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腹が減った夜のスーパーの焼き芋
仕事帰り、スーパーに寄っただけだった。
牛乳と、明日の朝のパンだけ買うつもりだったのに。
入口を入った瞬間、甘い匂いがした。
(……焼き芋)
レジ横の機械の中で、アルミホイルに包まれた芋が並んでいる。
別に好きというほどでもない。
でも、腹が減っているときにあの匂いを嗅ぐのは反則だと思う。
気づけば一本取って、カゴに入れていた。
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家に帰って、コートも脱がないままキッチンに立つ。
袋を開けると、湯気が立った。
手に持つだけで温かい。
半分に割ると、中から黄色い身がほろほろ崩れる。
ひと口かじる。
甘い。
砂糖なんて使っていないはずなのに、ちゃんと甘い。
(……うま)
それだけで、今日あった細かいことがどうでもよくなる。
帰りの電車で押されたことも、
上司のどうでもいい注意も、
全部、少し遠くなる。
テレビもつけず、
立ったまま焼き芋を食べる。
静かな部屋に、甘い匂いだけが残る。
特別な日じゃない。
仕事は相変わらず疲れるし、
明日もまた同じ一日だ。
それでも。
腹が減った夜に食べる焼き芋だけは、
少しだけ、
生きててよかったと思わせてくれる。




