詠唱訓練が追加され、集団詠唱中の防御や妨害について等々、時間がどれだけあっても足りないといった具合に授業が詰め込まれていったわ。でもこれによって毎日クタクタになって不安に駆られてあれこれ悩む前にみんなは眠りに入れた。
皆、いやここまで来て取りつくるのはよそう。私は怖い。
成績優秀で主席だから皆は私に縋ってくる。でも、こうして部屋に一人になると途端に不安にかられるの。
「トーマス、あなたに会いたいよぉ」
トーマスからは時々手紙が送られてきたけど中身を検分されていてたまに黒く塗りつぶされていたりしていた。
トーマスは陰の魔術師だから私なんかより今起こっている戦争の情報が多く耳に入るからだと思うけどせっかくの恋文もこれじゃ味気ないわ。
それでも私を気遣う言葉は私を慰めてくれる。
今日も私はトーマスの手紙をお守りのように胸に抱いて眠りについた。
残された時間は短いと分かっていても平和な時間が少しでも長くなるようにと願って。




