幕間1 手紙
男は教会の応接室で紅茶を飲んでいた。
「早いものですね、もう5年ですか」
誰に聞かせるでもなく出た言葉に感慨にふける。
5年前この村に赴任してきてその年に生まれた子供たちが今日旅立つ。
「しかも二人共全身魔闘の第一段階をクリアするとは多分最初の一年は退屈するでしょうねぇ」
気まぐれで教えたが子供たちは驚異的な伸びを自分に示した。
「失礼します、手紙が届きました」
扉を開けてそっと手紙を差し出してくる。
「ありがとうございます。戻っていいですよ」
失礼しますと返事をして下がっていく。
そして届いた手紙の差出人の名前を見て驚く。
『久しぶりだなゲイル。元気にしているか?
早いものでもう5年が経っちまった、なかなか手紙なんぞ出す暇なんか無かったんだがそうもいかないらしい。
俺がサウスガーデンで教師の真似事してんのは知ってるだろ?と言うかこの話が来た時にも言ったと思うがお前が教えろ!なんだよ教会の神父って!お前がガキ共の教師で俺が村で畑耕す方がどう考えても正しいだろ!
そんな俺様が今年は1年のガキを教えなきゃならん。
お前の事だ、意味は解るだろ?何処かはまだわからんが動くぞ。
もう5年だ、そこはお前の居場所じゃねぇよ。
戻ってこいゲイル。いや、帝国軍諜報部隊 “疾風のゲイル”』
手紙を読み終えため息をつく。
飲んでいた紅茶はすっかり冷めていた。
本当なら今日は心からの笑顔で子供たちを送れたはずなのに、そう思うが男の表情は全く変わっていなかった。
「戦争になる可能性がある…、か」
この手紙を見られて村の人たちに余計な不安を煽る訳にはいかないし自分のことを知られるのも不味い。
ゲイルは手紙を燃やし教会をあとにした。
ここからのゲイルの行動は早かった。
トーマスたちを優しく送り出し、教会の上層部に向けて早馬を出す。
そして子供たちを送り出して2週間後、驚くような速さで交代の神父が派遣され村人に惜しまれながら村を出た。目指すは帝都。
こうして事態は動いていく。