ウ・チュとウ・ジン
太陽系は木星辺りを亜光速で移動している一隻の宇宙船。
―――その船内。
「…あと二時間で地球だな。……あ、なあなあ、俺達の行く日本ってトコにはどんな生き物がいるんだ?」
「そう、だねえ……あ、これ、す、せ…みぃ、だって」
「せみ?」
「うん、…う〜ん、この、せみ…っていうのは、なんでも土の中に七年もいるらしいよ」
「へえ〜すごいな、そりゃ、よっぽど綺麗な植物なんだろうな」
「え、いや、植物じゃないよ」
「いや、植物だろ」
「違うって」
「お前土の中に七年だぞ。植物以外考えられないだろ」
「いや、違うって、ほら、ここ、昆虫の一種って書いてあるじゃん」
「だとしても、もうむしろ植物だろ」
「いや、どういう理屈だよ」
「え〜、ん、じゃあ、他、他なんか特徴読んでみろよ」
「え、うん、いいけど……あ〜、でも、なんかねえ、それだけ土の中にいて、地上に出ちゃうと七日間しか生きられないって」
「やっぱ植物じゃん。俺聞いた事あるよ、なんだ…一夜しか咲かない花とかって」
「…僕も聞いた事ある、それ」
「な、やっぱ植物だよ。……あ〜、よっぽど綺麗な花が咲くんだろうな〜。なんたって七年土の中にいて七日間しか咲かないんだぞ、見てえ〜」
「……あ、やっぱり違うよ、ほらココ、空を飛ぶって書いてあるもん」
「だから種だろ、それ。…知らねえのか?植物はな自分で動けないから、種を飛ばしたり、風に乗せたりして、そうやって自分のテリトリーを広げてるんだよ」
「あ、そ、れもなんか、聞いた事ある気が…するぞ……え〜?」
「そうなんだって、え〜ぉ、ほら、なんか映像とか無いのか?」
「ん、あ、ああ、写真があるって」
「おおお、いいじゃん、見よう見よう」
ピッ、ウィ〜ン、…パッ。
「「こわっ」」
「ちょ、はや、消せ消せ」
「う、うん」
ピッ。
「こ、こわ〜」
「な、何あのビジュアル」
「今、なんか、もう、明らかに何かを吸うつもりの器官があったな」
「うん……えと、なんかね、あれで〜、じゅえき?っていうのを吸うらしいよ」
「お前…呪液って。まあ、確かに、なんか、和テイスト、っていうか、凄いトラディショナルな感じはするけど」
「うん、なんか、せみって昔から日本に広く分布してるらしい」
「やっぱり」
「…でね、豆知識ってトコに書いてあるんだけど。……他の国では、せみがいない所もあるらしくって、日本の映画とかをそこで上映する時には、せみの鳴き声が雑音になっちゃうから、消しちゃうんだって」
「…そりゃ、消すだろ。……あれだろ『……せん……ぱい……』とかって、そういう事だろ、泣き声って。消すよぉ、怖いもん」
「……ど、どうする?侵略今度にする?」
「そ、そうしようぜ。もうなんか、こえーよ俺、帰って、大人しくビデオとか見ようぜ」
「そ、そうしよっか」
……こうして、セミによって、地球が救われた事を知る人は少ない。