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エトア崩落

エトワ共和国


 エトア共和国の歴史はさほど古くはない、大体400年ほどである。だが小さな集落が集まりそれが国となり近隣の国々と奪い奪われ、時に手を取り合いながら小国としてエトアという国400年以上前から存在していた。

しかし帝国の領土拡大を受け帝国南方の小国だったエトア、ブリューム、ジュレイアは手を取り合い共和国となり帝国との力の均衡を取ろうとしたが帝国の力に屈し大きく領土を減らし帝国の属国となり今日に至る。

 そして属国となってからは敵国であるヴォーゼンの監視の役目を任されていた。


 そのエトアは今、混乱の真っ只中にあった。理由は現国王が意識不明の重病のため内政が滞り市民の不満が爆発して内乱が起こってしまったのだ。

 だがそれなら新たな王を決めればいいのではないかという話だが現国王が死んだのではなく、意識不明の重病だということだ。

 王が死んでいない以上新たな王の擁立は混乱の元になる。それに王の意識が戻り代理を務める者の名前さえ聞けばそれで解決するのだ。王になる資格の有る者達は何もせずただただ時が過ぎるのを待っていた。

 だが王がしなければならない仕事は当然だが溜まって行く。大臣たちが変わりに捌ける物もあるが最終的な判断を下し王印を押さなければ国庫の金が動かせない重要な案件も存在した。


 病気の王、滞る内政、何もしない王族。不安と不満が市民の間に水面下で溜まっていった。

 そしてこんな時に限って汚い金を懐に入れて私服を肥やす馬鹿貴族がいてそれが明るみになるのだ。

それがきっかけとなり市民の怒りが爆発した。私服を肥やした貴族の館は暴徒と化した市民が溢れ返り金目の物は根こそぎ奪われてしまいその貴族は家族もろとも逃げ出した。

 だが市民の怒りはそれだけでは収まらず一部の地域だけの暴動が内乱へと移行していき国中に拡大して行った。

 さらに不幸は続き、病に犯された国王が治療の甲斐なくご臨終と相成った。

 だが事ここにきて三公爵家はあんなになりたがった王の座を嫌がった。王になれば当然だがこの内乱の責任をとらなければならず、そうすると家の力が大きく削がれ残りの二家との無視できない差ができる。

 なんとも打算的でくだらない理由である。

 そうして三公爵家が足踏みすればするほど国が混乱し痩せ衰える。

 その状況を憂い、見かね、三公爵家にせっせと根回ししエドガー侯爵が代理として立ち上がった。




 だが内乱は終わらない。エドガー候爵家、そこで二人の人物が言葉を交わしていた。


「王が倒れ、民が暴走し、私が再び国をまとめても転がりだした巨石は止まらないですか」

「ええ、止まるつもりも、止めるつもりもございません。むしろあなたは邪魔です」

「そのために多くの人々が死ぬのがわからんのか!」

「それはどうしようもありません。こちらは戦争を始めるのですから」

「今あるものだけで満足できないのか!お前たちは!」

「出来ない…でしょうね。特に上にいる人たちは。帝国との間にこのエトアがあるのも知識としては知っていても、それはテーブルの上に敷かれた地図を見ているだけですから」

「は、“地図の上からそこに暮らす人々の顔は見えない”か、よく言ったものだ。しかしいいのか?自国の悪口を言っても」

「別に構わないでしょう。だって“ここ”にはもう私とあなたしか居ませんし、あなたは私に殺されるんですから」


 今二人が立っている執務室は凄惨たる有様だった。

 目の前にいるたった一人の暗殺者に護衛の騎士20名が無効化されたのだ。もちろん外にも兵は配置しているが誰も駆けつけてくる気配は無かった。

 室内を彩っていた花瓶やテーブルは無残な瓦礫と化し、豪華な刺繍を編みこんだ絨毯は騎士の血で赤黒く染まっていた。


「狂信者どもめ…」

「なんとでも。ではエドガー候爵、ごきげんよう」

「くっ、…ライジャ、こんな父を許せ。母をたの」

 その言葉とともにエドガー侯爵の首は宙を舞った。



__________


 エトア共和国はエドガー侯爵を失ったことで大混乱に陥った。

 エドガー侯爵によって少しずつだが国が回りだしたのが市民に伝わりだした直後であり、エドガー侯爵は暗殺されたとあっと言う間に伝わった。そして最悪なことに犯人は何もしなかった“三公爵家の者たち”だったと発表され、当然公爵家は否定したが侯爵の屋敷の死体の中には返り討ちにあった刺客のものが数体残っており、その素性をたどると公爵家に行き着いた。

 日が経ち捜査が進めば進むほど外堀が埋められていき退路が狭まる。

『内乱をうまく治め、権力と発言力を増したエドガー侯爵を危険視した公爵家が刺客を差し向けた』『何もしなかった公爵家が手柄を上げ俺たち市民の支持を集め王権の奪取に乗り出すというエドガー侯爵の黒い噂に踊らされて兵を向けた』という噂が真しやかに囁かれていった。そこにヴォーゼンの北進の報、国の官僚たちにこれに対処する力は残っていなかった。

 国の象徴である王は死して跡継ぎは未定のまま、継承権を持つ公爵家は役に立たない。力を持つ侯爵以下の貴族も旗頭となったエドガー侯爵が暗殺されたことで二の足を踏む事態になった。

 国の機能が麻痺し治安が悪化、国民は国を捨てるもの、自分が愛した地で最期を迎えようとするもの、何もかも諦めて自暴自棄になり暴れるもの等々。

 もはやエトア共和国は国という体を失っていた。




 エドガー侯爵暗殺を終えた暗殺者は人気のない路地裏を歩いていた。その姿には血の一滴も付いていなかった。予定通り仲間が情報操作を終えた事を確認し自国に引き上げるべく移動を開始した。

「これぐらいでいいですかね。後は自国の兵士に任せて帰りますか。ん?」

 トントンと地面を跳ね男の足元に小さなボールが転がってきた。

「ごめんなさい。ボール取って~」

「取って~」

 こんな情勢下でも子供は元気に遊ぶのだ。男は子供たちにボールを投げ返してやった。

「ありがと~」

「おじちゃんどこ行くの?」

 この情勢下こんな路地裏に見ず知らずの男が通りかかれば不安にもなるか…

「おじちゃんは死にたくないからこの国を出るとこなんだよ」

「そっか、ベティやロロたちと同じだね」

 どうやら子供たちの友達も数名国を出たものがいるようだが自分の生まれ育った国を崩壊させた張本人に手を振って見送ってくれた。

 無邪気な笑顔を振りまきながら。

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