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Y氏に告ぐ  作者: 麦子
3/5

3、ラムネ色の夕方

昼間の空き地には爽太郎は現れないということが判明したのはつい最近のこと。青空の下の空き地には古びた木の椅子だけがぽつんと置かれているだけで、その光景はなんだかひどくもの悲しかった。


わたしは、夏休みに入ってからほぼ毎日夕方になると爽太郎のいるこの空き地に足を運んでいる。今日は駄菓子屋さんで買ってきたラムネを二本、ミニドーナッツ四個入りを持って空き地を訪れた。

ラムネを爽太郎に渡すと、眠たそうな黒い瞳をぱちぱちと瞬きさせて、カーディガンで隠れていた手のひらでゆっくりとラムネを受け取った。



「ろくちゃんが買ってきてくれたの?」

「うん。昨日お小遣いもらったから」

「おぉー。最近の小学生は太っ腹だなあ」



ありがとうと笑った口元で、爽太郎は豪快にラムネを飲んだ。カラカラとビー玉が涼しげな音をたてて、ラムネのビンの中で転がっている。



「ラムネって、プールみたいだよな」

「そうかなあ」

「うん。ほら、太陽の光に当てるとさ、キラキラしてて、プールの色に似てる気がする」

「もう夕方だから、オレンジっぽいけどね」

「確かに」



コロコロ、コロコロ。

透明な水色でコロコロ泳ぐビー玉みたいに、爽太郎はコロコロと表情を変えて笑う。

ラムネのぱちぱちした味が喉の奥で弾けるたびに二人で爆笑していたら、犬の散歩をしていたおばさんに凝視されてしまった。


「爽太郎、変な目で見られちゃったよ」

「ろくちゃん、ドンマイ」

「爽太郎もでしょ!」



他人事のように笑い飛ばされるから、どうでもよくなってしまう。爽太郎の笑顔には不思議な力があるのかもしれない。



爽太郎にビー玉をあげると、嬉しそうに指でつまんで夕焼けのぼやけた光に当てていた。

なんだかそのビー玉が、爽太郎みたいだと空っぽになったラムネを握り締めながらぼんやりと思った。




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