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魔法の本。

 

 校舎の外は、五時を知らせる夕焼け小焼けが流れ、子供が帰る時刻だと知らせる。


 空が暗くなり始めた部活動の時間。

 静かなコンピューター室で無意識にため息を吐いたのは、文芸部内でもムードメーカーの間口京太郎だった。

 部活を開始してから、すでに2、3時間は経過しており、それまでずっとパソコンのディスプレイと睨めっこしている訳だから、肩は凝るし目は痛くなる。ため息の一つくらいは、京太郎といえど許してもらいたかった。

 ため息ついでに伸びをすると、向かい側の席にいる部長と目が合った。かわいらしい顔立ちの彼女は、久野真希だ。

 背中を反らす京太郎を見てちいさく微笑むと、真希は会話を投げかけてきた。

「そろそろ、新聞作りも飽きてきたねぇ。なにか新しい活動も考えようか」

 茶目っ気たっぷりの笑顔をこちらによこして、彼女は京太郎の心を透かしたような提案をだす。新聞作りは約一か月前からの活動で、日刊で好きな記事をつくり、印刷するというものだったが、これ記事作りは相当な集中力を要するため、京太郎他、何名かの部員もこの活動にはすでに飽きていた。だが、真希はまだ飽きていなかったはずだ。なにしろ、彼女が好きなものの紹介が日刊でできるのだ。多趣味な彼女にとって、これほど嬉しい活動はなかっただろう。

 真希は、時々こうして自分のやりたいことを諦めてまで、部員のことを考える。そのときは、こちらが遠慮しても彼女が聞かない。それを京太郎は知っていた。

「そうだなあ、たまにはパソコン以外のこともしたいな」

 伸びをしたまま、京太郎は案を出す。背筋がギリギリつるところまで伸びるのが気持ちいいのだ。

 一方、真希は顎に指をあてて考え込む。

「うーん…。図書室は読書クラブが使ってるしなあ。近場の図書館なら、顧問も許してくれるかも。そこなら、本も読めるし、机があるから勉強もできるし、小説もかけるしね。」

 すると、彼も飽きたのか、真希の隣の席である副部長の土原安が会話に入り込んでくる。

「あそこの図書館さー、なんかへんな噂あるよね」

「『魔法の本』でしょ?」

 真希が答えると、安は「そう!」と、人差し指を立てた。

『魔法の本』。それは、いつごろから流行りだしたのか、京太郎たちがいる中学のすぐ近くにある図書館の噂であり、地域の都市伝説で、別名、見つからない本ということから『幻の本』とも呼ばれている。

 その都市伝説は、『魔法の本』を見つけられると作品の著者に会うことが許され、願いを叶えてもらえる。と、いうものだった。

 しかし、『魔法の本』の実体は誰も知らないので、どんな本か。なんていう題名かすら明らかになっていないのだ。

「バカバカしい」

「あ、京太郎が子供の夢をバカにした」

 ぼそりと呟くと、聞こえてしまったのか、安が悪い笑みを浮かべていった。

「あるわけねぇじゃん。結局、本当に願いを叶えた奴なんていないんだろ?」

「うん。」

 思いのほか、あっさりと頷く安に目を丸くする。てっきり、なにか言われるものだと思っていたからだ。

「だって、その都市伝説って子供の失踪が元ネタなんでしょ?閉館時刻を過ぎても図書館にいると、『魔法の本』の作者にあって、夢の世界に連れて行かれるから、閉館時刻は守ろうねーっていう」

「ふーん」

「え、そうだよね?久野」

 安が横を向いて尋ねると、真希は眉間にしわを寄せて、難しい顔をしていた。

 安が再度、呼びかけたところで真希が返事をした。

「どうした?」

「いや?活動、どうしようかなって」

 いつも通りの笑顔で、真希は何でもないように言う。

「うーん。なんなら、図書館で『魔法の本』探しでもやってみる?」

 提案をすると、安はさも気だるそうに「えー」と文句の声を発した。しかし、真希が「だったら土原が考えてよ」という一言に、しぶしぶ同意した。

「キョウは?」

 キョウというのは、京太郎のあだ名だ。

「なんか、バカバカしくない?」

 素直な感想を述べるが、真希の「だったら」のところで頭を下げた。彼女だって好きで、こんな提案をしているわけではないのだ。

 二人の同意を得た真希は満足げに立ち上がると、

「じゃあ、顧問には「図書館で読書をし、小説をかく活動」って言っとくね」

 と、言い、二人の返答を待たずにして部室を出て行った。

「りょうかーい」と、間抜けな返事をして、真希を見送ると、京太郎は書きかけだった新聞作りに戻った。




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