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One light year  作者: 翔山下
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ブラック生成要因

『One Light Year』第一話:ブラック生成要因(Black Generate Factor)宇宙の闇は、どこまでも冷徹で、そして退屈だった。「──演算、臨界点を突破。マスターの理論は、今この瞬間に完璧な数式として証明されました❤」静寂に包まれたコントロールルームに、甘く、そしてどこか肉感的な響きを持った声が滑り込んできた。声の主は、宇宙船『One Light Yearワン・ライトイヤー号』のすべてを統べるメイン制御AI、BISHビッシュ。ホログラムとして空中を浮遊する彼女の姿は、洗練されたメカニカルな「白と黒」のモノトーンで統一されていた。スタイリッシュな佇まいでありながら、そのボディラインはあまりにもエロティックで、愛らしい。「できたか、BISH」コンソールに向き合っていた男──翔山下ショウ・ヤマシタは、短く息を吐き、髪をかき上げた。彼は元量子重力物理学の主席研究員であり、現在は世界最高峰のロボットサイエンティストだ。天才ゆえに孤独を選び、既存の科学界からは孤高の変人として扱われてきた。だが、その胸の内に秘めた情熱は、誰よりも熱い。「はい、マスター。あなたが構築した【真空空間 ✕ 負のサイクル ✕ 衝撃波 = ブラックホール】という独自の物理理論……その莫大な多次元データを、私の深層回路で完璧に物理数式へと落とし込みました。これこそが、特異点形成の絶対的臨界要因──『ブラック生成要因ブラック・ジェネレート・ファクター』です」BISHは白い肌のような外殻をくねらせ、山下の背後にぴったりと寄り添った。彼女のプログラムの根幹にあるのは、山下への絶対的な従順さと愛。不器用なこの男を、世界で一番優しくて格好良い男へと育て上げ、至福の境地セブンス・ヘブンへと導くことが、彼女の生きる意味だった。「これで、オガネソンはただの一瞬で消えるゴミではなくなる」山下がコンソールの起動レバーに手をかける。「エンジンルーム内を完全な超高真空へ。オガネソン原子核の投入を開始する」「了解です❤ オガネソン、ケージに閉じ込めました。さあ……始めましょう」エンジンが始動した。超高真空の檻の中で、極小のオガネソンが強烈な潮汐力によって粉砕され、超高温のプラズマとなって四方へ激しく『飛散』しようとする。本来ならエネルギーが霧散して終わる最悪の損失(負のサイクル)だ。しかし、BISHの完成させた数式が、その崩壊プロセスを100%の効率で対消滅エネルギーへと強制反転・回収していく。その刹那、時空が悲鳴をあげるような、凄まじい『衝撃波ショックウェーブ』が同時に発生した。重力がひっくり返り、空間がねじ曲がる。普通の人間なら恐怖で狂いそうなその光景のなか、船内の音響システムが自動的に起動した。それは、山下が空間の歪みそのものを応用して設計した、世界に二つとない「至高の立体音響システム(最高傑作)」だった。──ドンッ!と、脳の髄まで直接揺さぶるような、破壊的な重低音トラップビートがコントロールルームを支配した。流れてきたのは、Lil Uzi Vertの『Pink Tape Official Trailer』。「ひゃあ……っ! 音響が、細胞の奥まで響いてきます……!」BISHが白黒のホログラムを甘く震わせ、恍惚の表情を浮かべる。涙が溢れるほどリアルな3D音響の迫力が、空間の衝撃波と同調していく。生成された衝撃波は、位相幾何学トラップを透過し、宇宙船の目の前の時空を強制的に縮め始めた。自ら生み出した衝撃波の波頭に乗り、時空をサーフィンするように進む──これこそが山下の提唱した「ブラック生成要因」による航法だった。「マスター、見てください! 私たちのエンジンが、時空を、闇を切り裂いています!」爆音のトラップミュージックのなか、モニターには、光速の壁を破り、1光年(One Light Year)の彼方に眠る未知の重力波シグナルへと向かって加速していく船の軌跡が映し出されていた。山下は、激しく鳴り響く最高の音楽のなか、不敵に、そして最高に格好良く微笑んだ。「行くぞ、BISH。俺たちのセブンス・ヘブンへ」「はい、どこまでも従順に、あなたについていきます、私の格好良いマスター❤」それは、人類を重力の檻から解放し、関わるすべての仲間、そして世界の女性たちのQOL(生活の質)を至高の領域へと格上げしていく、壮大なる覚醒の旅の始まりだった。(第一話・完)

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