リーナただいま修行中
朝から晩まで道場で体を動かす。
そんな日が2日、3日と過ぎていった。
「あの人46の時に足を怪我してね、軍に復帰するのは絶望的と言われたんだよ。あ、そこに刃を入れて腹まで捌く」
私は道場での訓練の後、マイアーズさんに教わりながらみんなの食事のお手伝いやお風呂、洗濯物などの家事を仕込まれていた。今まで家ではお母さんが学院では食堂のおばちゃんが料理をしてくれていたから自分が台所に立ったことは無かった。もちろん依頼で動物を狩った事はあるし、動物や魔物の血抜きも学園で教えてもらったけど実際にそこから自分の手で食べる肉にしていくのは別だ。
「そのぐらいでいいよ。そこから手を入れて内臓をかき出してね」
無慈悲。首はマイアーズさんが一刀の元、切り落とされた状態で渡されていたけどラルクさんとジル君が捕って来た兎はまだ3羽残っている。私がおっかなびっくり作業をしている間にもマイアーズさんは手を動かしすでに4羽の兎を捌き終えていた。
「胃や腸は使わないから捨てていいよ。肝臓は酒のつまみに男共が欲しがるからこっちに除けて置いて、残りの兎は私がやるからリーナはサラダとスープに使う野菜の皮むきを頼むね」
私は肉包丁を果物ナイフに替え人参やジャガイモの皮を剥いていく。
「イタッ」
またやってしまった。料理をするようになって私の手は包丁での切り傷が絶えない。初日は血が染み込んでしまった野菜を責任を持って食べた。それでも毎日作業をするおかげでましになってはいるのだ、その証拠に今回は左手の親指の先を少し切っただけだもん。
「大丈夫かい?」
「うん」
「…どこまで話したっけ、そうそう足を怪我したとこまでだったね。あの人それで腐っちまってね、イライラして私に当たってきて。本気で別れようか迷ったほどさ」
「でも別れなかったんだ」
「別れる前に自分で立ち直ったのさ。まぁそのせいであんたたちみたいな子が時たま来るようになってね」
「???」
「軍には戻れないけどリハビリをして日常生活を送れるぐらいにはしないいけないからね。でも家にいづらいから街をブラブラ散歩して日が沈むかどうかぐらいに帰ってくるんだよ。その日もね、同じぐらいに帰って来たんだけど後ろに気絶した男の子が居てあの人襟を掴んで引きずって帰って来たんだよ」
「…びっくりですね」
「だろ?とりあえずその子を寝かして事情を聞いたんだ。そしたら生意気だからぶん殴ってきたって言うじゃないか。もう口あけて二の句がつげなかったよ」
「へぇ~」
マイアーズさんにとってはもう笑い話でしかないようで終始笑っている。
「その子は学院の生徒だし貴族の御子息とかで誘拐騒ぎになっちゃってねぇ。それで気絶した子が起きたら起きたでそこでも一騒動だよ。後から聞いて知ったんだけど親の名前や学院での実力で天狗になってたみたいで有名な悪がきだったんだよ。あの人完膚なきまでその子のプライド叩き割ってさ、徹底的に叩き直したんだよ。今では軍で偉くなってね毎年頼りが届くんだよ。それがきっかけでね、他にも冒険者として名を馳せた人も居るよ。あんたやあの子もいずれはそうなるのかねぇ?」
「…そうなれるようにがんばります」
そういうしかなかった。
そんなこんなで晩御飯は出来上がり食卓に並ぶ。
「今日は兎のから揚げにジャガイモとにんじんのスープにサラダか」
「麦酒はこの一本しかだめだからね」
「…飯がまずくなるような事言うなよ」
「私が作ったんだ不味い訳あるかい!」
息の合った夫婦漫才をスルーしてご飯をかき込む。
ここに来る大人は私やジル君がご飯を食べる姿を微笑ましい目で見るから恥ずかしい。
「軍でどれだけ働いて偉くなっても人の子なのさ。あんたたちの姿に遠く離れて暮らす自分の子供の姿を重ねてるんだろおねぇ。けど、恥ずかしいだけで嫌じゃないだろ?笑顔の食卓ってのはそれだけでいいもんさ」
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「それじゃ、飯も食ったし勉強の時間といこうか」
ラルクさんの修行は体を動かすだけじゃない。食事の後はこうして国の事、軍の事について話しをしてくれる。
「まずは先日配られた号外だ」
ラルクさんはそういってテーブルの上に号外を広げた。
『ムー王国退却!帝国軍勝利!』
見出しは大きくそう書かれていた。
「ええ!?ムー王国が攻めてきたの!」
「こっちじゃぜんぜん話題になってないよ」
号外を見た私たちは悲鳴を上げる。
「は、知らないのはお前たちが情報収集を怠ってるからだ。実際学院の教師や冒険者ギルドの職員、商人・職人ギルドに参加している商店は仕入れとかの関係でそうじて耳が早い、東の侵攻の事は知ってる。だがここじゃ東の侵攻は対岸の火事だからな。ジルの坊主の言葉もあながち間違っちゃいねぇ」
「どうしてですか?」
「南の属国であるエトアが内乱を起こしているからだ。それに呼応するようにさらに南のヴォーゼンが怪しい動きを見せている」
「「………」」
私たちは何もいえませんでした。
恐怖で手が震えました。この幸せな日常が一気に遠くなった気がしました。
「悪い悪い、脅しが過ぎたな。エトアはもう暫くすれば落ち着く。エトアが落ち着けばヴォーゼンも少しは大人しくなるだろう。このまま何も無ければだけどな。それに学院は楽観視はしてないぜ?ワルズって男が新入生のガキを扱いてるだろ。あいつは優秀なやつだったぞ。部署は違ったがな」
なんとワルズ先生とラルクさんは知り合いでした。
「他は、陰の魔術師が出たって事で厳重体制、しかしこの事が他国に知られないように秘密裏に北に送った事ぐらいかな」
トーマスも国の事情が大きくかかわっていました。




