プロローグ
・・・・・さて、皆さんは『ぼっち』というものをご存じだろうか?
そう。 皆さんが想像したもので間違いないはずです。
そんな悲しきぼっちの俺こと、神位優太ですが、今とてつもなくめんどくさいことになっている。
「へへっ。 この女、いつもは威張り散らしてるくせに、涙目だぜ」
「だよな~。オジョウサマにはこういう経験なさそうだもんな~」
「オイどうする? ヤッちゃうか?」
お父さん、お母さん。 俺はどうすればいいのでしょうか?
四月某日。本日は去年一年通い詰めた、都立清陵高校の入学式兼始業式だ。
いや、それにしても、何で始業式なんてあるんだろうね? ただ校長先生の約20分にもわたるありがた~いお言葉を頂くだけなのに。
そうして入学式と始業式を終えた後のホームルーム。 そう、クラス替えしてからの初めてのだ。
俺の席は、五十音順に並んでいるので、最も後ろの席だった。くっ窓際がうらやましい。
いやー、それにしてもいい天気だ。サークーラーがーまーうー。
とか考えてたら自己紹介も終わっていた。 あれ?俺の番はいつの間に終わったのかな?
ま、いいや。ぼっちはぼっちらしくひっそりと帰りますか。
そうは思ったが、急にトイレに行きたくなり個室に入ったときだった。
2,3人の男が入ってきた。
「それでさぁ、もし逃げられたりしたらさどうすんの?」
「そんときのために、最中の写メでもとっとけよ。ソレで脅せばいくら何でもなにもいえねぇって」
「うわ、さすがトシちゃん悪の先輩だね! そこに痺れるぅ、憧れるぅ!」
・・・・・・・・・・・。 な、なんか会話の内容が不穏当だな・・・・・。
「それで? 東郷は、呼び出せたのか」
「バッチリだぜ。偽のラブレターで、放課後に体育館裏に呼び出しといた」
なんだこいつら。 集団リンチでも始めるつもりなのかな? 放課後って、今か。
ていうか、東郷っていったら・・・・・・。
そういうと、三人は出て行ってしまった。
後に残ったのは、ぼっちな俺一人。
「・・・・・・体育館裏か・・・・・」
一人そう呟いてみた。 漫画っぽいだろ?
そうしてこの状況である。
「おいおい、一体何分かけるつもりだよ」
「でもよ、コイツい、意外に抵抗してっ・・・・・おい、騒いでも誰も来ねえぞ?」
「は、放しなさい! ど、どういうつもりよッ!」
「うるせえな、おい、ガムテ出せ」
そう言ってビィィィと口をふさぐトシちゃん(仮)。 あーあ、ひどいことするな。
現在俺は、体育館の角の所で、一応持ってきた竹刀を持ち隠れている。
ぼっちでも多少の良心は残ってるんだよ。 俺ってばマジ聖人。
俺は、男子生徒3人の前に身を躍らせる。
前って言っても後ろに立ってるんだけどね。
そして、3人+1人の反応は!
「「「 へ、変態だ! 」」」
失礼な。 今の俺のカッコに何の不満があるというんだ。
今のカッコといえば、
頭、少しでも強そうに見れればと思い、某レスラーの虎型マスク。
体、機能性重視のブーメランパンツ一丁。
足、蹴りの力を最大限生かそうと思い、ブーツを着用。
「「「 いや違った! タイガー〇スクだ! 」」」
・・・・・・・・おお確かに。
タイガーマ〇クが、竹刀持ってる姿は、異様かもしれない。
「チェストォォォォォォォォ!」
呆然としてるところを、一発。 小太り気味の奴の腹に叩き込む。
よし。 まずはひとr―――――――グボア。
「チョーこいてんじゃねえよてめえ!」
ああっ! すごい! タイガーに惑わされない不良さんすごい!
タイガーにビビらない不良さんすごい!
あと、裸だけに蹴られるとすごく痛い! こんなこと考えた自分もイタかった!
こうして、女の子を助けるというシチュエーションで挑んだ喧嘩は、見事な敗北で幕を閉じた。
でも負けないぜ! 俺の強みはメンタル面の強さだ!
