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リーナと酔っ払い

 彼が遠くに行ってしまってからもう3ヶ月も経ってしまった。


 私は進級して新入生が今年も入って来た。そんな彼らとは休日の武道館で少しばかり相手をしたり相手になってもらったりだ。


 彼がいたクラスの子たちとは疎遠になってしまった。

彼がいれば彼に会いに周りの子達とも一緒になってわいわいと騒いでいられたのに…

 魔術師と魔導士、その小さな違いは目に見えない大きな溝を作ってしまった。そして魔術師同士であっても貴族と平民、エリートと落ちこぼれで分けられる。

 リーナは北の地にいる彼のことを思いながら深いため息をついた。


 進級に伴いリーナはAクラスになった。

 Aクラスは実力上位の者がひしめくクラスだが同時に貴族も多い場所でもあった。つまりそれは貴族の派閥争いに巻き込まれるということだった。

 平民だが学年では1、2を争う実力者であるのは1年の時にバレている。

 しつこい勧誘に辟易して1対1の勝負で自分に勝てば派閥に入るという条件で勝負を持ちかけ完勝。勧誘は収まり仲のいい子と自由気ままに過ごしているが別の問題が出てきた。

 貴族の女子からの陰湿な嫌がらせだ。

 武道の時間では審判に気付かれないように反則ギリギリの技を仕掛けてくるわ魔術の時間では妨害魔術を仕掛けてくる。

 最近もっとも怒ったのはトイレの頭上から水の魔術を放たれたのと風呂の脱衣場の服を隠されたことだろう。しかも標的は私だけじゃなく私と仲良くしている子達も一緒だったこと。その内一人は泣きに泣いて次の日は部屋から出てこなかった。

 先生にこの事を告げてもなにも変わることはなかった。


 このどうしようもない鬱憤を私は依頼された魔物や害獣に向けて発散していた。

 その日もいつものように依頼を受けるつもりだった。

「嬢ちゃんすごい仏頂面だな。嫌な事でもあったか?可愛い顔が台無しだ」

 最初誰に言っているのかわからなかった。だがその人はどうやら自分に話しかけているのだとわかった。

 その人は革の装備で身を包んだ40歳ぐらいのおっさんで腰に剣を指しているのだが右手には酒瓶が握られている。

 ここは冒険者ギルドで酒場ではないしまだ朝の時間帯だ。目の前にいる酔っぱらいは激しく場違いなのだ。

 だが酔っ払いに常識は通じない。勝手に今から受けようとしていた依頼を見てくるし。

「Eランクの依頼か、ちっこいのに優秀じゃねぇか。どら、俺も一緒にその依頼に参加するわ。よろしくな嬢ちゃん」

「なっ、ちょ、ちょっと」

 あまりのことに絶句したが今の状態も状態だ。この酔っぱらいの肩に担がれてしまった。依頼を受けるから下はズボンで下着を見られることはないのだが格好が格好だ顔から火が出るぐらい恥ずかしい。


 男はギルドを出ると慣れた様子で乗合馬車の所に行き金を払って馬車を手に入れた。担いできたリーナを荷台に放り込みすぐさま出発した。


「あ、あなた私をどこに連れて行く気よ!」

「あ?どこって依頼を受けた魔物がいる場所へだが?」

「信じられないわ」

「おいおい、俺は変態じゃないぜ?それにそういう仕草をするなら10年経ってからにしろ。色気もへったくれもねぇんだからよ」

「お酒飲んで酔っ払ってる名前も知らない人をどう信用しろって言うのよ!」

リーナの言葉通り、男は道中暇があれば瓶を傾けリーナとの問答の合間にも飲んでいたのだ。

「あれ?名乗ってなかったか。すまん。ラルクだ。だが別にこんな酒飲んでも酔ったりしねーよ」



 そんな問答がされている中、冒険者ギルドの若い職員は目上の人物に先程の事態を問い詰めていた。

「なんで先輩たちは止めなかったんですか?あの女の子無事に帰ってくるんですか?」

と、矢継ぎ早に不満を述べる。

「ああ、おそらく大丈夫だろう。お前が考えてるみたいに兎が狼に食われるなんてことは起こらない。むしろ番犬?かな。依頼も無事にこなしてきてくれる」

「その口ぶりだと有名なんですか?あの人?」

「“子拐いラルク”学院の生徒を拐って行く事で有名だ」

「犯罪者じゃないですか!」

「…呼び名はアレだが人格者だ。彼が目を付け拐った子達は一枚も二枚も皮がむけて成長してくる」

「つ~か、久しぶりに見たよ俺も。ここ何年か見かけなかったし」

「なんにせよ、このことは学院に知らせないとな。余計な騒ぎはごめんだ」

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