よっこらせ。 あーあ、マスクがぼろぼろになっちまった。 タイガーマ〇ク、すまん。
ぼろぼろのマスクをかぶったまま、立ち上がる。 いてっ。 口の中が切れた。
「えーっと、大丈夫か?」
手首を縛られたままの少女、東郷文女に声をかける。
うーん、俺、カッコ悪い。 なんたって裸だもんな。
「えっと・・・・・助けてくれたのよね?」
「なんで疑問形なんだよ」
「あなたが、そこの人たちより奇抜な格好をしてるからよ」
うおぅ!? な、なんで俺はこんなカッコをしてるんだー!?(棒読み)
「んーまぁ、なんだ、これが俺の戦闘服だから」
正直に言おう。 冗談いってみたけれど、実際は目の前の女子生徒からくるプレッシャーでガクブルです。
典型的コミュ障の俺には、女子と話すどころか人と話す機会すらないのだ。
「・・・・・ところで、一つお願いしていいかしら?」
「なんだ」
あー、マスクしゃべりにくい。 もう脱ごう。
「このロープを切ってもらってもいい?」
「ああ、ちょうどカッター持ってるし。 後ろ向け」
カチカチカチと刃を出すと、後ろを向いた東郷が言った。
「マスクとカッターで、さらに凶悪度が増したわね」
「黙っとれ」
綺麗な手に食い込んでいた縄を切ると、東郷はその長い髪を整えた。
うわー、様になってんなー。
「お礼を言うわ。ひとまずはありがとう。 助かったわ」
おい、意外と高いな。 遠目にしか見たことなかったけど170の俺に迫るぐらいにあるんじゃないのか?
べっ、別に俺が小さい訳じゃないんだからねっ!
「お、おうっ。 流石にな、見てらんなかったからな」
お礼なんて言われると思ってなかったから、どもってしまった。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・もう行くわ。 今度お礼をしたいわ」
「お、おう。 また機会があったらな」
あるわけないけど。
俺は、去りゆく東郷の背中を見送った。
ブーメランパンツとマスク&カッターという完全にキマっている姿で。
―――――――――――――――東郷文女は、才女である。
去年の入学試験をトップで入学し学校中の話題をかっさらった今を生きる美少女。
頭脳明晰、容姿端麗。 おまけに人望も厚いという三拍子そろった完璧人間。
だからこそ、去年流れた男女交際のうわさも頷けるというものだ。
チッ。 リア充爆発しないかなぁ。
「おい、おい聞いてんのかよ神位?」
「・・・・・・・・・・・」
「なぁ、おいって」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・寝てるのか?」
翌日の学校。 やはり俺は孤立した。
もう人に誇れるレベル。 自慢したいなぁ。
学校に来た俺は、ホームルームまでの時間を寝て過ごそうとした。
そしてその俺にこうして話しかけてきたのが学校一の長身を誇るこの優男、武田亮だった。
こいつはリア充の筆頭みたいなヤツだが、なぜかしつこく俺の友達を名乗る。
そしてその理由は、去年の文化祭までさかのぼる。
去年、俺(空気)の(形だけ)在籍していたクラスは、文化祭で劇をやることになった。
その時の脚本制作の担当になったのが、結構国語の点数がよかった俺(先生の推薦)。
どうやらぼっちは本ばっか読んでるやつがなりやすいらしい。 俺の趣味読書だし。
それで、その日のうちに完成させて、教卓の上に置いておいたんだが・・・・・・翌日、誰も気づかなかった。
誰にも気づいてもらえない悲しさにぼっち以上のショックを受けていると、一人だけ俺の仕事に気づいたやつがいた。
それが、武田だった。
それ以来、俺の存在を知った武田が一方的に侵攻してくるようになったのだ。
はっきり言おう。
迷惑だ。
何せ向こうは、リア充の友達もち。
え? ふつうは彼女とかいうところ? ぼっちには、友達すらいません。
「なんだよ、起きてるなら反応しろよ。 俺一人みたいだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(お前が空気読めよ的な視線)」
「それでよ、聞いたか? 昨日の噂」
・・・・・・・昨日始業式だったのにもう誰かか何かしたのかよ。
行動が早いなリア充は。
「で? 何があったんだよ」
「おお、ようやく帰ってきた」
早く言えよ~。 あそこの見るからに腐ってる女子がこっち見てるよ~。
「―――――――――東郷だよ」
「え?」
ここで、その名が出てくるとは思わなかった。
「昨日、さっそく東郷に手を出したやつがいたんだよ。 それでな、その危ないところを助けたのは・・・・・・・・・・・・・虎だったらしい」
「へ?」
「驚くだろ? 体育館の裏に虎がいるんだぜ? そして、その虎を手懐ける東郷もさすがだな。 虎はどこ行ったか知らないけど」
・・・・・・・・・どうやらまわりまわって尾ひれがついたらしい。
ていうかあれ、 誰かに見られてたのかよ。
誰が虎だ。 俺は一匹オオカミだ。 ほんとの意味での。
「・・・・・・・・・・・きっ、聞いたことないな。 そんなこと」
ああ、噛んでしまう俺、カッコ悪い。 まあ、いまさら気にする体面もないけど。
「ふ――――――ん。 じゃあ、もう一つ。 こっちが本題な」
そこで、武田は長めに一息入れた。
「その、虎がお前だっていううわさもあるんだが、昨日何してたんだ?」
お兄さんお姉さん。 俺は、どうすればいいでしょうか?